第18話
畑にスキルを施した後、ふとディオは思った。
「アウルム、魔導回路はいつ使うんだ?状態異常のスキルを施したから畑には必要ないんじゃないか?」
《畑の周りに回路を埋め込んで、畑を荒らすものを感知して追い払おうと考えていた。》
「畑を荒らす?虫とか野生動物の事か?」
《それも含め、畑に害をなすもの全般に対してだな》
電気柵みたいなイメージかな・・・。
アウルムの説明を聞いて、ディオは少し考え込んだ。
・・・それなら・・・いやまず村長の許可を得る必要があるな。
ディオはルルカに声をかけてから村長エンリットの家に向かった。
ディオたちの家は村の端にあるが、ほとんどの家は村の中心に集まっていて、畑は家々の裏手の広大な地をそれぞれの家の担当として分けているような感じだ。
身体強化のスキルのおかげで、エンリットの家にはすぐ着いた。
コンコン、とドアをノックすると、家の中から返事の声が聞こえ、ドアが開いた。ドアを開けてくれたのはエンリケだ。
「おうディオ。どう・・・した?!」
エンリケはディオの肩に留まっているアウルムを見て驚愕した。
まぁこういう反応になるよね・・・。
「あー、これは誕生日プレゼントにじいちゃんがくれた従魔のアウルム。」
《俺はルピナス様の化身だぞ!》アウルムが抗議するようにディオの頭にわしッと飛び乗った。
ここは穏便に過ごしたいし、誰も傷つかない嘘なら許してくれ・・・。
起きたら枕元にありました、なんて普通は信じてもらえないし突っ込まれるだろうからな・・・。
「そ、そうか・・・。ヘリオネシア様からのプレゼントなら納得だな。いやしかし、ドラゴン族っていうのは本当に規格外だな・・・」
「はは・・・村長にちょっと相談があるんだけど、いる?」
「あ、ああ。いるぞ。入れ。」
「あら、いらっしゃいディオ。」
家の中に通されると、台所にエンリケの妻のロクシアが笑顔で出迎えてくれた。
「お邪魔します」とディオも頭を下げて笑顔で挨拶をした。
家の奥に進むと、暖炉の前のロッキングチェアに座るエンリットの姿があった。どうやら寝ているようだ。
「寝てるなら別に後日でもいいけど・・・」とエンリケに言ったが、気にするな、とさらっと返された。
「親父、親父。」ロッキングチェアに座るエンリットの肩を叩き、揺らしながら、エンリケはエンリットを起こした。
エンリットは眠りから覚めてしばしぼーっとしていたが、視界の端にディオが映り、優しく微笑んだ。
「ディオ。よく来たな。尋ねてくるなんて珍しい。」
「親父に相談があるんだとよ。」
「ほう?」エンリットは背凭れに寄しかかっていた背を起こした。
「えっと、二つあって・・・。その、アカデミーに行く前に村に恩返しがしたくて」
ルピナス様から世界を発展させろと言われたが、それをそのまま言うわけにはいかないので、それらしい言い訳にすり替えた。
「ほう、まさかディオがそんな事を考えていたとはな」
「そんな事気にしなくていいのに」エンリットもエンリケも、ははっと笑った。
「して、何をしたいんじゃ?」エンリットは優しい微笑みを見せながらディオに問うた。
「えっと、まず一つは村の畑全部を土壌改良したいんだ。」
「ほう?このエトワールは元々土壌が良い。だからこそ特産品として街に売りに行っているのだぞ。」
エトワールというのはこの村の名前だ。
「それはわかってるんだけど、俺が持ってるスキルでこの村のみんなの役に立ちたいんだ。俺のスキルで畑を土壌改良させてくれれば、きっと品質も上がるし、利益も増えるだろうし、良い結果に繋がると思う。」
「ふむ・・・。となると畑を持つ住人たちから許可を得る必要があるな。儂一人の裁可ですべてを決めてしまう訳にはいかんからな。許可を得るにはそれなりの納得させる理由が必要じゃ。」
エンリットは年老いてはいるがやはり村長だ。自分だけの裁可ではなく住人の意見もきちんと聞く。そしてそれを納得させる理由が必要だと自分にプレゼンを求めている。
前世を思い出すな、プレゼン・・・。一度も通ったことがないから良い思い出はないけど。
「えっと、俺が畑にかけたいスキルは3つ。」
「3つも?!」横で一緒に話を聞いていたエンリケが驚いた声を上げた。そしてそれをエンリットは手で制した。
