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ノア・リライツ 外伝 天才と少女の物語  作者: 少女計画
天才の日常
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第一節 四話 「第一都市ウェスタリカにて」




第一都市ウェスタリカ。



オプライデント国の中心に位置し広大な面積と人口を有す海に浮かぶ大都市。



そして人制奇産業の中心地。



名立たる人制奇開発製造の関係者が、さらなる発展を目的に半年に一度集まる場でもある。



オプライデント国は国としては珍しい構造になっており、三つの都市が円状に且つ層を作るように配置されている。



第一都市ウェスタリカ



第二都市ラスメニカ



第三都市ユルオクティカ



第一都市を中心に囲うように配置された国は、文化的にも建築様式的にも有名だ。



本来は遥か昔に城塞としての役割があったため、このような珍しい構造になっているとも言われている。



今回の集会は第一都市ウェスタリカで行われ、他国からの使者や国の有力者が一同に集まるために警備や交通規制は厳重だ。



第二都市ラスメニカは居住都市とも呼ばれ、オプライデント国の約70%の人が住んでいる。


他にも学校や病院、公的機関の多くがこの都市には存在する。



第三都市ユルオクティカは商売都市と呼ばれ、多くの物品を売り買いする者たちが今日も元気よく行き来している。



国の構造については他国からの侵入問題など政治的な意味合いももちろん大きい。



だが、この国で暮らす人々にとってはオプライデント国という国は住みやすい土地として人気があった。



そして今回の人制奇にまつわる報告と多国間の情報共有で駆り出された二人。



片方は夕日色の髪をセミロングにし、純色の青の瞳、女性にしては長身な女性。




「あー、はやく終わんないかな~」




その隣を死んだ目でふらふらと並んで歩くマスクの男は稀代の天才人制奇開発者。




《うん!》




車とボートと徒歩で移動してきたアメリア・アインスとペペペモリア。



二人は権威ある人制奇開発者に送られる記章を胸に付けて渋々参加していた。



荘厳で由緒正しき会議場は見渡す限りの机と椅子が綺麗に並べられ、天井には煌めくシャンデリア、床にはレッドカーペット。



部屋のそこかしこには金で出来た装飾が壁や柱に散りばめられている。



会議というよりも社交界、社交界というよりパーティー、そんな外装にも見える。




「ねえねえ、今回の会議からマスク付けんのやめたけど大丈夫だよね?」


《……うん!》


「いや、アレ結構蒸れるのよ。


覆面タイプってのは面白いけど、あんまり実用性ないよね」


《あー》


「そんなことないって言いたい?」


《うん!》




いつもどおりのように話し会う二人は周りから視線を集めていた。



公衆の面前でガスマスクをしているのも理由の一つだが、ペペペモリア、その名を恐れて近寄る者はいない。



影響はその隣に座るアメリアまでに及ぼし、会議が始まるまでの30分ほどをゆったりと待っていられている。



ちなみに服装はどちらもドレスコード。



さすがにここにイタTシャツとジーンズからの白衣で来れるほど勇者ではない。



ペペペモリアは新調した黒のスーツ一式。



アメリアも華美になり過ぎない程度に合わせて、黒のアフタヌーンドレス。



普段は絶対身につけないストッキング、パンプス、ミニバッグ、耳には白く輝く特注のイヤリングと大人らしさが見える。




「おや、おや。


こんなところに場違いの貧民がいるではないか」




ぼけっと始まる前から早く終わんないかなと思っていた二人の背。



突然こちらに声をかけてきたのは一人の男。



会場入り口通路からこちらに向かってきた男は大きな肉体に豪奢な礼装、金髪のオールバック。



胸には二人と同じ、功績をあげた人制奇開発者に送られる記章がキラリと輝く。



自信に満ち溢れ、会場全体をどこか睥睨しているようにさえ見える目は男の身長からくるものなのか。



後ろを振り向いたアメリアはその男を視界に収めるとすぐに近づき挨拶を交わした。




「お初にお目にかかります。


私、人制奇開発研究者のアメリア・アインスと申します」




慇懃な礼でその男に首を僅かに下げる。



男はふむ、と何か不思議なものでも見るかのようにアメリアの顔を見てから、はたと思い当たり自身も挨拶をした。




「これはこれは、はじめまして。


Ms.アメリア。


私はここウェスタリカにて人制奇開発製造会社ビルドニテス代表取締役をしているカルトワ・ラコリス・セルナンデと申します。


その名前とその髪色、もしや母上の名前を継いだとお見受けしますが」


「おっしゃるとおりです。


カルトワ様」


「やはり。


母上はご健在か?」


「……いえ、母は、もう」


「おっと、申し訳ないことを言った。


どうか母上と我ら一族の恩情にお許しを」


「いえ、そんな。


頭を上げてください。


カルトワ様」


「それで、Ms.アメリア。


今日は初めての定例会のようですので一つご忠告したい」


「なんでしょうか?」


「いえ、そんなたいしたことではないのですが、そこの貧民には近づかない方がいいということです」




傲岸不遜な男、カルトワが指を指したのは先ほどアメリアが座っていた隣の席。


ガスマスクをつけてどこか遠くを見た表情をした男の方だ。




「やつは稀代の天才人制奇製作者などと囁かれていますが、それは全てまやかしです。


Ms.アメリアも知ってはいると思いますが、十年前のかの国の陰謀にやつも一枚かんでいるのです」




カルトワがペペペモリアに向ける目は嫌悪を孕んだ眼差し。



まるでゴミでも見るかのように言葉の冷たさも併せて強まっていく。




