1話 全ての始まり
望んだものが望んだ形で得られるのならば、それはとても幸運なことだと思う。
様々な要素が重なり合って結果的に願いが叶ったことは、幸運ではあるものの必然的なものだとも思ってる。
この世に生まれて18年、
アルツハイマーよりも厄介で幾度となく記憶を失う奇病を自分は患っていた。
だから四歳から、びっしりと日記に、
何を感じたのか、何を思ったのか、何が起こったのか、何をしたのか、
細かく記録していく。
忘れても見返せるように、まるでセーブポイントのように、
半脳筋的思考で奇病に対処していたが、
学習速度と理解力、速読、副産物だがそれらを得られたのは幸運か不幸か、
まあ幸運だったのだろう。或いは必然だったかもしれない。
何度も忘れ何度も思い出すことで、身体と魂に記憶が根付く感覚を味わう人は自分以外にいるだろうか、
自分は考えるよりも先に行動することが多いからこの病気にも悩まなかった。
まあ両親をずっと心配させたのは悪かったと思う。
記憶はリセットされ、また新しい自分が生成されていく。
テセウスの船というものがあるが、
自分は本当に自分のままでいるのだろうかと考えることもあったが、まあ余計なことを考えるよりかは、それを書き記してスッキリする方が早い。
もう千冊以上ある日記をペラペラとめくり、ひたすら覚えていく。
これはもう染みついた動作だ。
14年間の記録にも及ぶ正確な記録で大事な記憶の塊だ。
まあ普通の人なら全てを読むのに5年は自分なら一日で全て読み切れる。
記憶して、記録して、その繰り返し、
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
繰り返し繰り返し繰り返し
狂気。その一言に尽きる。
実際に自分は既に狂っていると言っていい。
全ての感覚と意識は日記へ向けられる。
それは何よりも変え難い大切な宝物。
あれ?自分は何を考えてたんだっけ、、
思い出せないや…
白昼夢を漂う気分。
日記を手に取りページを巡る。
なぜ自分がこんな行動をしているのかはわからない。
無意識に、日記に吸い寄せられた。
「ああそっか、」
残り余命数日
日記の最後にはそう書かれてあった。
ここで自分の記録を晒すことをやめてる。
きっと次の自分がどんな思いになるのか、
少しでも自分を楽にするために、、
自分自身への配慮とはまさにこのことなのだろう。
これが、最後の自分というわけか…
沢山の記憶を受け継いできた、まあ全ては同一人物だけれど、
物語はもう終わる。
当たり前のことだ。
この死に体が、いつ骸になるかも分かったもんじゃないが持って数日。
幸い親しい友も愛すべき親も、恋しい人も存在しないことだ。
華々しく最期を飾ろうか。
きっと次の生では忘れない死になるだろう。
忘れない記憶になるだろう。
絶対に忘却することはないと願う。
まあ叶うはずさ、望みは幸運にも必然に、起きるものなのだから。
意識は次第に薄れていく。
身体に力が全く入らない。
こっからまた始まる。
世界の垣根を飛び越えて、どこへ行こうか…
意識は常にある。
自分の死に様は笑えるように滑稽で、
ああ、もう身体とはお別れだ。
もう運命に任せ、揺蕩うことにしよう。
きっと何とかなる。
そして自分は生まれ変わった。
運命とやらに自分の魂を預けた甲斐があった。
あの奇病とももうおさらばし、前世ではすぐに忘却するのであまり使いこなせていなかったが、一瞬であらゆる物事を記憶する能力は自分が書き綴っていた日記の記録よりもいいものだ。
整理された引き出しのように、思い出そうと思えばその記憶は真新しく保存されている。
この世界に生まれて6年、
スラム街と思わしき場所に生まれたが、知恵と知識があったから何とか生きてきた。
たまに近隣の街にくる行商人の世間話に耳を立て、
物の価値や国の情勢、色々な役に立つ情報を聴きあさった。
情報は武器であり不変の価値がある。
廃棄されたスコップを活用して自分の住処を作った。
本当に昔は大変だった。
衛生面は最悪だったため、食べ物、というにはあまりに酷い物だが食べなきゃ生きていけないためそれを食した。
