第17話
アウルムの件ですっかり忘れられていた朝食を、ルルカが温め直して、再びみんなで食卓を囲んだ。
アウルムはディオの肩で大人しくしている。
「いただきます。」と手を合わせて朝食を食べ始めるが、どうにも気になる・・・。
「アウルムは俺の魔力が必要なんだろう?」
《主の身体からは常に魔力が垂れ流されてるからこうして肩に留まっているだけで十分だ。》
「あ、そう・・・」
俺魔力垂れ流してるの?なんか嫌だな・・・というかそれって大丈夫なのか?
「ディオ、スプーン口に加えたままにしない」とルルカに注意されて即座に“ごめんなさい”と謝った。
「恐らく魔力量が多すぎて体内に留めておけないんだろう。」
アウルムとの会話が聞こえているヴォルが口を挟んだ。
「えー?なになに~?」会話に入れないルルカが仲間に入りたそうに割り込んで来る。
「ディオの魔力量が多いからアウルムの食糧は心配いらないってことだ」
なるほどね~とヴォルの説明で納得したルルカ。
「そんなに魔力量多いの、俺?」
ふふっとルルカが嬉しそうに笑った。
「ディオは私とダーリンの子だからね~」
・・・なんだそりゃ。ディオの呆れ顔にヴォルが笑う。
「もともとドラゴンというのは他の生き物に比べて魔力量が多い。クォーターだから普通のドラゴンよりそこまで多いわけではないが、ルルカの錬金術師の加護を受け継いだのだろう?錬金術師や魔法師などは比較的魔力量が多い。錬金術師とドラゴンの血筋の掛け合わせで、より多い魔力量を持っているのだろう。」
「へー・・・」なんかラッキーなんだな、俺。
《しかも主の魔力はすこぶる気持ちいいぞ!うまいし!》
「あ、そうなの・・・」美味いのはよくわからないけど、アーケールも心地よいとか言ってたかも・・・。
朝食を済ませた後、出来てなかった日課の畑の世話をしようと外に出た。
《主、何をするんだ?》
「畑に水をやるんだよ。野菜が枯れないようにね。」
“雨降らし”のスキルでササっと畑を適度に濡らした。
《セルピナ様がちゃんとスキル使いこなせって言ってただろ?》
「え?スキル使ってるけど・・・というか、セルピナ様との会話知ってるのか?」
《俺はセルピナ様に創っていただいた、いわゆる化身みたいなものだからな。セルピナ様のご意思とかわかるんだ。》
「えええ・・・アウルム、ただのドラゴンじゃないのね・・・」
だから父さん、黄金のドラゴンってわざわざ言ってたのか・・・。
《主はアカデミーにも行くんだろう?その間誰が畑の世話をするんだ?》
「えっと、母さんか父さんがやると思うけど・・・」
《セルピナ様は世界の発展を望んでいらっしゃるだろう。もっと与えられたスキルを活用してみろ》
「と、言われても・・・」
与えられたスキルと加護は膨大な数だ・・・それを一つ一つ内容を確認してたら日が暮れるどころじゃない。
「収穫と雨降らしだけでも十分楽になってるけどなぁ・・・」
《それじゃダメだ!主がいない時でもできるようにすること、まずはこれだな。》
アウルムは小さな黄金の羽をパタパタさせながら、腕を組んで言った。
「自動化するって事か?できるのか?そんな事。」
《魔導回路を組み合わせればいい》
「魔導回路?」
《主は錬金術が使えるのだろう?であれば魔導回路を作ることも容易いはず》
錬金術関連なら、母さんの専門だな。聞いてみるか。
「母さん、ここに居たの」
家の作業部屋にいるかと思ったら、先日ディオが作った温室に居たルルカ。
「せっかくディオが作ってくれたんだもの。活用しなきゃね!ラナニ草の栽培が肝ね!」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど、いま忙しい?」
「やだ!ディオが私に質問?!私が頼りって事ね?!なになに?!」
ディオの異質さに最近気圧されていたが、頼りにされる事が余程嬉しいらしい。
「忙しいなら後ででも良いんだけど・・・」
逆にルルカの圧に若干後退った・・・
「ディオより重要な事はないから!」と瞳を輝かせた。
「あ、そう・・・ありがとう。あのさ、魔導回路の作り方って知ってる?」
「魔導回路?」興奮気味だったルルカが、ディオの言葉にきょとんと落ち着いた。
「あれ?教えたことなかったかしら?簡単よ~」
「教えてもらってないよ・・・」
この母よ・・・お天気さんめ・・・。簡単ならいいか・・・。
「まず魔導回路って何?」
「え?知ってて言ったんじゃないの?」
「あー・・・アウルムが作れって」横で飛んでいるアウルムを指差して言った。
「アーちゃんが?へー。まぁ良いわ。作業部屋行きましょ!」
温室から作業部屋に移動しながら、
「あれ、そういえば父さんは?」
そういえば父の姿が見えないなと思って聞いた。
「あー、ディオの言ってた洞窟を見てくるって言ってたわ。」
「そうなんだ・・・」
作業部屋に着いたところで、ルルカが腕まくりをして張り切ってふんっと仁王立ちした。何故かご満悦な顔で。
「魔導回路っていうのは、その名の通り魔力を通す回路のことね。イメージとしては水を流す水路と同じよ。」
ふーん・・・電線みたいなものかな。
「で、魔導回路に使う素材もこれまた簡単!銅線と、通信石でも使ったこの鉱石。この二つを練り上げていくだけ。」
「練り上げる?」
「私たち錬金術師の特権ね。錬金術で“分解”と“合成”をして構築するの。」