「しかも、一つ名階級ですよ。


我ら二つ名、三つ名階級とは異なり下賤なもの。


近くにいるだけで卑しい空気が移ります」


「……そうでしたか」


「はい。


ですからどうぞ、私カルトワ・ラコリス・セルナンデの隣に。


 さあ、こちらへ」



女性に自身の右手の甲を下に向け、左手は腰に添えるポーズは紳士が女性をエスコートする作法とされている。



これに女性は相手の右手に自身の左手を添えるのが礼儀。




「ありがとうございます」




カルトワの顔が明らかに綻ぶ。




「ですが、既に彼の隣が気に入りましたので。


大変申し訳ないのですが、今回のお誘いは断らせていただきます」




添えた手を離すとカルトワの顔が一転、明らかにショックを受ける。



内心を表す言葉があれば、おそらくガーンが一番合っているだろう。



何を言われたのか理解できなかったようで、そのまま数秒硬直したカルトワは姿勢と服をただして早口にその場を去る。




「さ、さようですか。


それはとても残念です。


Ms.アメリア。


では、私もそ、そろそろ席に座らなければなりませぬ故、この辺で失礼させていただきます」


「はい。


カルトワ様、それでは」




今一度頭を下げたアメリアが若干しなだれたカルトワの背を見て、元の席に戻る。



隣のペペペモリアはアメリアが席を外してから、一切動いていないように見えた。



石か何かなのかもしれない。




「どうよ。


面白かったでしょ」


《うん!》


「てかさ、あの顔見た?


明らか、しょぼーんってなる顔。


この前まで私のこと、おばさんだからってめっちゃ下にして見てた癖に、出会って初手で誘うんだって感じだよね」


《うん!》


「なにが、階級がーって。


一つ名とか二つ名とか、そういう階級制度のために作られたわけじゃないし。


もう一回歴史の勉強してこいって感じ」


《うん!》


「あー気持ちわるすぎ。


あいつの手取るぐらいだったらモリアの糞尿に手、突っ込んだ方がまだいいよ。


そう思うでしょ?」


《……あー》




なにかすごい発言が出たが、とりあえず置いておく。



会議の開始時間に連れ、周りの人間の数も増えてきていた。



残り数分ほどになった頃には今回参加する全員が集まったのか、あれほどあった座席は全て埋まっていた。



会議の司会進行が前に出てきて一礼し今回の人制奇についての会議が始まる。



内容はアメリアとペペペモリアにはあまり関係ないことだ。



というのも、人制奇はやはり危険だとか、国同士の人制奇の利権問題とか、人制奇産業の発展と躍進の一助によりよい環境を作るとか。



ペペペモリアはもちろんのこと、その隣に座るアメリアも別に国がどうのこうというのは、正直どうでもいい。



現在の人制奇開発は軍事、医療、動植物などの生物の順に主流である。



先ほどのカルトワ・ラコリス・セルナンデは人制奇の軍事利用におけるトップ。



現在三代続く人制奇開発製造会社のサラブレッドだ。



しかし、アメリアはもっと人によりそった人制奇の使用方法を模索している。




「モリア、モリア。


暇だから、しりとりしよーよ」




だからこうして各国のトップが話し会っている間もペペペモリアと談笑をしていた。




《あー》


「えー。


じゃあ、絵しりとりでいいよ。


紙とペン持ってるし」


《うん!》




アメリアは懐からメモ帳とペンを取り出して、早速さらさらと絵を描いていく。



ものの数秒で書き終えたのは素人目からしても上手すぎると言える細部まで描かれたブンデロガジョマンジだ。



持っていたペンをそのまま渡して手番が移る。



さっさ、とこちらも速く描かれたのは大小様々な線を四つほど乱雑に配置された絵。



続けてアメリアに渡す。




「ん?


なんだこれ? 


ちなみに私が描いたのはブンデロガジョマンジだけど、わかってる?」


《うん!》


「ジ、から始まって……。


え?


これ、なんだ?」



線が四本あって三本は同じ方向を向き、それぞれ線の一部で重なっている。



残り一本は変な方向を向いて……。




「はっ!なるほど……モリア、やるね」




そこで気付いた。



「ジョウチュウテナガグモとその祖先の系統における部分的進化、だ。


どう?


あってるでしょ」


《……うん!》


「よしっ!」




ペペペモリアから見てアメリアと言う女性は何かと知識が豊富で、殊、生物の名前とその生体については計り知れない。



そのためこのように適当な絵を描けばなにかしら知識の琴線に引っ掛かり答えが出てくるのだ。



つまり。



絵しりとりをしているペペペモリアは別にこれといったものを描いているわけではない。




「次はカ、ねー。


うーん、あ、それじゃあ」




とアメリアはそんなことは露知らず次に描いたのは、カルトワ・ラコリス・セルナンデ。



ご丁寧に吹き出し付きで、ガーン、と書いてある。



メモ帳とペンを隣に渡すとペペペモリアがどことなく嘲笑した表情をした気がして。



でも気のせいかもしれない。



数時間後。



数度の絵しりとりの末、ペペペモリアが描いた、



“デンロフユチコポの孵化時に呻く鳴き声とその胎動” 



で会議自体が終了し、絵しりとりも終了した。




「今回はモリアの勝ちでいいよ……私も、まだまだってことか」




やりきった顔のアメリアたちもわらわらと会場の人たちが出ていく流れに沿って退場する。



わざわざ長居して、カから始まってデで終わる筋肉達磨と遭遇したら面倒くさい。



それに、この後も関係各所にひたすら顔を出さないといけない。





「お腹減ったな」


《うん!》




*****





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