7話 開催されるパーティー
夜まで何もないからどうしようかな…
そういえば学院の近くに冒険者ギルドと傭兵ギルドがあったはずだから登録しに行こう。
生徒証とランキングカードも貰えたことだし、首席合格者ならば見せるだけで登録できると聞いた。
夜は入学祝いを祝して学院内にあるホールでパーティが開かれる。
おじさんも来るらしい。
そろそろ師匠呼び定着させないといけない。変な誤解を招きそうだし、、
無難に師匠と呼ぶか、
名前をつけてグレイ師匠と呼ぶか、
それとも少し捻って師父?
気分に合わせて呼び方変えようと思う。
「やっとついた…」
学院に来る際、こちらにも寄ったけど相当でかいな…
扉の大きさ的に自分何人分だろ、
少し入るの躊躇うけど、寮まで帰る時間込みで、夜まで時間あんまりないし、
入らなければ、何も始まらない。
扉を開けると、広いエントランスと横には食堂や換金所、査定室、奥にも扉があるがまあ責任者が入れる所だと思う。
そういえば、登録ってお金かかるのかな…?
「こんにちは、今日はご依頼ですか?」
受付のかっこいいお兄さん…お姉さん?
どちらとも受け取れる顔立ちをしているのでどっちなんだろ…
そんなどうでもいいことを考えながら受け答えする。
「依頼ではなく登録です。」
そう言うと、受付のお兄さんorお姉さんは驚いたような表情を見せた。
「おいおい嬢ちゃん何歳だ?ここは荒くれ者もいるから早めに帰っといた方がいいぞ?」
めちゃくちゃガタイのいい強面の兄ちゃんが自分に警告した。
顔に比べて結構優しいんだなあ。
失礼である。
まあうん、客観的に見ても非力な幼女にしか見えないからいい分は分かる。自分がもしこの見た目の子を見たら正直絶対帰らすと思う。
「では何かご自分の履歴書をお持ちですか?」
受付の人は少し動揺を見せたものの、本職の味というものがあるのか、営業スマイルで自分に質問する。
「学生証とランキングカードの二つを、」
そう言って最強の身分証明書を提示する。
「あ、アレス学院初等部…首席!?」
「マジかよ、超名門じゃねえか…」
やはり首席ってすごい効果ある。
さすが名門と言われるだけあるなあ。
「では登録させていただきます。注意事項の説明などはいかがですか?」
「お願いします。」
「はい、では今から説明させていただきます。」
冒険者ギルドでは魔術師と同じように階級があり、したから順に、
Fランク
Eランク
Dランク
Cランク
Bランク
Aランク
Sランク
計七階級存在する。
F〜Dは初心者
Cは中堅冒険者
Bは上級冒険者
Aは冒険者の中で最高峰の階級
Sは、特例。人外…
戦闘力、対応力、忍耐力、ある程度の知識と技量、
依頼を達成するという精神。
傭兵とは違い、様々な分野の依頼をこなす為、オールマイティにならなければならない。
冒険者同士の衝突やパーティでの揉め事は、ギルド側が介入することもある。
冒険者の死体を見つけた際、なるべく冒険者カードを回収してギルドに提出すること。
冒険者を殺害、また虚偽の申告、依頼未達成は場合により階級降格、懲戒処分、永久追放、私刑のいずれかになる。
「何かご不明な点はございますか?」
「ギルドの不手際で依頼の難易度が低く見積もられていた時、依頼失敗、未達成になると思いますが、この場合はどうなるんですか?」
「こちら側から依頼主に対応する形になります。」
なるほど、
んまあギルドの不手際だから当たり前か。
「依頼完遂失敗ってどのくらいの頻度で降格とか明確な期待はありますか?」
「そうですね、3階連続失敗で厳重忠告、依頼内容にもよりますが特に貴族などの上層部からの依頼を失敗した際は相当キツいかもしれません。」
ここだけの話、
そう受付員は切り出しながら自分の耳の近くに口をあてる。
なんかこしゃばかゆい…
吐息が…ゾワってする。
「後ろ盾などが厚い場合は無理やり厳重忠告のみで済ませられる場合があります。エル様ならば首席という肩書きがあるのでそうそう降格するまたは追放されることがないです。」
やはり権力がものを言う時代なのか。
どの時代も当たり前なのかもしれないけど、、
厳しい世界だなあ、どこも…
「では規定により、エル様はFランク冒険者となります。ようこそ、冒険者ギルドへ!」
口笛や拍手、ヤジなどが飛ぶ。
ここは結構いい雰囲気だなと思った。
「では、冒険者カードをお作りしますのでしばらくお待ちください。」
そう言って受付員は奥の部屋へと消えていった。
それを見越してか、先ほどのガタイのいい男が此方へやってくる。
「なあお嬢、うちのパーティに入らねえか?まあうちらのパーティは気分屋ばかりだから中々全員揃わねえがな。強制的に参加とかはねえからどうだ?」
「何故自分を?」
「正直に言うとアレス学院の首席は並いる魔術師とは文字通り格が違う。欲しいのは戦力だ。」
清々しいほどまでにはっきりそう言った。
こう言う人は嫌いじゃない。
少しムキムキして汗臭いけど……
「こちらが提供できるのは冒険者としてのノウハウだ。これでも俺はBランクを長いことやっている。経験と知識は相当あるぜ。」
結構魅力的な些細だと思う。
スラムで培われた能力には、良い人と悪い人を判別をすることができるものがある。
まあ、勘なのだが…
この強面の兄ちゃんは結構良い人の部類だ。
目つきと雰囲気が善人のそれなのだ。
先ほど戦力が欲しいと言ったが、まあ欲しいのだろう。
だがそれはあまり必要としていない感じがする。
根拠としてはBランクとして長いこと冒険者をやっており、パーティが揃わなくても依頼を完遂できる技量があるという自信を持っている。
他にも口調から身だしなみである程度観察できる。
この人は戦力が欲しいと言うのは建前でただのお節介を自分に焼きに来たのだ。
「では、仮ですがあなたのパーティに入ります。」
「おう!だがな、そんな堅苦しい口調は要らねえよ。」
「うん。分かった。」
「そうだ。」
満足そうに満面の笑みでそう言った。
「ああ、そういえば名前を言ってなかったな、俺はデイドラ。パーティ名は不屈の盾だ。」
不屈…
師匠の二つ名。
今頃師匠何してるかな?
