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ノア・リライツ 外伝 天才と少女の物語  作者: 少女計画
少女との生活
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第二節 一話 「無自覚な男の偶然、それと遭遇」




夕日色の友人との再会から早くも二か月が過ぎていた。



稀代の天才人制奇製作者ペペペモリアは、相も変わらず人制奇開発のため生活スペースから離れた研究スペースにて研究していた。



髪はさほど伸びたようには見えないが、あれから一度も洗っていないせいで頭皮から油やふけが溜めこまれ、コバエが数匹たかっている。



洗っていないのは髪だけではなく、ばっちり体も未洗浄。



全身から獣臭が立ち込み、あともう二月ほどすればよくわからないウジ虫が大量発生するレベルに到達するのは、実体験。



現在ペペペモリアが行っているのは新しい人制奇開発に用いるウイルスの選択と『奇跡を作る石』(ミルオルニス)のさらなる利用について。



それとどんな人制奇を作ろうかという構想段階だった。



前回作った人制奇は構想から開発までで、睡眠不足と飢餓小症状による意識喪失のせいで六年ほどかかってしまっていた。



僅かな後悔を思い出し、ガスマスクの中の栄養ゼリーを口に入れる。



味は無だ。



液状なので触感は無く、味も栄養面を追求したら無くなった。



ふと、少し休憩でもしようかと思い至り近くを転がっていた丸椅子に座る。




「……」




手持ち無沙汰だ。



胃袋に流し終えた栄養ゼリーのおかげで空腹感は無くなったので、やはり研究を再開しようか。



そう思ったところで、地面に分厚いファイルが落ちていることに気付く。



研究最中に棚から落ちたのだろう。



どうしても別のことに気が向いていると、周りの音に気が付かないときがよくある。



おそらく透明だったそれは、長年部屋に置かれていたことで端の方からくすんだ色をしていた。



ファイルを拾い、ちょうどいいと何となく机に広げてみる。




「……」




そこには、見覚えのある記述がびっしりと書かれ、開発日開始日から終了日、効果、使用した材料の量、他にも多くの情報が載っていた。



それは、過去にペペペモリアが開発した人制奇についてのレポートだった。







『人制奇』、人の理を超越した奇跡の技術。



『奇跡を作る石』を材料に作られるそれは、人の一生を費やし発明されてきた。



だが、絶海の孤島の住人にして稀代の天才人制奇製作者ペペペモリアは既に四つの人制奇を発明している。



ペペペモリアの開発した四つの人制奇。



『到達死点ウイルス25』 (クナミトロモリア トゥエンティファイブ)



『人体溶解ウイルス17』 (サネタッカモリア セブンティーン)



『傀儡人形ウイルス34』 (ドワイココモリア サーティフォー)



『異形変化ウイルス42』 (カタルトトモリア フォーティトゥー)



このうち実際に使用されたのは、『到達死点ウイルス25』だけだ。



他の人制奇についてはペペペモリアがその症状をラットで検証し確認。



さらに同じ症状を人間が発症するかは、この島に住む限りなく人間に近い体構造のエリィテコッポという猿で検証したため、確実性もある。


彼の人制奇の威力は絶大だ。



ぬぼーんとした彼からは想像もできないほどに。



検証のため使用されたモルモットは、尊厳など一切ない酷い末路を辿る。



数秒前まで元気に活動していたはずが、一瞬にして絶命するもの。



体がドロドロに溶解し、最後は臓腑をも溶けだし死ぬもの。



心臓が止まり、決まった行動のみを連続して行うもの。



背から目が発生し、顔から腕を生やし、異形となるもの。



だが、ペペペモリアは自分が恐ろしいものを作っているという自覚はあまりなかった。



生物を害することのできる人工ウイルスではあるが、彼からしたら武器製造との差異はどれほどのものかと考えているからだ。



先日、会議で会ったカルトワという男はミルオルニスを用いた武器製造を行う大手企業のトップである。



人制奇の武器利用は今では陸空海の全ての軍人が自国警備という名のもと、人制奇小型剣『人奇刀』(ミラーナ)、人制奇小型銃『人奇銃』(ミラーガ)を保持している。



最近ではミルオルニスを用いた軍艦や戦闘機なども計画として挙がっているそうだ。



ペペペモリアは、それこそ戦争の引き金になりかねない代物だろうと思っている。



対してペペペモリアの人制奇は必ずと言っていいほどに使用されない。



多くの被害を出した事件は記憶に新しく、皆恐ろしさを知っているのだ。



もう二度とあんなことを起こしてはいけないと。



敵対国との牽制、威嚇の手段として保持しているだけでも有効に作用するペペペモリアの人制奇はある意味で絶対悪、必要悪としてもっとも正しいシステムとして成り上がっていた。



