第一節 五話 「海食中華食事中」
「ふいー。疲れたー」
《……うん!》
二人は専門外の人制奇開発ラインの工場を見て。
人制奇の開発発展についてのインタビューを受け。
ウェスタリカの人制奇開発産業のお偉いさん方と顔を見合わせ。
さらには今後の展望とか聞かれて。
ペペペモリアが持ってきたレポートと人制奇を専門機関に渡して。
まあ、済ませるべきいろいろをやって、やっと全部終わったところ。
今いるのは第三都市ユルオクティカ。
時刻は昼食時よりは少し遅い時間帯だが、ここ第三都市繁華街には人が行ったり来たりで大渋滞。
がやがやと聞こえてくる喧騒。
そこかしこから匂ってくる食べ物の匂い。
日光が降り注ぐ道と人の流れで熱気がこもっている。
しっかり行動しないとはぐれてしまいそうだ。
新しくできた中華料理店に行こう行こうと言っていたアメリアは、人の間を縫うようにして目的地まで向かっていく。
道の右には肉を小麦の生地に包み蒸したもの。
左には鳥をまるまる一匹串にさして甘辛のタレを塗って焼き上げたもの。
美味しい匂いが充満してきて食欲のボルテージが上がってくる。
隣の区画に行けばまた違った様相をなしているので、それはまた後で行くとして今はひとまず目の前の飯。
「さっきのさー、人制奇環境大臣だっけ?
綺麗に禿げてて、笑いそうになった」
《うん!》
二人はここ何回かの食事はおかゆかおにぎりであったためにこの場所にきただけでも、既に空腹指数が急上昇中だ。
一応ペペペモリアも人ではあるので美味しい食事はうれしい。
到着したのは「海食中華」と言う店。
主にエビなどの海鮮系中華料理を提供してくれる、ユルオクティカに最近できた今一番人気のある中華料理店。
オプライデント国は島国であり水産資源を得るための漁港もあるので、海からの食糧は新鮮なものを提供できている。
「ここ、ここ。
海食中華。
モリアって魚介系のアレルギーないよね?」
《うん!》
「おっけー」
店内と店外の区切りがない第三都市繁華街は古き良き文化としてあえてオープンにした設計になっている。
風通しの良さは、昨今の冷暖房完備の店とは違い温度調節ができない反面、こうして目の前で作られる料理の匂いが集客の一助となっている。
店内には主に20代から50代ぐらいの男性客。
幅広い年齢層が食事をしていて皆額に大粒の汗を垂らしながら、炒飯や拉麺、小籠包などをそれぞれ食べては破顔させていた。
「モリア、何食べる?私は、エビチリと青椒肉絲とライスだけど」
壁掛けの提供メニューを見てあっさり決めてしまうあたり、既に何度も通っているのだろうと思わせるところがあった。
中華料理屋だがその実、中華料理の他にもボンゴレビアンコなどもあるあたり、どちらかというと海鮮料理屋の方が近いのかもしれない。
キョロキョロと店内を見たペペペモリアはそれだけでメニューを全て把握し何にするか決めた。
数秒間の黙考。
店内テレビから流れる音よりも小さな声でぼそりと呟く。
「同じやつ」
*
注文してわずか十分ほどで出てきたのはエビチリと青椒肉絲がそれぞれ二人前とライスの小と大が一つずつ。
「いただきまーす」
大皿で出てきたエビチリにアメリアが箸で一掴み。
すかさず口に運ぶ。
「うんま~」
箸を持っているのとは逆の手を頬にあてて、また一つエビを口に入れていく。
直径五センチほどの円状になった大きなエビに皿から溢れんばかりのチリソース。
それがたっぷりかかったここのエビチリは、ソースに細かく入った刻み玉葱とだしのきいた和風テイストで白米が進むのなんの。
しかもこのエビ、プリプリで噛むたびに触感で楽しめ、内側から内包された魚介エキスが噛むたびに染み出てきて、かなり美味い。
さしものブンデロガジョマンジといい勝負ができるほどにはプリプリだ。
「どう?
ここうまいでしょ。
わざわざ用もないのにここに来てエビチリ食って帰るのが最近のブーム。
まじ、ここのエビチリ今までで一番うまいと思う」
《うん!》
隣のペペペモリアもライス小を片手に小さいエビを一つ掴んで、もちょもちょ食べている。
「青椒肉絲も食べてみて。
めっちゃうまいから」
《うん!》
二人がそうしてエビチリと青椒肉絲を堪能して店の外に出るころには、道の喧騒もある程度落ち着いていた。
あの後追加でエビチリ二人前とライス中を頼んだアメリア的には、人酔いしなくてよかったところだった。
*
概ねの買い物を済ませたのはそれからさらに数時間後。
向かった生活用品店でモリアが何か欲しいと行ってみると、大人用のおむつを大量に購入しようとしたので説得して止めたり。
銀行に行って預金残高が限度額になっているからと別の口座を作ったり。
果ては三ヵ月前から新たに発見された偶発的な人制奇の記録を見るため専門機関に訪問したり。
あれよあれよと、巡っているうちにあっという間に帰らないといけない時間になっていた。
「今回も堪能できた?」
《うん!》
「そっか。
それはよかった」
第一都市ウェスタリカから、ペペペモリアの家に帰る道行。
日は既に沈み道路の外灯に加え、車のライトで照らさないと危険なほどには暗い。
運転席には行きと同じようにアメリアが乗り、その助手席にはペペペモリアが乗っている。
行きと違うところは後部座席に購入した生活用品の山があることと、缶詰めなどの保存のきく食料があることぐらいだろうか。
「にしても、オムツ買おうとしたときはさすがに焦ったわー」
《あー》
「だってあれって、糞尿垂れ流しでOKってことでしょ?」
《うん!》
「いや、この内容でそんな元気な返しされてもね……。
保険として付けるのは別にいいけど、そもそもトイレ行くのすらめんどいってことでしょ」
《うん!》
「だからさ……。
まあ、いいや」
「……」
「あ、そういえば。
残高がいっぱいになった口座ってどうする?
いつもと同じでこっちでやっちゃっていいの?」
《うん!》
「はいよ」
オプライデント国とその手前の都市に繋がる道路を走行中。
日が沈み道路脇に建てられたポールの白い光が誘導するように道を照らす。
概ねあと一時間もすれば山越えはできそうだ。
車中から見える前方と後方の車も同様に帰路に向かっているものだろう。
「なあ、モリア」
《うん!》
「やっぱり、島から離れたりはしないのか」
「……」
「正直なところ、あそこでの生活は悠々自適で最高なのはわかるよ。
それでもずっとあそこにいるのは、お前には毒な気がする」
「……」
「今の場所よりは人と接する機会が増えると思うけど、私のところで研究をするってこともできるんだよ」
「……」
走行音だけがBGMとして流れ、先ほどとは違い気まずい空気が漂い始める。
肯定とも否定とも返さないのは迷っているからなのか、それとも考えてすらいなかったのか。
「まあ、今すぐ結論を決めなくてもいいんだけどね。
そういう手段もあるよってことを今は知っておいてくれればいいよ」
《……うん!》
話は今日見てきた人制奇の話題に移り、もうその話はしなかった。
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