互いに握手しながらそんなことを考えていた。
◆◇ーーー
あの後傭兵ギルドに行き、傭兵ギルドのギルドバッジ、冒険者ギルドでいう冒険者カードと同じ役割を持つ。
それを取りに行ってきた。
やはり学生証が強くてスムーズに登録することができ、もう用事もないので王都から寮に帰る予定だ。
「よっ!久しぶり、でも無いな…四日ぶりか?」
「師匠!?」
目の前の人影と思われたものはグレイ師匠だった。
全くわからなかった。
まるで認識阻害されているかのように。
「まだまだだな。それにしてもお前から師匠呼ばされるとは、なんだかむず痒い。」
「いつまでもおじさんって言うわけにはいかないし、」
「はは、まあ好きな方を使えばいい。」
頭を優しく撫でられる。
この世界の自分の父と呼べる人は間違いなくこの人だと思った。
「父かあ…そっかあ、、」
「あ。。。、」
師匠は、娘を亡くしたのだ…
自分は無神経なことを思ってしまったと後悔した。
だけど師匠は自分のほっぺを優しくつまみ、
「俺もお前を娘のように思ってた。スラム街ではあまり干渉できなくてごめんな。」
助けられなくて、ごめん…
師匠はそう謝った。
別に、師匠が謝る必要は無い。
自分はあの世界で生き抜いた。今はもうそれだけでいい…
「名前をつける時は、咄嗟に娘の名前がでたんだ。それだけ似ていた。顔も、雰囲気も、仕草も、」
「そっか、」
今はこれだけで充分だ。
静寂が二人を包み込み、少しひんやりとした風が吹いた。
「ああ、それと…娘のことは気にするな。お前はお前だ。」
「分かった。」
そして自分と師匠は学院へ歩を進める。
終始無言だったが、心地いい。
距離は充分に近いから。
会場、いつもは劇団ホールとして存在しているがこの際は入学祝いのパーティー会場として盛大に装飾され、たくさんの人が集まっていた。
それでも埋まりきらないほどこのホールは広い。
ピアノの演奏が流れる。パーティー始まりの合図だ。
「この度、我が学院に新しい生徒たちを迎えた。今年度は非常に優秀なものたちが多い。だから激しい競争も起きるだろう。だが、それでこそこの学院の本懐だ。ようこそアレス学院へ、歓迎しよう!」
万雷の拍手が鳴り響く。
ここには新入生の親御さんも多く参加している。
「伝統なのか、俺の頃も同じ挨拶だったな。」
「そうなの?」
「ああ、」
懐かしそうに師匠は言った。
「あ!エルちゃん!」
「ぐえっ」
フィアに勢いよく抱きつかれ、エルは苦しい声をあげた。
ちょ、キツい…
あのフィアさん…体格差を考えてですね、、
苦しい、やめ、、
「フィア、エル様が苦しそうですよ?」
「あ、ごめんね、、」
そんな時、救世主が現れた。
フィアはハッとしたのか自分に申し訳なさそうに謝ってくる。犬っぽいなぁ…
「エル様、500代目首席おめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます。」
ノエルは優雅に一礼をした。
そのあまりに美しい動作に、周りの大人たちも魅了される。
「おい、あのお方はノエル様じゃないか?」
「あのお方が…とても美しい、」
ヒソヒソと感嘆の声があがるが、自分は地獄耳なので聞こえてます。
盗聴するつもりはなかったんです…
「グレン様、お久しゅうございます。」
ノエルはグレイに目をやると改めて一礼をした。
「ああ久しぶりだ、ノエル閣下。」
「貴方様から閣下と言われるとむず痒くなりますね…」
ノエルは少し苦笑いになりながら言う。
しかしノエルはユグドラシル守護者。普通の者ならば閣下をつけなければならない。
不敬になるからだ。
しかし、師匠は鬼王。
王位を継承している。
「ならそちらも敬称をやめろ、今日は無礼講だ。」
「いえ、私は娘以外に様をつけるのがデフォルトです…」