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第19話


「おはよう~」

 ディオが頭にアウルムを乗せたまま朝食を作っていると、目を擦りながらルルカが起きてきた。

「おはよう、母さん。父さんは?」

「まだ寝てるわ。昨日遅かったみたいだから。もうすぐ起きてくると思うけど。」ルルカは欠伸をしながら言った。

「そっか。」

 トトトトと手際よく野菜を切りながらまだヴォルがまだ寝ているという寝室の方へチラリと視線を送った。


 昨日、ヴォルは洞窟の確認に行って、夕食の時間にも帰って来ず、結局ディオが寝る時間にも帰って来なかった。

 調べていて何かあったのか、ディオは気になったがヴォルが帰って来なかった為聞けなかった。


「母さん、昨日も話したけど、今日はこれから村のみんなに説明に行くから。その後は魔導回路の為の原材料を採りに森に行くからね。」

 手を止めずに朝食を作りながらルルカに話しかけた。

「はいはい。森には気を付けて行くように。って言っても聞かないだろうけど。」

 ルルカは顔を洗いながら呆れるように返事をした。


「にしても、村全部の畑にスキルをかけるなんて・・・」

 顔を洗って意識がさっぱりとしたルルカは、横で飄々とした顔で手際よく朝食を作っているディオを見て思った。普通は思いつかないだろう事をポンポンとやってのけるディオはやはり他の人とは違う。親の色眼鏡を抜きにしても。

 

「ディオ、森に行くのか」

「あ、父さん、おはよう。」

 寝室からヴォルが出てきたかと思うと、話が聞こえていたのか、出てきて早々にディオに問いかけた。

「ちょっと洞窟に行こうと思って。ご飯もう出来るよ、ちょっと待ってね。」


 食卓にディオが作った食卓が並び、三人でそれを囲い「いただきます」のあいさつで各々食事を始めた。

「父さん、昨日遅かったんだね。」ディオがヴォルに切り出した。


「洞窟で何かあった?」

「そうだな、洞窟自体には異常はなかった。だがお前の魔力ではない魔力の痕跡が残っていた。直近のもののようだった。」

 直近のものだって?

