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[全12話]憎しみに憑かれた黒薔薇令嬢は全て壊す為、復讐の魔歌を謳う。  作者: 安ころもっち


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第一話 「エリザベート・フォン・ルノワール公爵令嬢!貴様との婚約を、今この場で破棄させてもらう!」


――― 婚約破棄


「エリザベート・フォン・ルノワール公爵令嬢!貴様との婚約を、今この場で破棄させてもらう!」


 光の満ちる帝城の庭園。


 新年度を祝う為のその絢爛な場で、衆人環視の中、その声は響き渡った。


 私の婚約者である、マクシミリアン・ディ・グノーシス皇太子殿下は、黄金の髪を微かに乱し、碧眼の瞳を怒りと軽蔑に染めて私を見下ろしていた。


 その隣には、控えめに、しかし確かな勝利の光を瞳に宿した少女が立っている。


「お待ちください、マクシミリアン殿下」


 私は胸元で手を握りゆったりとした口調で尋ねた。


 このような事態であっても、平静を装うことは公爵令嬢としての最低限の義務であった。


(わたくし)に、いかなる理由でこのような御宣告をなさるのか、お聞かせ願えますか?」


「理由など、貴様が一番よく知っているはずだ!」


 殿下は苛立ちを露わにしてさらに私に怒りの視線を向ける。


 その瞳はまるで罪人を裁くかのように、冷たく、憎悪を含んだものに見えた。


「貴様のその冷酷で傲慢な仕打ち、常に平民を見下す尊大な態度!そして何より、私の真実の愛を愚弄したことが許せぬのだ!」


 彼の言う「真実の愛」とは、彼の隣に立つロッティという名の少女への恋慕のことなのだろう。


 つい一年前まで、帝都の裏路地で花を売っていたという平民の娘。


 どちらかと言えば可愛らしい彼女。

 ゆるやかなウェーブのかかったツヤのあるブロンドの髪が、動くたびにふわりと揺れ動いていた。


 彼女こそ、この世界の……、かつての私が前世でプレイしたことのある乙女ゲーム『未来を夢見るプリンセス』の、主人公様(メインヒロイン)であった。


 そのゲームのシナリオでは、私は主人公を虐め続けた果てに、断罪され追放、もしくは処刑、あるいは討伐される役目を与えられていた、いわゆる「悪役令嬢」というやつであった。


 だが私は、前世の記憶を頼りにその運命に抗うように努力した。


 主人公に手を出すどころか彼女値は一切の関りを絶ち、見た目もメイクも目立たぬように、殿下との間に波風を立てぬよう控えめに、されど完璧な婚約者であるように、と必死の努力で生きてきたのだ。


 それなのに結果は変わらず……、シナリオの持つ強制力は私個人の努力を遥かに凌駕しているようだ。


「愛するロッティは、貴様のように人を値踏みしない!彼女の愛らしい見た目は天からの贈り物であり、その心の優しさは帝国の光だ!貴様のような冷たい血の女に、この国の未来を共に歩むことなど、私には我慢ができぬ!」


 殿下はロッティの細い肩を抱き寄せる。


「愛しているよ、ロッティ!」


 ロッティは殿下の胸に顔をうずめ涙声で言った。


「わたくし、エリザベート様を傷つけるつもりなど……、でも、殿下への気持ちは嘘ではありません!」


 私は知っていた。


 その純粋な涙と表情が、周囲の貴族たちの同情を一身に集めることを。


 彼らの視線が冷たい棘となり、一斉に私に向けられることを。


 ああ、身勝手な平民。


 すでにこの世界に転生しこの年まで生きてきた。


 私が完璧な貴族としての厳しい教育を受け、公爵家の膨大な財力と権力を行使する為の能力を最大限に生かせるよう、この帝国の皇后となるべく、血の滲むような十二年間を捧げてきたというのに。


 そして、その苦労を知ろうともせず、全てを捨て、全てを裏切り、平然と愛を叫ぶこのような浅慮な発言をしてしまう残念な殿下。


 私はもう諦めた。

 抗っても無駄なこの世界の強制力に。


「承知いたしました」


 私は静かに、深々と頭を下げた。


「ルノワール公爵家は、皇太子殿下の御決断を受け入れます」


 顔を上げた私の表情は、完全なる「無」だった。

 心の中で何かが音を立てて砕け散り、それと同時に、自身の中に全く別の何かが、冷たく硬く棘のある核となって生まれるのを感じた。


「では、(わたくし)はこれで」




――― 覚醒の魔法


 速やかに退場しようと背を向けた瞬間(とき)だった。


「待つんだ、エリザベート!」


 殿下が勝ち誇った声で私を呼び止めた。


「お前は、自分が持っている特別な力について何も語らなかったな。ルノワール公爵家に代々伝わる『具現化(マテリアライズ)』の魔法のことだ!お前がその危険な力でロッティを害そうと企んでいたことも、私はすでに知っているのだぞ!」


 呼吸が止まった。


 具現化(マテリアライズ)の魔法。


 それは術者、もしくは対象となる者の願望を、真に願う欲望を、現実の物質や事象と変えこの世界に投影するという、極めて稀有であり、極めて危険を孕んだ魔法だ。


 それはルノワール公爵家の女性にのみ発現する能力で、私はそれを誰にも話してはいない。少なくともマクシミリアン皇太子には伝えたことはなかったはずだ。

 公爵家と皇家の機密事項でもあるそれは、新たに皇帝陛下に就任した際に引き継がれる様々な項目のひとつでもあった。それをこんな公の場で叫ぶという暴挙。


 つくづく愛想が尽きた。


「殿下?その話、誰から聞きました?」


「ロッティが、夢の中で見たのだ。貴様が、恐ろしい毒の薔薇で彼女を呪い殺す夢を!」


 ロッティの夢……。


本日もう一話投稿します。


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