第四十四話「怒りの裕翔現る」
裕翔の奥底で糸のようなものがプツンと音を立てて切れる。
裕翔(もう、失いたくないと、あれほど願ったのに。もう目の前で人が死ぬのを見たくないと願ったのに。なんでこんなにも世界は...残酷なんだ)
裕翔はフラフラと歩く。
ひたすら歩く。
アビスの元までひたすら。
裕翔「くそぉー!」
裕翔はそんな雄叫びを上げながら怒りで頭がいっぱいだ。
キラー「ん?」
松野「ん、んん?」
キラーと松野が薄く目を開く。
目の前には裕翔が立っていた。
キラー「裕翔...」
裕翔は拳を握りしめる。
裕翔(もう、あいつは許さない!絶対に!)
裕翔の握り拳から血が垂れる。
アビス「ん?なんだ?」
空が急に雷雨になった。
ゴロゴロと典型的な雷の音が鳴る。
裕翔「ふざけやがって、いつもいつも、お前ら悪魔は」
裕翔は過去の出来事を思い出す。
目の前で友達が死ぬ瞬間や、友達が目の前で悪魔になる瞬間が瞼の裏に映る。
裕翔「いつも俺は!」
裕翔は胸を抑えながら、悔やむ。
裕翔「だからもう失いたくない、だからこそ、俺は幻想郷で必死に特訓して。実践を重ねて、強くなったのに。どうして俺は」
裕翔から途轍もない圧を感じる。
アビス「これは?」
珍しくアビスは警戒しているようだ。
裕翔「お前を殺す!」
裕翔はアビスを睨む。
一気に雰囲気が変わる。
裕翔の髪は風に靡いており、稲妻のエフェクトのようなものがビリビリと音を立てて裕翔の周りで発生している。
裕翔はアビスに向けて突進する。
アビス「動きが単純なんだよ!」
アビスは赤い血に染まった紅桜で裕翔を斬るが...
アビス「何?!消えた」
あの裕翔はなんと残像だったのだ。
すると急に雨が降り出す。
アビス「雨?なんで急に」
アビスが気付いた時には遅かった。
裕翔が煙の中から姿を現す。
裕翔「まず左腕。もらったぞ」
裕翔はアビスの左腕を斬ろうとした瞬間、裕翔の脳裏にはやめてという言葉が浮かぶ。
咄嗟に裕翔は刀を鞘に納める。
アビス「ん?どうしたんだ?まあいい」
アビスは裕翔を斬ろうとするが裕翔に最も簡単に地面に叩きつけられた。
アビス「ブホッ!ゴホッ!」
アビスは血を吐く。
そして裕翔は口を開く。
裕翔「早く逃げろ、今からここに生徒会長や警察が来る。だから早く逃げろ」
アビス「俺は逃げない」
裕翔「最後の忠告だ。頼むから、逃げろ」
裕翔は手が震えている。
寒さ故の震えではないのだろう。
おそらく死んでほしくないという願望だろう。
アビスは黒い煙の中に姿を消す。
その後、現場に警察が到着した。
裕翔は事情聴取をされたがキラーがアビスを倒したように話した。
そしてそれから一週間が経った。
星宮学園は冬休みに入っていた。