結論から言うと腹を下すし、虫が寄り付くし、トイレも肥溜めを作ってなんとかやりくりしてたが限度がある。
もちろんのこと一文無しだが、盗みはあまりやりたくない。
前世の倫理観が邪魔をするからだろうか、
この国の法律には詳しくないけれど、法に触れれば最悪死刑にされる。
知識が欲しい。というか本が欲しい。
お金がないから物乞いをしたこともある。
まあ結論から言えば冒険者の輩に数発殴られ蹴られた。
顔は覚えたからいつか仕返しでもしようか、
そんなことはもうどうでもいいけどさ、
闇市のおじさんに魔術の本を貰った。
いわゆる投資だ。
自分の頭の良さとその情景、匂い、感じ方、一瞬で記憶し理解し自分のものにする能力を買われ、自分に魔術の本を渡しこう言われた。
『ここらスラム街のガキどもにたくさん食べさせるぐらいこれで金を稼いで来い』と、
強面で見るからに怪しいおじさん。
その声は優しいものだった。
この世界に生まれて目的という目的もなく、ただただ必死に生きてきたが、目標があるのもいいかもしれない。
そうして魔術の本、
この世界の文字や記号をおじさんに教わりながら、記憶し続ける。
序章の後書には、
魔術は後にも先にもこの世界に幸福を齎した。
だがその幸福は一方にしかいかない。
誰かが幸福を感じれば誰かが不幸になる。
そう書かれていた。
続きに例え話が書かれてある。
戦争で魔術を使い帝国は大勝利した。
ただ魔術の力で100万人にも昇る死者を出した。
ある魔術師が沢山の魔道具を開発した。
それはあまりにも便利なもので、たくさんの失業者を出した。
一方は幸福を、もう一方は不幸を、
まあそれが摂理というものだろう。
全員が幸せになれるものなど、魔法でしかない。
だから皆はこの力を魔術と呼ぶ。
この世界は魔術師中心の世界であり、魔術は
世界魔術師協会,六大派閥の名の下に存在する。
『聖徒信仰教会』
概要,魔法と宗教を融合させた教団。神聖な魔術や祈りを通じて力を得る信仰を奉じる。魔法の使命と倫理に焦点を置く。
役割,魔術の精神的な側面を育て、魔術師たちの道徳的な指導を担当。
『魔術連邦取締委員会』
概要,魔術の法律や規制を管理する組織。魔術の適正使用や不正行為の取締り、取引の監視を担当。
役割,魔術社会の秩序を保ち、魔法の利用に関する法律を制定・執行する。
『魔術学園総括』
概要,魔術学園や教育機関の統括機関。魔術教育の標準化、カリキュラムの設計、教師の指導を行う。
役割,魔法使いたちの育成と教育を通じて、将来の魔術社会のリーダーシップを支援。
『総合職業別組合,通称ギルド連盟』
概要,魔術を利用した職業や産業の団体。魔術のスキルや知識を産業や職能に応用し、発展させる。探索、傭兵、生産の三つのギルドに分かれ、依頼内容を個人が受け取り解決する間を取り持つ。お金を預けることもできる。
役割,魔術を各職業に適用し、社会の発展と効率化を促進する。
『帝国議会』
概要,帝国の政治的な決定を担当する組織。帝国内の魔術社会における政策や法律の策定を行う。
役割,国際会議を通し、世界のルールの明確化、特に戦争のルールの明確化をさせるものがある。
・世界保護団体
概要,世界全体の安定と平和を保護する団体。異常現象や脅威に対処し、協会外の魔術問題に対処する。地政学の機密署を管理している。
役割,魔術社会の安全と国際的な協力を強化し、世界の文化や自然遺産を守る。
この六大派閥を筆頭に魔術社会は安定していると言われる。
筆者は派閥を作る意味を、特定の権力者が好き勝手できないように睨み合わせていると考える。
これを書いた人は相当世界情勢に詳しいかたなのだろう。
というか絶対この本高いよね…
こんな上等な紙見たことない。
本を読むにつれ、魔術への理解があがっていくのを感じる。
魔術を扱うための最大の要素は魔術への本質理解と身体と魔術の相性、つまり親和性が試される。
理解は大丈夫だ。
魔術というものはこういうものだと、死後同じようなものを感じた。
あれは、超自然的な力、魔法と定義するか、それに近い。
だから不思議と魔術の扱い方が分かる。
そして魔術は主に二つに分けられ、固有魔術と属性魔術が存在する。
固有魔術とはその者の本質的な所から生まれる。
