プロローグ
俺たちの世界は軍人が1番力を持っていた。軍人以外は家畜のような扱いをされ力、知力が全て完全実力主義の世界。俺が産まれた時からこの世界は決まっていて一人の王様というより独裁者によって支配された世界だった。
俺は一家全員軍人、両親も兄貴達もみんな軍人で軍部中枢にいて階級も上、それに比べて俺は下級軍人のまま。俺の見た目にもよると思うが、こればっかりは変えられない。自分の事は恥ずかしいとも思わないし変えようとも思わない。白髪に赤い眼白い肌に胸にサラシを巻いて毎日軍服に袖を通す。そう俺はこんな喋り方だが生物学上女である。
俺の小隊には四人部下がいる。色々と問題はあるが、自由に出来る俺の隊それぞれ個性が強いが自分を持っている奴らばっかりで本当にいい隊でずっとこのままだと思っていた。
雨が降り硝煙が立ち込める中俺達はかつての同僚に犯罪者のレッテルを貼られ刃を向けられる。腹を撃たれて横たわる副隊長、それを庇って何発も打たれた少佐、片腕がない年若い中尉、顔の半分を失った大佐、そして敵側の独裁者の側にいるかつて信じていた仲間。世界が一転し地獄と化した、俺も片腕の感覚がない、頭も視界もぼんやりする。痛みはとうの昔に感じなくなっていた。ただ目の前の敵を殺したくて殺したくて仕方ない。ドス黒い感情が心と身体を蝕んでいく、この感覚はあの時と似ているから分かる。ここから俺は人から鬼へ変化して同胞を理性ないまま―――――――…
殺して
殺して
殺して
殺して
殺して
―――……何にもない世界に1人になる。
「俺は例え化け物になったとしてもお前たちを全員、肉片も魂も残らないようにこの場から世界から消してやるよっ!!!!」
咆哮と共に俺は裏切り物と独裁者に突っ込んでいく。
一瞬光が見えすぐに紅く染まる視界、肉と骨が擦れ合い音を立てて変化する身体、頭の皮膚を突き破る感覚に俺は俺の意識を手放した。
世界の音が消えたと思ったのに頭の中に文字が浮かぶ。
――『一小隊ブラック世界へ召喚了承されますか?了承される場合はフルネームでサインと印鑑をお願いします。尚、体が資本の世界のため召喚了承されると健康状態はダメージを受けるまえの状態へ戻ります。』――――
ふざけた文字に笑えるが、生憎印鑑は持ってないと伝え血判でも良いのかという問に可なんて文字まで浮かんできた。今より酷い世界だとしても俺たち、“アルマダ部隊”が全員生きていける世界なら何処へでも行ってやる。それがどんな地獄でもその中で生きていつかみんなで幸せになんて思い描くぐらいは夢のなかならいいだろ。
何もない空間に指でサインをして血判を押す、世界が歪み完全に意識が闇へ落ちていき何処までも落ちていく感覚がする。
しばらくするとピコンと可愛い音共に暗闇の中に文字が浮かんできた。
――――――『雇用契約が結ばれました。試用期間はブラックなのでありません。雇用契約取消しもクーリングオフも対象外です。退職代行を使用される場合は武力で交戦します。』――――
物騒な物言いに少し後悔したが、ここまでブラックを押し倒す様にある意味清々しさを感じた。
……………“ようこそ、俺の地獄へ。配属先は五道のところでいいだろう。脳筋バーチャーファイターだが、悪い奴じゃないからな”
文字だけだった世界から優しい男の声がすると底へ落ちたのを感じた。闇の中にいるのは変わらず何も見えないのに仲間が近くにいるのを感じる事はできた。みんなの鼓動、呼吸が聞こえ生きている仲間の生を感じる。ドス黒い感情が抜けていき変化していた体もいつの間にか元に戻っているし傷も痛みも無い。感覚が無いわけではないが体が軽い、傷つけられる前に戻ったのだと説明の通りだと実感する。
ぼんやりとだが目の裏の血管が透け、外がとても明るいのだと感じた。俺達の居たところは夜も昼もなく太陽なんて存在しない金属でできた建物と血や硝煙の臭いしかしない息苦しい世界だった。
でもここは呼吸がしやすく血管一本一本細胞一つ一つが浄化され今まで吸ったことのない空気に思わず何度も深呼吸を繰り返した。
そしてゆっくりと目を開けるとそこは青い空と太陽、花や草木がある。
そして俺たちを面白そうに見下ろす男がいた。何枚も布を重ねて布で留めた衣類だが装飾や刺繍がとても繊細で一目で上質な物だと分かる。
「ほぉー上手くいったな。欠損してる奴もいたから元に戻るか心配だったが十王のアイツが作った術式はしっかりしてるな。確か恥ずかしい名前の……あっそうそう!!“world of darkness”…思春期を患ったみたいで厨二くさいがまぁ成功したからこの際気にしないようにするか。」
ぐっと顔を近づけてきた男はニヤニヤと笑いながら俺の眼を見つめると鼻先がくっつきそうなくらいさらに顔を近づけさらに俺の目を覗き込んできた。
「ようこそ。『地獄」と言う人類初めてのブラック企業の世界へ。」
これが、この世界を統べる王と俺達アルマダ隊の社畜物語の始まりである。