第9話 閉ざされた心
アルフたちが次に訪れた街は、街を歩く人の数が極端に少なかった。それだけでなく、四人に気づいた住民は警戒心を露わにして足早に帰宅していく。この街で何が起きているのかを尋ねるべく、人の気配がある家の扉をノックしてみたローナ。「誰かいるんでしょう?この街で何があったのか聞かせてほしいんだけど。」
しばらくすると、警戒心を隠せない様子の女性がドアを開け、四人を中に招き入れた。
「あなた方は……盗賊ではないのですか?」
その言葉にギルとローナは一瞬困惑したが、ためらいながらも正直に元盗賊であることを明かした。
「俺とローナは先日まで盗賊だった。だが、ある集落の人々の生き方に感銘を受けて足を洗ったんだ。」
「私もそんなところよ。人を傷つけてばかりいたけれど、あの集落の人たちはそんな私たちに寝床と食事を与えてくれた。だから、彼らのように人を信じて歩み寄る生き方を広めていきたいって思ったの。」
話を聞いていた女性は「そうだったんですか……実は、この街の近くには盗賊の拠点があって、みんな毎日怯えて過ごしているんです。中には、盗みに入られた腹いせに自分も盗賊に加わる人もいて……。」
ギルとローナは、女性の話を聞いて眉をひそめた。街の住民が盗賊に怯え、さらに一部の人々が盗賊に加わってしまう状況は、フレトス全土の荒廃した現実を如実に示していた。
「盗賊の拠点が近くにあるということは、街の人々が常に狙われているってことか……」ギルは深く考え込みながら、ローナに目を向けた。「俺たちが盗賊だった頃を思い出すと、彼らがどれほど絶望の中で生きているかがわかる。だからこそ、彼らを力で抑えつけるだけではなく、彼らの心を変えることが必要があるな。」
ローナも同意し、続けて言った。「そうね。私たちが変われたように、彼らにも希望を見せてなきゃね。盗賊のリーダーが誰かはわからないけど、その人と話をすることができれば、もしかしたら和解できるかもしれない。」
その言葉にアルフとアビーも賛同した。アルフは決意を込めて、「彼らを倒すだけではなく、守る者としての役割を与えることで、街全体が変わる可能性がある。まずはその盗賊団の拠点を探し、リーダーと話をつけよう」と提案した。
「それが成功すれば、この街の人々も再び外に出て、安心して暮らせるようになるはずだよ。」アビーも自信を持って付け加えた。
女性は四人の決意を感じ取り、目に涙を浮かべながら「ありがとうございます……でも、どうかお気をつけてください。ご武運を祈っています。」と静かに祈るように言った。
その言葉に背中を押された四人は、盗賊団の拠点を探すべく、街を出て周囲の地形を調査し始めた。荒れた道を歩き、森林や山の陰を丹念に探し続ける中で、ついに隠れ家と思われる洞窟を発見した。
洞窟の中には、かつてのギルやローナのように荒んだ表情で武器を手にした盗賊が集まっていた。ギルはその光景に胸を痛めつつも、しっかりと立ち上がり、彼らに向かって声をかけた。
「俺たちは、かつてお前たちと同じように盗賊として生きてきた者だ。だが、今はそれを捨て、別の生き方を選んだ。お前たちにも、その可能性があると伝えに来たんだ。」
盗賊たちはギルの言葉に戸惑い、互いに顔を見合わせた。リーダーと思われる男が前に進み出て、不信感を隠しきれない表情で問い返した。「そんな甘い話で、俺たちが変われるとでも思っているのか?俺たちは、ここで生きるしか道がないんだ。」
ローナが一歩前に出て、静かに語りかけた。「確かに、ここでの生活は生きるための選択肢の一つかもしれないわね。でも、外の世界で人を信じ、助け合って生きる道もあるわ。それを知ってほしいの。」
その言葉に、一部の盗賊たちは目を伏せ、ギルとローナの言葉に思いを巡らせ始めた。彼らの説得が成功するかどうかは、これからの行動次第だが、少なくとも希望の種が盗賊たちの心にまかれたことは確かだった。
アルフはリーダーに向かって、「街を襲って奪うのではなく、共に街を守り、発展させていく者として立ち上がってくれないか?その選択が、きっとお前たち自身の未来も変えるはずだ」と言い、手を差し出した。
アビーが最後に付け加える。
「あなたたちが奪い続けてたら、いつか街の人たちは何もかも失ってしまうよ。もしその時が来たら、街の人も、あなたたちも生きていけなくなると思う。その前に、盗賊をやめて新しい生き方を見つけてほしいの。」
盗賊のリーダーは、しばらくの沈黙の後、アルフの手を見つめ、やがてゆっくりと握り返した。そして、小さくうなずき、「一度だけ、信じてみる」と答えた。
四人はその瞬間、この街が新たな一歩を踏み出すための転機を迎えたことを感じ取った。盗賊たちはこれから自警団として生まれ変わり、街を守る力となるために、四人と共に新たな道を歩み始めることになった。