第三話 「わたくしの絶望を、力に変えよ……、わたくしに相応しい指輪を、公爵令嬢としてのわたくしに相応しい輝きを!」
強い感情が表に出た時、自身や相手の本当に望む強い願望を具現化する魔法の力。それが具現化の魔法だ。
その発動には条件がある。
同じ対象者には一度っきりの発動しかできないルールとなっていたはずだ。
だからこそ私は、あの場で二人を呪うことを強く願ったのだ。
もちろんそのルートをクリア済みの私は、発動時の様子はしっかり覚えている。
ロッティが育ってない場合は具現化の発動によりその騎士が死ぬのだ。
あの黒薔薇が騎士の目の前に具現化される。そしてゆっくりと花を咲かせた黒薔薇は、騎士の心臓を深く貫くのだ。それを受けた騎士は石化し、砂のように崩れ落ち風に舞い消え去る。
そんなムービーが流れていたことを思い出す。
願う力が弱かったのだろうか?
それとも私の魔力がまだ育っていないのか?
まずはこの力を完璧にコントロールできるようにならなくては、私の復讐は到底かなえられないだろう。
そう考えていた。
――― 公爵家であるために
数週間が経ち、私の心はひどく冷え切っていた。
修道院での祈りの時間と、簡単な労働に身をやつしながら、頭の中は復讐の為の計画で塗りつぶされていった。
先日届いた手紙でルノワール公爵家は責任を取る形で降爵、子爵となり父は政務から外され、様々な権限がはく奪されたようだ。
『私はお前を信じている。だが、どうやら私はお前の力になることができないようだ。だからせめて、エリザの健やかな人生を、私の生涯をかけて、いつまでも願っているよ』
最後の方には父らしい丁寧な字で私に対する詫びの言葉が添えられていた。
ルノワール公爵家は、父の後を弟が継ぐことになるだろう。
ゆえに降爵についてはある程度予想ができていた。
ルノワール家は代々女性が当主となるのが慣例だ。それは具現化という魔法があるからではあるが、その力は男系からは継承されないのだ。
もちろん分家はある。
だが今は、どの家も具現化の力は途絶えてしまっていた。
だからこそ母は、私を誰よりも厳しく育てたのだ。
皇家に嫁ぎ、娘を産み、そしてその娘にエノワール家を継がせる。
歪ではあるが、何代に一度という間隔で、長きにわたりこの国では行われていたことだ。
そうやって皇家との繋がりを強くし、皇家もまた具現化の危険な魔法が国へと向かないように配慮する。
暗黙の了解が脈々と継承されてきたのに……。
ルノワール家の当主は父だ、だがそれは表向きのこと。家のすべてを取り仕切っていたのは母だった。
だがその母も3年前に他界している。
そして私もここで……。
ゆえにルノワール公爵家は死んだのだ。
そして私の手で、あの浅慮な男と無知な女の所為で、皇家も死ぬのだ。
小さく笑みを浮かべた私は、首元を飾っている呪いを指でなぞる。
思えばあの男との最初の顔合わせは10才の時だった。
そこで私はあの男を、アホな子だと思ったのだ。
あの時の第一印象を信じ婚約を破棄できれば……、ここに来てから何度も悔やんだことだ。
だがゲームの中のあの男は、神々しいまでに素敵な男だったのだ。歯の浮くような甘いセリフも、言動も、そのすべてを許せるような……。
そもそも婚約は決定事項であった。
だから私は努力してこの未来を捻じ曲げようと……、思い返しながら私は頭を抱える。
やめよう。
今更過去は変えられないのだ。
復讐は必ずやり遂げてみせる。
あの身勝手な二人と、彼らを野放しにした帝国を、私は決して許さない。
その為には『具現化』を完全にコントロールする必要がある。
まずはこの修道院から抜け出し、そこから私の復讐が幕が開くのだ。
日を追うごとに憎悪と、絶望から生みだされた屈辱という強い意思は、私の魔力を以前とは比べ物にならないほども大きく育ててくれた。
首元の呪いなど、軽く凌駕できるほどの強大な魔力に。
ある夜、私は修道院の裏手の古い井戸のそばで、誰にも見られぬよう魔法の訓練をしていた。
何度か他のシスターにお願いして試しては見たが、願望が曖昧過ぎるのか私が悪いのか、黒薔薇出す以前に黒い魔力すら出せていなかった。
「私の絶望を、力に変えよ……、私に相応しい指輪を、公爵令嬢としての私に相応しい輝きを!」
その願いに応えるように、身体から立ち昇る黒い靄は目の前に黒薔薇は作り出す。
首元の呪いは強い痛みを私に与え、魔力を封じ込めようとしていた。
だが私はこの程度の呪いでは止められない。
魔力を深く練り込んだ私の目の前で、黒薔薇はいつもと同じように咲き誇る前に飛散して消えた。
ため息をつく。
自身に行使する魔法は一生に一度だけ。
だからこそ今、私は自分の為に何かを具現化しようと試みた。
それは一番わかりやすく、魔法を発動を確信するための第一歩として相応しいことだと考えていた。
復讐を遂げることこそが唯一の願望だ。
今の私にそれ以外の叶えたい願いなど、何もありはしないのだ。
二人に対する復讐は、私に対する魔法を行使することなく実現することができると確信している。
だからこそ、私は、私の為に今、この魔法を使うのだ。
――― 森の番人
再び呼吸を整え両手を広げ願う。
「私の欲望を力に、私は強く願う!この指に、私に相応しい指輪を!」
頭の中をそれでいっぱいにして願う。
公爵令嬢の私に相応しい指輪となればかなりの価値となるだろう。ここを出たその時には、それを売って復讐の際の軍資金にしよう。
そう強く意味を持った願いにして叫んでみた。
「ケロ」
私の足元で、突然小さな鳴き声がした。
ブクマ、評価、励みになります。感想お気軽にお書きください。




