4話 幸せ
「信じられん…」
「いや、何度採点しても満点ですって!」
「いやいや、初等部だぞ!?中等部でも80点行けるかいけないかぐらいだ。」
試験官オリヴァは目を疑った。
あまりに綺麗に書かれた文字。
ここまで綺麗に魔力で書けるのは魔力操作が上手い、いやできすぎている。
常軌を逸した才能。
「推薦者は誰だ?」
「37位、グレイ=ノーヴァ様です。」
「あのお方が!?」
「お弟子さんだそうです。」
「なるほど、理解した。」
いや、理解してたまるか、、
二桁上位、一級範師の弟子…か。
ともあれ記念すべき500代目首席が決定した。
それにしても凄まじい子が入学してきたものだ。
学園長は喜ぶだろうなあ…
オリヴァはつくづくそう思った。
「そういえば先輩は今年何位になったんですか?」
「7096位だが、」
「めちゃくちゃすごいじゃないですか!!」
「くそ、間違いなく1ーAは確定だ。あの子に何を教えると言うんだ!」
オリヴァは頭を抱えて唸る。
「あ、そうですね…で、でも私も補佐しますし!」
「はぁ…ニーナ、お前何位だったっけ?」
「5万1024位です…四級魔術師です、」
「よくこの学院の教員になれたな…ギリギリじゃないか?」
「そうですね、頑張りました!」
大丈夫だろうかとオリヴァは思う。
ニーナはバカなのだ。本人には言わないけど、
「あの、言ってますよ?」
「ああすまない、わざとじゃないんだ。」
「ぷくー、ひどいですよ!」
ニーナはポカポカとオリヴァを叩こうとするが魔力障壁で遮られる。
「はー、何ちちくりあってるんだ?君たち、」
「アガサ先輩!?ち、ちちくりあってるだなんてそんな…」
「側から見たら恋人にしか見えないねぇ、」
「こんなあんぽんたんの恋人だなんて…勘違いも甚だしい、」
「失礼すぎません!?」
もはや漫才の領域である。
アガサはその光景を見て笑う。
「で、あたしも試験官だったけどね、凄い子が入ってきたんだよ。確か名前はフィア=アルノラティ。あのユグドラシル守護者、ノエル様の娘さんだよ。もちろんクラスは1ーAだね、」
「おいアガサ…殺す気か?」
「あはは、頑張ってねえー。」
「こいつ、」
ただでさえ最近残業でキツいというのに、胃に穴を開けさせるかだろうか、、
オリヴァは頭を抱えて項垂れる。
まあ1ーAは試験で上位の者しか入れない。
そして毎回成績が最下位の者にはBクラスに下げられる。
このシステムにより必死な競い合いを実現した。
Aクラスは食堂費免除であり、寮でも一番良い物をあてがわれる。
その生活に慣れてBに落ちたら最悪だ。
その者からすれば天国から地獄に堕ちるような感覚に陥る。
まあBクラスでも結構いい環境だと思う。Aクラスが良すぎるだけで、、
「はあ、胃薬高いんだぞ。」
アガサはオリヴァの方に手をポンと置き、
「がんば⭐︎」
「くそが、」
「あははは…」
「ニーナ、お前も道連れだ。」
今日も職員室は騒がしいようだ。
◆◇ーーー
えーと、名前はどこかな、、
「よし、一位通過。首席合格!」
1位…100点,主席エル=S・ノーヴァ
2位…80点,カナリア=シアレッジ
3位…79点,アルノルド=ティアドール
4位…70点,ペトラ=クラフト
4位…70点,レン=ディーサイア
6位…69点,ガラクシア=コード
7位…68点,ラクーン=ヴァイコット
8位…65点,ロイド=ルーネス
9位…63点,フィア=アルノラティ
・・・・
205位…
若干不安ながらも確認したらちゃんと首席で合格できた。
食費免除だ!
そう、エルは勘違いしていた。
Aクラスにさえ入れば食堂の食費は全て免除されることに…
ただエルは主席合格なら食費が無くなると思っていた。
というか計算したら平均35点だった。
「あー!エルちゃん、首席合格したの!?すごいねー。」
「フィア?」
フィアは…9位、
こんなバカ…のうてん、、、き…そんな感じなのに意外と教養がいいのか?
「なんで私が首席じゃないんですの!」
甲高いお嬢様口調の声が聞こえた。
なんか嫌な予感がする。面倒ごとの予感が…
そんなことを思うが時すでにおすし、間違えた遅し。
ドリルツインテ金髪碧眼少女、フィアと同じくらいの身長の子がズカズカとこちらへきた。
取り巻きと思われる可愛らしい女の子を引き連れながら。
「あなたが首席のエルさん?私に主席を譲ってくださらない?」
「え、無理ですけど…」
こちとらお金無いんだよ、
主席になったら多少面倒だろうけど、メリットの方が多い!