見てて、と作業台の上に置いた銅線と通信石それぞれに手を置いて、
ルルカが魔力を込めると銅線と通信石が浮き、“分解”と唱えるとそれぞれが粉のように変わった。
続いて二つの手を合わせるように、“合成”と言うと、それぞれの粉が混ざり合って、また一つの銅線に戻った。
「見た目はただの銅線だけど、これが魔導回路。あとは流したい魔法やスキルが込められた魔石と組み合わせるだけね。」
ルルカの手際の良さでいとも簡単に出来上がったが、きっと本来はもっと技術が求められるのだろう。
一発で作ってしまうのも天才錬金術師。
いつもおちゃらけてる能天気な母親だが、こういうところを見るとやっぱり流石だなと思う。
「ありがとう母さん。」
「やっぱりディオは違うわね〜。私は作ってるところを見せただけ。作り方を教えたわけじゃないのに、もう何も言わなくても作れそうね。」
ルルカは両手を腰に当てて、感心と呆れが混ざったように息をついた。
「もちろんやってみてちゃんと作れなかったら母さんに聞くよ。ありがとね。」
御礼なんていいのよ〜と手をひらひらさせながらルルカは一足先に作業部屋を後にした。温室に戻ったのだろう。
作業途中だっただろうに、手を止めてまで付き合ってくれた母さんに感謝しなきゃな。
「アウルム、魔導回路の作り方はわかったけど、これとあと何が必要?」
《あとは魔石に、条件をつけた術の付与をすればいい》
「条件をつけた術の付与?」
プログラミングみたいなことか・・・う、なんか胸が痛い・・・。
前世のプログラミング会社を思い出してディオは少し胸が締め付けられた。
《もう一度畑の方に行くぞ》
「はいはい・・・。」ディオは胸を摩りながらアウルムの言う通り再び畑に戻った。
《よし、じゃあ次は畑の土にスキルをかけていく》
「土に?」
《必要なのは"土壌改良"、"発育促進"、"状態維持"の3つと言ったところだろう。》
「土壌改良?発育促進?そんなスキル持ってたっけ・・・」
《全く・・・授けられたスキルも把握していないとは・・・先が思いやられる主だ》
アウルムがやれやれと言わんばかりに首を振った。
そんなアウルムを横目にステータスウインドウのスキル欄をスクロールした。
「あ、あるわ・・・」
土壌改良は指定した範囲の土をどの野菜にも適した土壌に改良する?
発育促進は土壌改良に上乗せすることで通常の二倍の速度で作物の生育を補助する?
こ、これ農民からしたら最強チートなのでは・・・!何故今まで気付かなかったんだ俺・・・!
《まず土壌改良をしてから発育促進をかけ、その状態を維持するために状態維持を畑全体にかける。あくまでも畑の土だけだだぞ。野菜に状態維持をかけたら育たなくなるからな。》
「きゅ、急に難易度上がったな・・・。じゃあこの際ちょうど収穫しても良いくらい育ってるし、全部採っちゃおう。雑草も抜いといた方が良いよな?」
《それはそうだろう。雑草に状態維持をかけたらただの強力な雑草ができるだけだぞ。》
アウルムは何を言っているんだという呆れた顔でディオを蔑視してきた。
「アウルム・・・?俺はお前の主だよな・・・?」
《名前まで付けておいて、何を今さら。ステータスにも従魔として登録されているだろう。》
若干イラっとしたが、自分のステータスウインドウの上の方に、
確かに従魔として アウルム:ドラゴン と表示されている。従魔のくせに主をそういう目で見るな・・・!
言いたい言葉は飲み込んで、さっさと畑に向かって“収穫”スキルを発動した。
収穫で抜いた野菜たちはよく育っていた。毎日せっせと世話をした甲斐があるというもの。
ディオは達成感をしみじみと感じていた。
雑草は今までコンポストに入れてたけど、今後生えなくなるならコンポストも不要になるな。
母さんに相談するか。
畑の横に設置してある物置は実はアイテムボックスだ。農具を入れてあるだけではなく、今回みたいに一気に収穫した時などは畑のアイテムボックスに入れるようにしていた。が、
いつもアイテムボックスに入れる前に野菜に付いた土などを洗い流していたけど、これが地味に面倒なんだよな・・・。
一度水魔法で試した事があるのだが、洗う動きを操作するのに苦戦して、諦めた。
と、いつものように土を洗い流そうとしていたら、
《何してるんだ?水魔法で洗えばいいだろう?》
「・・・前に試したんだけど難しくて上手くできなかったんだよ」ムッとして答えた。
《ほう・・・魔法操作はまだ未熟って事か》
・・・生まれたてのお前に未熟とか言われたくないけどな!イラっとポイント。
《では代わりに“浄化”のスキルを使えば良いんじゃないか》
「“浄化”スキルを?」
《“浄化”スキルは魔気や瘴気を綺麗にするだけではない。ただの汚れを綺麗にすることにだって使えるぞ。》
「そうなのか・・・」アウルム、意外と使えるのでは・・・。
“浄化”スキルを使って汚れを落とし、野菜をアイテムボックスに収納した。
そしてようやく何もなくなった畑に、“土壌改良”と“発育促進”をかけ、最後に“状態維持”をかけた。
《ふむ、これだけスキルを連発しても疲れないとは。》
「魔力回復の加護のおかげだな」
《元々の魔力量に加えて魔力回復の加護とは・・・ルピナス様もなかなかに突飛な事をなさる・・・》
「あー・・・」
それは多分転生するときになんかわちゃわちゃしてたからだよなぁ・・・。
と転生時の事をふと思い出したディオであった。