「“土壌改良”、“発育促進”、“状態維持”」
ディオはそれぞれのスキルの効果を順々に説明し、エンリットはそれを穏やかな瞳で黙って聞いていた。
「ディオにそんなスキルがあったとはな・・・」
「このアウルムが教えてくれたんですよ」頭に乗っているアウルムを指差した。
アウルムは話がつまらないのかディオの頭の上でくつろいでいた。欠伸までして。
「ただこの方法をするにはやる前に、全部の作物を収穫しておく必要があります。」
「そうするとまだ生育途中のものはどうする?」エンリケが割って入った。
「生育途中のものは“発育促進”のスキルで収穫可能なところまで成長を促します。」
「ふむ、なるほど。エンリケよ、悪いがそれぞれ村の者へ話をして、明日畑に集まるように伝えてくれるか?」
ディオの説明を一通り聞いた後、エンリットはエンリケに指示を出し、エンリケは早々に畑の所有者たちのところへ向かった。
「村長、それじゃあ・・・」
「うむ、やってみなさい。ディオの提案に乗ろう。ただ、あくまでも賛成した者の畑だけにしてくれ。」
「わかりました!村長、信じてくれてありがとう!」
ふふふ、とエンリットは笑い、再び背凭れに背を預けた。
「ディオ、相談は二つあると言っていたろう?あと一つは何じゃ?」
「あーそれは・・・」ちらりと頭の上に乗るアウルムを見た。
まだこの方法は実践したことないし、ぶっつけ本番になるけど・・・
「この村を囲っている柵があるよね?」
「ああ、ところどころ壊れたりしているがな」はははとエンリットは笑った。
「その柵をこの村を守る防御柵にしたいんだ」
「柵を強化するということか?」
「いや、そうじゃなくて、魔導回路を練り込んで、この村に敵意や害がありそうなものの侵入を防ぐようにしようと思うんだ」
「魔導回路を練り込んで・・・」
エンリットは下を向き、身体を震わせた。
「え、村長?大丈夫?」ディオはエンリットが体調でも崩したのかと心配して近づいたが、
「ふはははは!」とエンリットの大笑いに驚いた。
「そんなことを思いつくとはな。いや、思いついたとしても、そうそうできる事ではない。」
エンリットは笑いで濡れた目くじらを指で拭った。
「しかし所々壊れているところもあるし、村全体となると大掛かりになるじゃろう。アカデミーの入試までには間に合うか?」
「あー、アカデミーの入試・・・」っていつだ?家に帰ったらすぐ確認しよう・・・。
《主であれば二三日もあれば十分じゃないか?》アウルムが頭の上で寛いだまま言った。
あ、そう・・・。
「それまでには間に合わせるよ」とエンリットに答え、
「それなら良いが、無理はするでないぞ」というエンリットの言葉に笑顔で返した。
「ふぅ・・・」
エンリットの家を出て、溜め息をついた。少し緊張していたようだ。
とりあえず今回のプレゼンは成功で良いのかな・・・?成功したことないからわからないけど・・・。
「さてと・・・」
畑の事については明日またみんなに説明するとして、今俺がやるべきなのは、村を囲う柵の現状確認だな。
いつも馬車が行き来する門扉から、ぐるっと村を囲うように伸びてる柵の状態を身体強化してすばやく見ていく。
所々朽ちていたり、壊れていたり、柵と言ってもただ村の範囲を示すだけで侵入者を防ぐ目的で作られたのではなさそうだ。
うーん・・・これは何か作り直した方が早いかもなぁ・・・。
走りつつ修理箇所が思っていたよりも多いと感じたディオはいっそのこと全て作り直してしまおうかと考えた。
「アウルム、この村を囲うくらいの魔導回路を作ろうとしたら、どのくらいの材料が必要かわかるか?」
《わかるにはわかるけど・・・言葉で説明するのは難しいな》アウルムは身体強化の速さで飛ばされないように、ディオの肩に掴まって流れに身を任せていた。
アウルムであればディオの身体強化と同じスピードで飛べるだろうが、面倒らしくディオにくっついていた。
「そしたら洞窟で採掘しながらだったらわかるか?」
《足りるか足りないかくらいはわかると思うぞ》
「そっか。じゃあ明日村のみんなに畑の説明をしたあと、森に行こう。」
スタタっと走りながら、明日の予定を立て、柵に沿ってぐるりと村を一周する頃には、ちょうど日が暮れ始め、ディオは帰路に着いた。