「ちょっとあなた、カナリア様がわざわざ譲ってといってるんです!譲りなさい!」
「そうよ!」
「え、ええ…」
フィアをチラッと見たら何が起こっているか分かっていないようだ…
しかし少しばかり時間が経って理解が追いついたのか、
「エルちゃんと20点も差があるのに?」
「うぐっ…」
あ、フィアの無意識の罵倒が目の前のお嬢様の心を貫く。
クリティカルヒット!
あ、お嬢様が涙目になってる…
「あんなの100点なんて無理ですわ!」
「あなた不正したんじゃないですか?」
「不正よ不正よ!」
周りの子たちも訝しんだ目線を送って来る。
だが舐めるなよ、、自分はもっと酷い目線を幾度も浴びせられていた。
こんなことでは全く心に来ない。ドヤっ!
まったくドヤれることでは無いがエルは本当に何にも感じていなかった、
「わ、、わたくしだって頑張ったのに…」
「えぇ…」
いや、泣かれても困る。
七歳だ仕方ないのだろうか?
それに比べてフィアはバカっぽ……だけど意外としっかりしてる印象がある。
そんな中、こちらに軍にいるような礼服を着た男の子がやってきた。
「貴殿は不正したのか?」
訝しむように男の子が硬い口調で聞いてくる。
しかし、このぐらいの子は不正不正と連呼されたら本当に不正したと思ってしまうほどに純粋だ。
だがこの子はまだ確定していないと分かっていて確認しにきている。
「いや、してないですよ。」
「なるほど…嘘はないな。」
断言するようにそう言った。
何か確証があるのだろうか?
「自分は階級の高い軍人の息子だ。嘘ぐらい見抜ける。」
え、エリートだ。
「自分はアルノルド=ティアドール。これからよろしく頼む。」
スッと流れるように礼をしドリルツインテ少女の方は向かって行った。
流れるような洗練された動作、相当高い教養が窺える。
まだ七歳だよ?すげーなおい、
「かっこいい子だったねー。特に礼がすごく綺麗だったよ!」
この子って意外と物事を見極める能力が備わってるんだなと思う。
失礼なことを毎回思ってたが、うん、、
本当に失礼だった。
いや、喋り方とか印象とかで何も考えてなさそ…こほん。ほんわかとした感じだからそう思ってた。
まあ考えてみれば当たり前だ。
この子はノエルさん、二桁の娘だ。
地頭はおそらくとてもいいのだろう。
「貴殿ら、ここは誉も誉れ。アレス学院初等部だ。不正など一度たりとも起こったことはないと聞く。断言しよう。不正などありはしない!」
大きな声で周囲に聞こえるようにはっきりと言った。
その圧に気圧されたのか、子供達は不正じゃないと考えを改める。
凄いな…なんでドリルツインテ少女に負けたんだろ。
とりあえず移動しよう。
生徒番号は001-500で、クラスは1ーAだ。
席は001-500と書いてる場所を探せばいい。
クラスの形は扇状になっていて、後ろに行くほど階段状に段差が上がっていく。
大学の講義みたいだなあとつくづく思う。
大学行く前に死んだから詳しいことは知らないけど。
多分こんな感じだと思う。
席は大理石のようなツルツルに加工されていて、椅子も同様に大理石のような滑らかなで高級感溢れる感じだ。
さすがAクラス。
最高のものを提供する、というキャッチコピーは伊達じゃない。
ドリツインテちゃんは頰を腫らしたように赤かなっている。
もう突っかかってくる様子もなくて安心した。
やはりこの年代は良くも悪くも純粋なのだろう。
成長すればどんどん陰険で陰湿な感じになるが、それに比べたら可愛いものだ。
「同じクラスだねー!」
「そうだね、」
フィアは可愛いなあよしよし。
「えへへぇ」
何この可愛い小動物は…
天然記念物だろうか、、
フィアの頭を優しく撫でながらそんなバカなことを考えていた。
「失礼、これからAクラスを担当する、オリヴァだ。この中には私の顔を知っている人もちらほらいるだろう。」
あの生気のない瞳をした試験官をしていた人だ。雰囲気はおじさんに似ている気がする。
特に生気のないところが、、
「軽く自己紹介をしよう。名前はオリヴァ=クレスト。魔術師世界ランキング7096位、三級魔術師だ。これから六年間よろしく頼む。まあAクラスから落ちたら六年間ではないかもしれないが…」
そう、Aクラス限定で、最下位になるとクラスを降格させられる。
Aクラスの生活に慣れてしまったらBクラスはとてもキツいらしい。
自分は堕落しないぞ!
