第一節 六話 「また会う日まで」
絶海の孤島兼ペペペモリア宅に帰ってきたのは午後の11時頃。
道中、混雑していて若干の遅れがあったが、帰って来ても特段やることはない。
しいて言えば後は風呂入って寝るだけだ。
「先いい?」
《うん!》
アメリアが持ってきたタオルと衣類を持って浴室に行く。
残されたのは一人何をするでもないペペペモリア。
いつもなら研究スペースで立ちっぱなしなので、こんなふうにぼけっと座っているのも久しい。
全然使わない生活スペースは、埃を軽く飛ばせば寝転がっても全然問題ないぐらいには綺麗だ。
人の出入りがあるからこそ汚れるわけで、それは悲しいことに半年前からまったく使われていないことを証明していた。
ペペペモリア宅の構造は二棟造り。
研究スペースと生活スペースで別れており、その二つを一本の廊下で繋いでいる至極単純な造りだ。
こうして一人しかいない友人を招くときは畳張りの床にちゃぶ台とブラウンテレビという遥か昔の文化的様相のこちらを使用している。
広さは大人二人が寝転がってもまだ余裕があって、四人だとちょっときついぐらい。
耳を澄まさなくてもアメリアがシャワーを使う音と、何か歌っている声がきこえてくる。
「ババンバ、バンバンバ~」
「……」
テレビでもつけるかとアナログ的な電源ボタンを押して、リモコンでチャンネルを回していく。
動物の映像、世界事情を話す政治家、コメディ、バラエティ……。
ペペペモリアの興味にはどれも合わずすぐに消してしまう。
ちょうどテレビを消したタイミングでシャワー音が聞こえなくなり、カポーンと聞こえた。
手持ち無沙汰過ぎるので倉庫の端財で新しい音声発生器を作ろうかと思い、外に出る。
チリチリとドライバーや半田ごてで作ること15分。
《あー》、《うん!》に続く第三の音声《考え中だお》が完成したところで浴室の扉が開き、お風呂上がりのアメリアが帰ってきた。
「おまたー。次どうぞー」
《うん!》
Tシャツ好きなアメリアは風呂上りも当然のように白地に珍妙な生物がプリントされたTシャツと、すらっと伸びた白い足が見える青パンツ。
「ん?
なにそれ?」
髪を拭きながらやってくると丸テーブルに置かれた小さな機械を見つけた。
「……」
「なにしてたん?」
《あー》《考え中だお》
「ぶふっ」
《考え中だお》《考え中だお》《考え中だお》
「壊れた機械の反応やめい。
新しく作ったの?」
《うん!》
「確認なんだけどその音声って録音式だよね?」
《うん!》
「ぶふっ!おまえっ。
あはははは、ひー、めっちゃうける」
録音式ということはアメリアが風呂入っている間に、せっせと機械作って完成させて一人《考え中だお》って機会に向かって言ってたわけで。
想像すると笑いしか出てこないとペペペモリアが風呂に入っている間も、《あー》、《うん!》、《考え中だお》の三つのボタンを押しては一人げらげらと笑っていた。
特に新作の《考え中だお》はツボにはまったのか、バンバンと床をたたいて笑っていた。
ちなみに発見した必殺技は《考え中だ《う《あ《お》―》ん!》》だ。
タイミングよく三つ押すと、《考え中だワオーン!》と聞こえなくもない。
今夜はこのまま笑い疲れてすぐに眠ってくれるだろう。
ペペペモリアは湯船に浸かりながらそう思った。
*
翌朝。
午前五時。
横っ腹をさすりながらアメリアはペペペモリアと別れの挨拶を済ませていた。
三か月に一度のモリア生存確認兼会議出席と言う目的は無事終わり、こうして、朝早い時間帯に島を出ていこうとしているところ。
昨日の《考え中だお》で腹筋と横腹に致命的な損傷を負ったが、帰らないわけにもいかないのでサスサスと触れながら一時の別れを告げる。
「じゃあまた三ヵ月後ぐらいに」
《うん!》
「早々ないと思うけど、なんか緊急事態が起こったら連絡して」
《うん!》
「それじゃあ、また」
《うん!》
片手を挙げてから、アメリアは持ってきたキャリーケースをゴロゴロと引きずり去っていく。
モリアもそれに反応して片手を挙げ、最後まで見送ることなく家の中に入る。
傍から見たら少しドライに見えるかもしれない絶妙な距離がこの二人の距離なのだ。
こうして短かくも様々な体験をした友人との二日とちょっとは終わり、アメリアもペペペモリアも日常に戻っていく。
次の人制奇の発明のため、それぞれがそれぞれの場所で納得がいくまで続けるのだ。
二人が再度会うのはおおむね三カ月後。
ときにはやたらと長く、もしくは短く感じるその期間がまた始まるのだ。
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