だから固有魔術は最も自分と親和性の高い魔術と言え、扱いやすい。
そして属性魔術は本来固有魔術だったものが世界中に知れ渡り、その本質を理解すれば扱える。
神聖魔術が最たる例だ。
信仰者が多い分、その本質的な魔術の内面を理解し、属性魔術として扱われる。
ただその本質的理解は、自分自身ではなく信仰、或いは崇拝からからと言われているため効力は固有魔術より幾分が低いと言わざるをえない。
火属性魔術は火への本質理解の果てに魔術として開花する。
水属性魔術は水の本質理解
風属性魔術は風の、
土属性魔術は土の、
雷属性魔術は雷の、
色々な属性魔術があるが、それは宗教や自然の崇拝、信仰から来ることが多い。
一方固有魔術の本質は、それを扱う者の本質を理解しなければならない。
他の者の固有魔術はあまりに複雑度合いが強く、他者が扱うことはほぼ不可能だ。例外はあるが…
そしてごく稀に固有魔術を二つ持つ者がいる。
100年に一人現れるか現れないか、まあこれは置いておこう。とても珍しいからだ。
固有魔術は後天的に現れることはない。生まれてから新たに自分の本質を構築することが不可能だからだ。
その代わり属性魔術ならば本質さえ理解すればいくらでも扱える。
限度は世界魔術師教会が定める魔術師世界ランキング一位の魔王ヴァルターの七属性と言われている。
平均は一属性とされる。
固有魔術は理論上誰にでも発現できると言われるが、魔術師が1000人いて一人いるかいないかだ。
何故かと言うと自分の本質を理解するのが単に難しいから。
まあ当たり前だろうか、
正式な魔術師と認められるためには階級を取得しないといけない。
正式な魔術師は、今現在1000万人以上いる。
七級なら魔術学園に入り一年学園にいるだけで取得できる。例外もある。
六級は試験で上位10%に入れば自動的に取得することになる。
五級は先生や指導者三名から推薦を貰い、世界魔術師教会に認められれば取得することができる。
四級は五級になって二年、特別試験に合格すれば四級に昇格できる。
三級は魔術大会などのランキングシステムに入り世界ランキングで10000位以内に入れば三級に昇格できる。
二級は世界ランキング1000位以内に入れば二級に昇格できる。
一級は世界ランキング100位以内に入れば一級に昇格できる。
一級練師は100位以内を三年間キープすれば練師称号を取得できる。
一級範士は50位以内に入ったことがあり尚且つ100位以内を五年キープすれば範師称号を得られる。
そして特級、並いる魔術師を蹴散らし、ランキング一桁に君臨した際に得られる。
最後に例外だがランキング一桁を五年キープした際に特級冠師、冠師称号を得られる。
ランキングは大会の成績や指名で八位以上の相手と闘い勝利した際に相手のランキングと入れ替わる。
ランキングシステムが存在する理由は、強者の数値化だろう。
国が一桁を保有するだけで複数の軍隊よりも力を示せる。
上位のものには称号や景品などが贈られるため魔術師全てにランキングに入って目に見える形で管理したいのだろうと筆者は感じた。
負けた嫌いや承認欲求がある魔術師は格好の餌といえる。
ただデメリットよりもメリットの方が大きいのでランキングに入ることをお勧めする。
本を閉じる。
ある程度この世界における魔術師の存在と魔術への話が書かれていた。
「ああそうだ、お前臭いから川で身体洗ってこい。」
「レディにそんなこと言うなよ。」
「お前、レディなんて言葉どこで覚えたんだよ…」
前世は男だったが今世は幼女になってしまった。
生まれた時は戸惑ったが今では慣れたと思う。
鏡がないのでどんな顔をしてるかわからないが痩せ細っていて平均より小さいことは分かる。
おじさんと別れ、山を歩き川に向かう。
このあたりは魔獣がいないから安心して歩ける。
川に着くと服を脱ぎ、川の中に入り、パシャパシャと水音を立て身体を洗う。
髪も長いし切りたい…
ただ刃物は高価なため持っていない。
あとで石包丁でも作って切ろう。
見つけてくれて感謝。
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ブクマと高評価を、お願い…〣(ºΔº)〣