そう決意を胸に六年間初等部を臨もう。
「君たちにはプレゼントがある。学生証とランキングカードだ。学生証は試験や出席日数などでポイントを稼ぐことができる。10000ポイントを貯めれば合格せずとも飛び級して中東部に入ることが可能だ。」
そう言ってオリヴァ先生は一人一人丁重に配って回る。
自分は一番後ろの席の真ん中にいたので最後ら辺に配られた。
・学生証
名前,エル=S・ノーヴァ
学級,1ーA(首席)
点数,100
資格,七級魔術師
・世界魔術師ランキング『七級魔術師』
Ranking No.920万4600位
学生証は名刺みたいな感じで、
ランキングカードはメタリックな板版の名刺だ。
「わあー綺麗だね!」
フィアのアホ毛と長い耳がぴょこぴょこしていた。
どういう原理で動いてんの?それ、
アホ毛って動くんだなあ…
「では、後は自由時間だ、自己紹介するなり友情を築くなり、なんでもしてくれ。」
そう言ってオリヴァ先生は去っていく。
胃薬を服用していたのを自分は見逃さなかった。
芳醇な苦労の香り、苦労してるんだなと思う。
なんかドリルツインテお嬢様がソワソワしてる。
あ、取り巻きちゃんたちはAクラスに入らなかったのか。
なんか涙目でかわいi…かわいそうだな。
現にカナリアは喋る相手が見つからずソワソワ、そわそわ、おろおろ…
やっぱり年相応なんだなあ。
「あ、あの…先ほどはごめんなさいですわ。」
しょぼんとした表情でこちらにやってきてそう言った。
素直というかなんというか、謝れるのは偉いことだと思う。
小学三年生くらいになると悪ガキになって、
中学生くらいになったら謝り方を忘れる。
経験則だ。
今くらいの年齢が一番可愛い。
え、なに?ロリコン?
やだなーそんなんじゃないよ。
自分七歳だよ?
前世?ノーカンノーカン。
スラム街で廃れた心を癒すぐらいいいでしょう。ほら、女神様もニッコリ…にっこ、り?
『あなた、どうやって神聖魔術使えるようになったのよ!』
目の前に本にも載っていた、女神ミラウ様…ちっちゃなミラウ様がいた。
ん?なんでいるんだ!?
どうにか心を落ち着かせ受け応える。
どうやってって、敬遠で敬虔な信徒ですから。
『固有魔術の干渉を感じたと思ったのに女神である私が全くわからなかったわ!どうやったの!?』
バレてる…
まあ裏技的な何かでー
そう言葉を濁す。
『はあ、まあいいわ。こんな可愛い子に罰を与えるのも気が進まないもの。特例で許してあげる!』
神様って本当に寛大なんだなあと思う。
面食いだとは一ミリたりとも思ってないよ?
・・・・思ってないよ?
とはいえどうやって降臨したんだろ。
『この身体、私が趣味で作ったものなんだけど、下界に降りる際は聖女に憑依か形代に自分の半魂を移すの。』
なるほど。
『それにしてもあなた…私の聖女にならない?』
あ、そういうのお断りしてます。
なんかめんどくさそう。
『え!?信徒のみんなは喜んで受けてくれるのに!?』
本来なら女神に認められて聖女になることは誉れなのだろう。
しかし、めんどくさ…自分なんかがなるのも恐れ多いっていうか、、
何やら本心が見え隠れした気がするが気にしない。
『うう、じゃあ私の加護をあげるわ!』
どうやらこの女神様は諦めが悪いらしい。
しかし、メリットも大きいようにと思う。
加護があったら何かいいこととかあるんですか?
『うーん、神聖魔術の練度と効力が高くなったり、私の信徒から敬われたりするわね。私の後ろ盾も貰えるし結構お得なんだけれど、、ダメ…かな?』
シュンとなった女神様。
流石にこれはずるい。
分かりました。
自分は折れるような形でそう答えた。
『やったわ!』
ミラウ様は七つの神の中でも信徒を一番大切にすることで有名だ。
純粋な善神である。
ただ、、面食いだ。
そしてミラウ様は自分の左の胸あたりに手を押し付けた。
暖かい緋色の光が発生して、確認すると幾何学で造形された緋色に輝くハート?のような形の紋章が浮かび上がった。
これは一体…
『聖痕。私はあまり聖痕を信徒に贈らないから相当珍しいものよ。』
そうなんだと頷く。
『じゃあまたいつか。暇さえあればいつでも呼んでね!』
そう言って女神ミラウはどこかへ消えてしまった。
ん、そういえば何かを忘れているような…
「ど、どうしたの?エルちゃん…ぼーっとして、、」
「あ、いやなんでもない。それと、カナリア…謝れてえらいえらい。」
よしよしと頭を撫でる。
嫌がっては、なさそうだな。
「あの、エルお姉様…ってお呼びしてもいいですの?」
「いいよ。」
スラム街の孤児生活が洗われていくように感じる。
浄化されていく…
たぶん固有魔術,運命操作が発動していたのだろう。
この先幸せになると。