初めての異世界と暑苦しい上司
地獄だと言われたが花や木など自然が溢れる世界に穿鬼はキョロキョロと周りを見渡していた。生に溢れた世界なのにさっきこの目の前の整った顔の男は地獄だと言った。
ならば自分たちの居た世界はなんなのだろうか、地獄よりも地獄らしい世界。
「地獄にしては綺麗すぎないか?想像してたより何というか……。」
穿鬼が言い淀んでいるとニコニコしながら男がさらに顔をよせようとしてきたため手で払いのけ距離を取る。まだ意識の戻らない仲間を背に庇いながら相手を睨みつけるも相手は気にする様子もなく変わらず笑顔のままだ。
(この俺の間合いに簡単に入ってくるなんて、なんだコイツ。気配も変だ。……逃げるか…ただミニスカ達を連れていくにも1人ではこの人数は無理だな。何とか時間をーーー。)
「色々考えているみたいだけど危害は加えないよ。転移の時に聞こえたと思うけど君たちは此処で身を粉にして働く。余の手足となってね。ーーそれにしてもみんな疲れているが健康そうだ。」
一瞬だった。瞬きの間に男は後ろにいる仲間の側に移動し顔色を確認していた。油断などせず常に警戒はしていたのに目の前にいた男は容易く仲間に近づいた。危険だと敵だと認識した。
前の世界のように仲間が傷付く前に守らないと、あの力で殺さないと。黒く沈む精神、化け物へ変わろうとするも何かに阻まれ以前のような変化はない。何度も試すも変化しない身体に驚いていると今度は可愛らしい少年の声がした。
「何を驚いてるの?君の力はこの世界に転移した時に大王様が制限をかけたんだよ。君の力は諸刃の剣だからね。1人で傷付くのはいいけど周りにも被害が出るから危険なんだよ。」
黒い翼の鳥の仮面を付けた少年が空から降りてくる。男と似た服を着ているがズボンが短く手には錫杖に似た棒状の武器らしきものを持っている。
「⁈翼の生えた人類⁉︎ 改造されたのか……というか"大王"?」
「あ〜そう言えば名乗ってなかったな…大王というのは余の事だ。此処では"大王"もしくは"閻魔王"と呼ばれている。これでも王、…地獄の管理者をしている。そして、その子は"閻魔鳥"余の秘書的な役割をしてくれる物だな。他にも王はいるがおいおい紹介するとして……。」
「閻魔…王。それでその魔王様は俺たちに何をさせたいんだ?国の侵略か?逆らう奴を殺す事か?」
閻魔王の間合いを確認しながら倒れている仲間の側に近づきゆっくり両手の拳を握りしめるとトンファー型の1メートル程の盾に似た武器が現れる。軍での相棒であり自分の魂の形をした『魂器』を強く握りしめ攻撃の瞬間を考える。
(攻撃してくる様子はないが、隙もない。武器を何を使うのか…もしくは魔法か、いずれにしても厄介だ。)
「だから攻撃はしないと言ってるのに疑り深い奴だな。それに魔王じゃなくて閻魔王だ。まったく武器まで出して。まぁ良い。何時迄も拉致があかないから取り敢えず君たちの上司を紹介しよう。」
閻魔王が右手を挙げ攻撃されると身構えるも何も起こらず閻魔鳥にも視線を向けるも後ろに錫杖を手に持ったまま背中で手を組み空を眺めているだけだった。
(なんだ。何にも起こらない…いや油断はダメだ。隊長の俺が油断していては何も……!!!!!?。)
突然地面が割れたと思ったがそうではなく空から物凄い勢いで人らしきものが穿鬼と閻魔王の間に落ちてきた。あまりの衝撃に穿鬼は警戒よりも驚きが大きく思わず警戒態勢をとくもすぐに武器を握りしめる。
隕石が衝突したようにクレーターの空いた真ん中に赤く長いタスキをおでこに巻いた胴着をきた青年が立っていた。
「大王様の前で失礼だぞ!空から来るにしてももう少し静かに来れないの!」
「はははっ!鍛錬して飛んできたのでな!君たち突然ですまない!今日から俺が君たちの上司になる十王の1人"五道転輪王"だ!!安心しろ!ここでは死なない代わりに寝る間もなく働ける素晴らしい世界だ!」
穿鬼達の方へ向き敵意のカケラもない屈託ない笑顔の大声で話す男こと"五道転輪王"は手を伸ばしてきた。警戒心は薄れる事はないが反応的に悪いやつではないと感じる。ただ印象としてはーーーただただ暑苦しい奴である。