絶対に使用されない絶対悪。



それこそペペペモリアの『人制奇』。



実際、大きな被害を出して10年。



国境線や領土問題など、他国との揉め事で実力行使での奪い合いはなくなり、そういう話題事態も減少傾向にある。



偶然なのか、必然なのかは絶妙なところだが、絶対的にペペペモリアを排除しようとする国は現在ではほとんどない。



本人の知るところではないがペペペモリアのことを平和の先駆けと誇大して解釈する者さえいるほどだ。



だからこそアメリアもペペペモリアの人制奇開発には口をほとんど挟まない。



国同士の均衡が徐々に安定し始めている原因に勝手に一枚かんでいる、とも言えよう。



ペペペモリアが何故人制奇開発を許されているのかという点ならば、人制奇管理機関という公的機関の存在も大きい。



人制奇管理機関ミルカリオン。



現在確認できる人制奇を全て保管、管理、その能力などについての詳細を記録する公的機関。



新しく開発発明された人制奇は全てこの機関で登録する義務が開発者にはあり、そこで人制奇の危険度などや使用目的などをレポートにまとめて提出する義務がある。



ペペペモリアも例に漏れず一つ目の人制奇以外は全てこの機関に効果、利用目的、他様々な情報を提出した上で国に譲っている。



そのため人制奇管理機関にも少量且つ感染リスクを抑えたペペペモリアの人制奇は保管されている。



ただ、提出するたびに親の仇をとるかのような顔をされるのは必然だった。



しかし登録するだけでも偉いというもので、中には自分の益のため、復讐のために人生を費やした人制奇で犯罪を起こす者が稀にいる。



そういうものは機関にも報告せずに使用されてしまうので、実際に事件として起こったときに対処が遅れ、大きな被害が出ることがあった。



登録した人制奇の使用制限をかけるのもこの機関の取り締まるところだ。



人制奇にはそれぞれ零級、一級、二級、三級禁具指定という括りがあり、数の少ない物ほど制限が大きい。



簡単に言えば零級は永遠に使用を制限する。



一級は世界に甚大な被害が出るときにその問題を解決することが可能である場合に限り使用を許す。



二級は国に甚大な被害が出るときにその問題を解決することが可能である場合に限り使用を許す。



三級は人に甚大な被害が出るときにその問題を解決することが可能である場合に限り使用を許す。



とされている。



もっと簡単に言えばこうだ。



零級 絶対使っちゃダメ。



一級 世界がピンチなとき解決できるなら使っていい。



二級 国がピンチなとき解決できるなら使っていい。



三級 人がピンチなとき解決できるなら使っていい。



だが、この括りもあくまで形式だ。



その人制奇に善性の部分があるものでもときに等級が割り当てられ、明らかに問題解決など到底できない危険な人制奇も同じように扱われるからだ。



そういうものはだいたい二級禁具、もしくは一級禁具指定を受ける。



ちなみにペペペモリアの人制奇は今のところ全て一級禁具指定されている。



本来ならばしかるべき処遇を受けて、残りの人制奇の提出と牢屋に入らなければいけないわけだが、相手はペペペモリアである。



そのガリガリの背中には、名だたる国が我先にと次の人制奇を得ようと専属契約という一つの席を水面下で奪い合っている、その人物である。



喉から腕が生えて、その腕からさらに腕が出るほどには欲されている人物だ。



公的機関だろうとなかろうと、悲しいことに取り締まろうとするとどこからか勝手にもみ消されるのだ。







そうして勝手に大義名分が付与された研究を行っているところ。



過去のレポートをパラパラと読み進めていたが、やはり研究がしたくなった。



ファイルはしっかり棚に戻し、何事もなかったようについ数時間前と同じ風景が広がっている。



ハエの飛行する髪をバリボリとかき、その反動でピョーンピョーンとシラミが飛んでいくのもある意味ここでの日常風景とはなってきている。



静かな空間が広がる。



無音とまでは行かないが、やはり人の声があるわけでもない。



まして大音量の機械が常に稼働しているわけでもないので、こうして棒っ切れのように突っ立っているときは比較的静かだ。



ドンドン。



だから、そんな唐突なノックの音に今日はすぐに気づいた。



いつも国からの使者たちはわざわざ夜の遅い時間帯に来るので、まだ朝の四時頃である以上彼らではないだろう。



それに渡すような人制奇も現在手元には置いていない。



それならば友人かと考えるがこれも違うだろう。



彼女ならば「やっほー……ってくっさー!」とか言って勝手に入ってくる。



可能性を挙げられるのがそのどちらかである以上、扉を挟んで向こうにいる相手は警戒すべき相手となる。



自分を殺そうとたくらむ相手……。



一番可能性が高いのはそれだと、すぐに思い至る。



ただ、そうなるとペペペモリアがこの名前のない絶海の孤島にいることをどこかから知った人物となる。



仮にどこかの国が自分を強行手段で手に入れた場合、最悪全面戦争が起きると踏んでいると以前友人に聞いた覚えがあった。



話自体はかなり盛っていると思うが、念のためその可能性も考慮する。



一先ず扉から少しずつ離れ、その辺にあった劇物入りフラスコを手に持つ。



防御手段としては紙といい勝負できそうだが、攻撃手段だったら、確実に相手は一人殺せる。



ぶっかけて当てれば、だが。



ジリジリと、相手の出方を見て扉が開いた瞬間を狙うために少しずつ距離を調整する。



……。



そこで、はたとペペペモリアは気付いた。



そもそも暗殺だったらノックする必要性ないな、と思い至る。



一先ず劇物を安全にもとの位置に戻し、扉に近づくことにした。



先ほどのノックから変に応答がないのも不思議だ。



相手が本当に殺すか、捕獲かするなら、隣の生活スペースから侵入して、さっさとやってしまえばいいのだ。



ノックなどせずとも。



楽観的だが、問題はないだろうと若干の警戒と共に扉の鍵を開錠し、ノブを回した。



少なくとも殺す意志はないはず。



扉を開けると室内に外気と日の光が入ってきた。



ここで何も問題がなければ、いよいよ本格的な夏シーズンにペペペモリアもわずかながら気分が良くなったかもしれない。



だが、そこには見たこともない人物がいた。



絶海の孤島の訪問者。



黒スーツの男でも、夕日色の髪の友人でもない。




扉の先には一人の少女が倒れていた。








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