「また誰かが洞窟に入ったって事・・・?」

「そうなるな」

 ヴォルはあくまで冷静だ。ディオも冷静に思考を巡らせる。

 アーケールの卵がどうなったのか確認しに来たのだろう。あれだけ瘴気に侵された卵が孵っていたら、アーケールはどうなっていただろうか。

「ディオ、手が止まっているわよ。」

 考えに夢中で食事が止まっていた。

「アーケール様の卵の確認に来たのだろう。どんな奴かは知らないが、予想と違った事が起きたから確認しに来たというところだろう。」

 父さんも同じ考え。そりゃそうだよな、俺が仕掛けた犯人だったとしても同じ行動を取るだろう。


「父さん、それ以外は?帰りが遅かったって事は他にも何かあったんでしょう?」

 食事を再開させながらヴォルに尋ねた。

「ああ、珍しくユニコーンが近付いてきてな。お前の友だと言っていた。」

 ユニに会ったのか。ユニコーンが自ら接触を図るのは珍しい事だ。恐らくディオの血縁であるヴォルの魔力に反応して出てきたのだろう。

「元気にしてた?」

「ああ、一族全員変わりないと伝えてくれと言われた。」

「そっか。」今日洞窟に行くついでに顔を出そうかと思っていたけど、みんな無事なら何よりだ。


「奇妙なのが、あの警戒心の強いユニコーンですら最近洞窟に近付いた者がいたことに気付いていなかった。」

「え?」そんなのおかしい。ユニコーンの警戒範囲は数キロ単位だ。見知らぬ者が近付けば気付かないはずがない。


「でも確かに、はじめ瘴気に侵されていた時もユニは侵入者に気付いていなかったみたいだった・・・」

「ユニコーンの警戒網を潜れる者はそうそう居ないだろう。」

「確かに変ねぇ・・・」ルルカも異常な事態が起きている事に頭を傾けた。


《隠密の加護だな》ディオの頭の上にくっついていたアウルムが放った。

「隠密の加護?」

《隠密の加護ならユニコーンの警戒網だって潜り抜けれるだろうし》

「なるほどな・・・」とヴォルは顎に手をやって、納得したようだった。

「隠密の加護持ちが絡んでいるなら余程の事じゃない・・・」

 ルルカが焦ったように言った。


 隠密の加護は、錬金術の加護と同等に希少価値が高い。皇室の隠密部隊に所属していればまだしも、多くは暗殺ギルドや犯罪組織に身を寄せている者が多い。


《まぁ洞窟に魔力の痕跡を残すくらいの奴なら大したことは無いだろう》

「組織の端くれか・・・それともわざと痕跡を残したのか。」ヴォルの鋭い洞察がディオの意表を突いた。

「何で痕跡を残す必要が・・・?」

「考えられるのは警告。そうなると厄介だ。なんせあの洞窟にはお前の魔力が至る所に残っている。魔力を元にお前に辿り着く可能性もある。」


 急に身の危険が迫っている事を突き付けられた。

 ・・・セルピナ様?俺は平和に生きたいんですけど。と心の中でひどく落ち込み、深いため息をついた。


《主なら別に狙われようとセルピナ様の加護でどうにでもなるだろ》

 そういう問題じゃないんだよな・・・。命を狙われてるか狙われてないかそれが重要なんだよ。日本なら命を狙われるなんて犯罪組織関係者くらいだろう・・・。


「ディオ!心配しなくても母さんと父さんが守ってあげるから!!」いつになく真剣な新緑の瞳が力強くディオを見つめている。

「アカデミーに行っている間も心配するな。あそこの警護は厳重だ。なんせ各国から貴族様も来るくらいだからな。」

 まぁお前なら大丈夫だろうと言葉の裏が聞こえてきそうなヴォルの空色の瞳も優しい眼差しをしていた。


「ディオ、時間大丈夫?」

 洞窟の事ですっかり頭から抜けそうになっていたが、そういえば今日は村のみんなに畑の土壌改良について説明をするとエンリケがみんなを集めているはずだ。

「やばい!行かなきゃ!」残っていた朝食を平らげて、食器を下げ洗おうとした時、

《主、だから“浄化”すればいいだろう。》

 あ、なるほど。こういう時にも使えるのか。

 使い終わった食器に向かって“浄化”のスキルを唱えると、新品のように綺麗になった。

「じゃあ行ってきまーす!!」

「いってらっしゃい!」と飛び出していったディオの背中にルルカの送り出しの言葉が追いかけた。


「・・・あの子、さらっと何かスキル使って行ったわね。」

「ああ、“浄化”だな」

 高度スキルをさらっと皿洗いに使うディオに、ルルカはもう何も言えなかった。


 身体強化のスキルで脚力を高めながら村の畑へ急いだ。

 畑にはもう、エンリットとエンリケ、そして畑の持ち主の村人たちが集まっていた。

「ご、ごめん!お待たせ!」

 遅いぞーとヤジを飛ばしながらも怒っている村人は誰もいない。優しい人たちばかりなのだ。


「えっと、昨日エンリケから話を話を聞いてると思うけど、村の畑に色々スキルをかけたいと思うんだ。」

 ディオはどんなスキルをかけるのか、どんなメリットがあるのか集まった人々に、“土壌改良”で様々な植物を育てられるようになること、“発育促進”でこれまで以上に収穫の間隔が早くなること、“状態維持”で“土壌改良”した土質の維持や雑草の予防になる事、そして現段階で収穫時期を迎えていない作物は発育促進をかけて一時的に成長を促し、収穫可能な状態まで生育する事を説明した。


「と、こんな感じなんだけど、どうだろう?デメリットは、しいて言うなら発育促進で収穫の間隔が早くなる事くらいだと思うけど、二毛作も可能になると思うし、土壌改良のおかげで連作障害の心配もない。メリットの方が大きいと思う。」

 プレゼンを終えてみんなの反応を確認して、「これでよければスキルをかけていきたいと思うんだけど、どうかな?」と聞いたところで、

「ディオ、頭に乗ってるのは何だい・・・?」

「気になって話半分しか頭に入って来ねえぜ」

 みんなの視線が自分に集中しているのかと思ったが、実際はアウルムが気になっていたようだ。

「あ、ああこれはじいちゃんからの誕生日プレゼント・・・ははは・・・」

 そりゃ頭にドラゴン乗せてたらそっちの方が気になるか。

「ああ、ヘリオネシア様からの」そしてこの説明で納得してくれるのである。


「話は半分くらいしか頭に入って来なかったかもしれんが、ディオがやることに反対はないさ。」

「とりあえずデメリットよりもメリットの方が多いという事でしょう?」

「育ててみたい野菜に挑戦できるってことよね」

「連作障害を気にしなくて良いのは助かるな」

 もともと肥沃な土壌の分、スキルをかける必要はないと反対意見も出るかもと思っていたが、みんな二つ返事で賛成してくれた。

「反対は無いようだから、ディオ、頼んだぞ」

 エンリケに促されて、ディオは頷き、さっそく畑全体にスキルを施していった。


 家の畑の何倍もある大きさだからかスキルをかける時に魔力を消費している感覚があったが、魔力回復の加護のおかげで疲労を感じることなく作業を終えることができた。


「はい、これで終わり」一瞬のうちスキルをかけ終えると、村人たちはポカンとした。

「え、もう終わったのか?」

「これで終わり?」


「うん、さっき説明した通りスキルをかけたよ。発育促進で生育を促したやつはそれぞれの畑の前に置いてあるからね」

 あっという間に終わった作業に村人たちは呆気に取られたが、にこっと笑うディオをみて、はははと笑い出した。


「さすがルルカとヴォルフフィードの子だな!普通じゃ考えられん!」

「雷に撃たれても無傷の奇跡の子!」

「お前がアカデミーから帰ってくるのが今から待ち遠しいよ」

 村のみんなもディオが普通ではない事は薄々分かっていた。クォータードラゴンであり、雷に撃たれても元気ピンピンの子。それでも今まで普通に接していたのは、ディオが根っからの優しい子だとみんな知っていたからだ。

 いつもルルカの世話を焼き、村の困ったことがあれば助け、手伝いを頼めば嫌な顔をせず手伝ってくれる。森に遊びに行くのが大好きな、そこらの子どもたちと比べたらちょっと賢い出来た子。それが村のみんなが抱くディオのイメージだった。

 ディオは目立たないように生きてきたようで、しっかりとその存在をみんなの中に残していた。


 村のみんなの笑顔をみて、ディオはほっとした。少しはみんなの力になれただろうか。

「大丈夫だと思うけど、もし何か気になることがあったら言ってね!それじゃあ俺行くよ!」

 ありがとな~!と感謝の言葉を背に、手を振りながらディオは森へと向かった。



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