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[全12話]憎しみに憑かれた黒薔薇令嬢は全て壊す為、復讐の魔歌を謳う。  作者: 安ころもっち


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第十二話 「願ってよ!貴方の、ただ一つの本当の願いを!強く、強く、私を残して逝かないで!」


「嫌よ!願いなさい!貴方の命を!唯一つの、命を願って!」


 握る彼の手に魔力を強く注ぎ込む。


 周りには治療をしようと集まってきた白衣姿の男達が輪になっている。


「願ってよ!貴方の、ただ一つの本当の願いを!強く、強く、私を残して逝かないで!」


 魔歌(まか)として成立するのか分からないが私は叫ぶ。

 その声に魔力をのせて。


 この世界にだってロックやデスメタルがあったっていいじゃない!そう思って想いを謳う。


「貴方の声が聞きたいの!願ってよ、その命を、あなたのその手を、暖かい手をまだ感じていたいから!」


 立ち昇る黒い霧は、一凛の大きな薔薇を象ろうと集まっている。


 これならいける。


「願いなさい!本当の願いを!貴方の幸せを、私と一緒に生きるのでしょ!」


 強い魔力を帯びた黒薔薇はその姿をみせ、大輪の花を咲かせた。


 そして彼は、ジェロームは目を開けた。


「ああ、綺麗だ……、やはり君は、白も似合うよ、エリザ」


 私の左手の薬指には、真っ白な薔薇の指輪が大きく花咲かせていた。


「なんで、なんでよ!」


 私は彼に縋りつく。


「なんで一緒に生きてくれないの!私は、私はあなたと生きていたいのに!」


 私の中の魔力が暴走するのを感じる。


「まだ、まだよ!」


 こんな設定、あのゲームにはなかった。すべてのシナリオをクリアしたけど、私の記憶にはなかった。設定資料集だって読み漁っていた。そんな記述はどこにもなかった。


 私は、公爵令嬢エリザベート・フォン・ルノワールは、ただの悪役令嬢で噛ませ犬だったのだ。そんな裏設定など有るはずが無い。


 それでも、できる気がする。


 望みは捨てない。


 この具現化(マテリアライズ)の力が無くなっても良いのだ。もう私の中で復讐の炎は消えてしまったのだから。だから私は願い、謳う!最後の魔歌(まか)を。


「お願い、聞いて、私の力よ。最後の願いで構わないから~」


 私は彼を抱き起し、彼の頭を膝にのせる。


「私の願いはただ一つ、貴方と共に、幸せを生きることだけ~」


 私は彼を見つめながらそっと右手にある黒薔薇の指輪を外す。


「もう、何も、いらないの。最後の願いはただ一つ~」


 私は指輪を握り魔力を強く籠める。


「お願いよ、大切な人よ。愛する人よ。それ以外は何も、いらないから~」


 手の中にあったソレは、私の指を押しのけ宙に浮かぶ。


 周りの者達はその光景をただ眺めているようだった。


「お願いよ~。貴方を、この世のすべてと変えてもいいわ」


 砕けた指輪は、黒薔薇となって宙に浮かぶ。


 大丈夫。

 ここで散ったりはしない。


 そう感じながら見守る。


 身体から力が抜ける。

 私の中の奥深く、何かが無くなった。そんな気がした。


 目の前の黒薔薇は色あせてゆく。

 その光景に泣き叫びそうになる。


「嫌よ!散らないで!」


 私は手を伸ばし、なけなしの魔力を籠めようとするが、それは叶わなかった。

 私の中の魔力が消失しているのを感じる。


 私の目の前で、その黒薔薇は色あせる。


 私は、歪む視界の中、目の前の薔薇は、真っ白な花を咲かせていた。


 その薔薇の白い花びらはふわりと舞い散り、彼の胸に吸い込まれ光を放つ。


 ふたたび瞳を開けたジェロームを見ながら、私の意識はぷっつりと途絶えた。




――― 幸せの歌


 数週間後。


 ジェロームは、私の具現化(マテリアライズ)による魔法と、優秀な医師団の献身によって一命を取り留めていた。


 そして彼の命懸けの行動は、悲劇の黒薔薇、エリザベート公爵令嬢との美しい愛情の物語として広まっていた。


 私はふたたびルノワール公爵令嬢として、ジェロームの元に嫁いだ。


 あの皇太子は、第二皇子のセンドリス共々継承権をはく奪された。


 今は二人で皇家の直轄地、辺境の地に飛ばされ退屈な日常を過ごしている。

 もっとも、センドリスの方は大好きな兄と暮らせて幸せのようだが……。


 ロッティはその身勝手な行いが災いし、終身刑に処された。

 今も冷たい独房でヒステリックに泣き叫んでいるとか。


「エリザ」


 居城の庭園でジェロームが私の手を取り、静かに尋ねた。


「君の魔法は、まだ使えるのかい?」


「ええ」


 私は微笑んだ。


 私自身、一度は魔力が無くなったと思っていた。


 事実、しばらくの間は体内の魔力を感じられず、やはりあの最後の歌は全てを投げ捨てる必要があったのだと納得していた。


 だがその一週間後、私の魔力は以前と同じように、それどころが以前の倍以上に大きくなって戻ってきたのだ。


「でも、憎悪の歌はもう謳いません。私の歌は、愛と幸福を実現する為だけに謳うんです!」


 もう心も魂も、凍えることはない。


 指にある白薔薇のように清らかな魔歌(まか)を、私はこれからも歌うだろう。


 まだ帝国には根本的な欠陥がある。


 それをすべてぶち壊す為、私は天に向け幸せの歌を歌いながら、静かにそれが成されるのを待つつもりだ。


 御父様からは本物の黒薔薇の指輪を返してもらった。


 ジェロームは、あの白薔薇の指輪と対になる青薔薇の指輪を贈ってくれた。


「エリザの瑠璃色の瞳と同じ色だ」


 そう言って左ての薬指に嵌められた指輪は、白薔薇と並んで綺麗に咲いている。


「小太りで意気地のない頃から、初めて君を見た時から私は君に恋をしていた。無実の罪で院に送られた君を助け出そう必死に力をつけ、いざ院に行ったときには、死んだと聞かされた。

 遅すぎたのだと思ったあの時、僕は絶望でそのまま死のうと思っていた。だけど死ななくて良かった、本当に、良かった……」


 ジェロームはそんな昔話を暴露しながら胸に手をあてている。


「ジェローム……」


 私は愛する彼に寄り添った。


「私にとっては貴方の姿なんてどうでも良いの。私に命を懸けてくれた貴方のその想いが、私が一番ときめいたポイントだったよの?」


 そして私は愛するジェロームを見つめ……





 蛙の妖精王ファルネは遠くはなれた森の中から、二人の幸福な様子を満足気に眺めていた。


 彼は知っている。


 エリザベートの心に、ハッピーエンドを呼ぶ「真実の愛」が具現化(マテリアライズ)されたことを。


 エリザベートは、幸せそうにジェロームの耳元で歌った。


 それは魔力を伴わない、でも二人の未来を具現化するほどの想いがこめられた、優しい愛の歌だった。




 憎しみに憑かれた黒薔薇令嬢は全て壊す為、復讐の魔歌を謳う。


 おしまい


これにて『黒薔薇令嬢』は終了となります。

稚拙な物を最後までお読みいただきありがとうございます。またこういった内容の次作を書こうと思っていますので、どうか率直な感想を頂ければと思います。


ありがとうございました(o*。_。)o

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