後編
翌日もミャオはやって来た。ミャオがくつろぎながら景色を見ていると、やっぱり女の子が来て、それから男の子も来た。暫く話をした後、今日は暗くなる前に帰り始めた。いつもと違い、男の子と女の子はミャオを連れて一緒に帰った。夕陽の赤色は2人を照らしていた。
もう昼間の白い月が見えなくなった頃に、いつもの女の子が来た。
「夕陽が綺麗だなぁ〜。」
にこにこしている女の子。分かるわ、その気持ち。ここは小高くて景色が綺麗でしょ。
暫くすると男の子が来た。夕陽しか見えなくなったからミャオは来ないけど、2人はここで待ち合わせをして、少し話をして帰るようになった。ここ最近は手を繋いで歩いている。仲良くなったのかな?
「私、ここの景色が好きなの。」
「へぇ、ミャオもここによく来てたし、あいつも好きだったのかもな。」
「そうかもね。」
「もしかしたら、ミャオは俺たちを引き会わせるために、ここに来てたりして。」
「ミャオくんったら、恋のキューピッドね。今度ササミジャーキー買ってあげようかな。」
いやいや、ミャオは景色を見に来ていただけだから!それは君たちの都合の良い勘違いだから!でも、仲の良さそうな2人は、この美しい夕焼けがとてもよく似合っていて、私はずっと見ていたいと思った。
※ ※ ※
ある雨の日。今日は一日雨だから、傘を差して歩く人ばかりだった。今日は美しい景色は見えないけど、私は雨の歌が好きだった。
ポツ、ポツ、ポツ、ポツ。一定のリズムで私を打つ。
建物の窓にはトンッ、トンッ、トンッ、トンッ。
傘にはボツッ、ボツッ、ボツッ、ボツッ。
ほら、雨の日って楽しい。
そこにいつもの女の子が傘をささずに歩いて来た。女の子は悲しい顔をしている。雨に濡れているから分からないけど、もしかしたら泣いているのかもしれない。何かあったのかしら。その日を境に女の子はここに来なくなった。
※ ※ ※
最近作業服の男の人たちがよく来る。何かを相談しているようだ。もしかしたら、私はもうここの景色を見れなくなるかもしれない。そんな不安な気持ちでいると、とても良い事が起きた。
もうずっと来ていなかった女の子がここに来たのだ。ううん、女の子じゃなくて、もう立派な女性だった。隣にはミャオの飼い主の男の子。こっちも、もうかっこいい男性に成長していた。そして2人の間には、よちよち歩くかわいい子供がいた。ピンクの服を着てるから、女の子かな。
「ここはお父さんとお母さんの思い出の場所なんだよ。」
「そう、ここにお父さんの飼っていた猫が来なかったら、お父さん達は会ってなかったんだ。」
幼い女の子は紅葉のような可愛らしい手で私を触った。2人は空を見上げていた。
「綺麗な場所よね。小高くて、風通しが良くて、なにより眺めが綺麗なの。ほら、今日もあっちの空に白い月が見えてる。それで反対側には・・ラッキー!今日も夕陽が見える!」
「本当だ。いつ見ても不思議な景色だな。」
「うん。もうここに来るのが最後だなんて、勿体無い。・・・ここに工場が建つんだって。知ってた?」
「うん。母さんも言ってた。この間挨拶回りに来て、明日から工事を始めるって言ってたらしいぞ。俺たちの思い出の場所が無くなっちゃうな。」
2人は悲しそうにしていた。そう、工場を建てるから、ここは無くなるのだ。
「最後にこの子と一緒に見れて良かったわ。」
幼い女の子を抱き上げると、2人は夕陽が沈みきるまで、ずっと景色を見ていた。オレンジ色の力強い光が3人を照らしていて、やっぱり美しかった。空には白い満月、反対側には輝く夕陽。私の大好きな景色。ずっとずっと、忘れないようにしよう。
※ ※ ※
私は「道」。私は長い間たくさんの人達を見守って、景色の移り変わりを見てきた。これは私の美しい思い出だ。
明日私は壊され、私の上には建物が建つ。もう景色は眺められないだろう。壊されたら私はどうなってしまうのだろう。けれども、私の中にはいつだって美しい景色と人の思い出が残っている。思い出せば、いつだって心を動かした瞬間が蘇る。私はそうして、いつまでも、ずっとずっと、思い出す事ができる。
お読み頂き、ありがとうございました。
このお話には2回以上読み返すと意味が分かる表現を入れておきました。興味のある方、お時間のある方は、良ければ何回か読み返して頂ければ気が付かれると思います(私の力不足で分からなかったら申し訳ないです。)探して頂けたら幸いです。
繰り返しになりますが、お読み頂いて、ありがとうございました。