第一節 三話 「第一都市ウェスタリカに向けて」
「それじゃあ、行こうか」
《うん!》
翌日の朝。
アメリアことアメリア・アインス、モリアこと稀代の天才人制奇製作者ペペペモリアは目的地、オプライデント国第一都市ウェスタリカに向かって出発した。
持ち物は少なく大きめのキャリーケース一つのみ。
中に入っているのはペペペモリアが書いたいくつかのレポート、研究で作り出した『人制奇』、後は食糧が少し。
家に鍵をして二人並んで車に向かう。
海までのルートについては特に無く、あえてあるとしても獣道しかない。
そもそもペペペモリアがその距離を歩くとしたら日が暮れてしまうので車移動。
熱帯雨林が生い茂る中でのドライブは気持ちがいいなんて口が裂けても言えない。
それを考慮した上での舗装は成功と言えよう。
「いやー、やっぱり舗装して正解だったー。
いつもみたいにガッタンゴットン揺れるより全然いいでしょ?」
《うん!》
「しかも、変に野生生物殺さずに済むし……あっ」
「……」
何度目かのカーブを曲がり、耳に残るプチともブチともとれる音を置き去りに車は進む。
フロントガラスに映る景色は大きく育った植物の緑。
それに徐々に海の青も見えてきた。
視界の端に赤い色の液体がベチャっと付いてカラフルだ。
まあ小さいことは気にしないに限るとアクセルを踏みひたすら突き進む。
「後で洗車しないとな……特にタイヤ」
独り言を呟いていると車はすぐに海岸線に到着した。
見渡す砂浜と青い海を今度はボートに乗って渡り、遠方の山に向かう。
ボート、車はペペペモリアの持ち物の一つで、荒波の行路をひたすら突き進むことのできる優れ物。
しかも最新の座標機能で方向などの微調整も勝手にやってくれるため、乗っていれば勝手に目的地に着く。
昨日に引き続き晴れ模様の今日は移動するにはもってこいだ。
以前集中豪雨の中で移動した際は本当に死ぬかと思った。
ペペペモリアが。
なんとか無事到着したときには生きていることの素晴らしさを噛み締めたのを今でも鮮明に思い出せると、揺れるボートに乗りながら二人話し会う。
熱帯雨林の大自然、海ときて次に出迎えてくれるのは目の前にそびえ立つのは崖と2000m級の山。
本来ならば上り下りで一月はかかるが、それだとモリアが本気で死ぬのでもちろん登りはしない。
解決策として山の中心にトンネルを設置、中に車で移動できる道を開通させておいた。
アメリアとペペペモリアが勝手に開通させたので二人しか知らない特別なルートだ。
さて、海岸から山の麓に繋がる裏ルートまで歩くこと30分。
綺麗に隠した機械的な扉に認証コードを入力し、ハッチオープン。
ゴウンゴウンと重厚な機械音が響き、中が徐々に見えてくる。
そこはまさに秘密基地。
家から海岸線へ行くために使った車と同じ車が二台。
それと燃料タンクに、車をメンテナンスできる機材も一式揃っている。
他にもインスタントの麺やレトルトの食品など雑多に物が積まれている。
車に乗り込みシャッターが下りた大きな扉の前まで移動し、ここでも暗唱番号を入力。
再びの機械音により開いたシャッターの先には通路が露わになっていく。
奥が見えない一本道。
幅10mほどで通路上部の端々には白のライトが通路を明るく照らしている。
それでも奥が見えないのは数十キロもしくは、途中途中カーブが続くのだろう。
時速60キロほどで自動運転モードに切り替えた運転者のアメリアは、一つ息を吐き出しハンドルを握っていた手を離した。
「ねえ、モリア。
最近、なんか変わったことあった?」
《あー》
「別に、何でもいいんだけどさ。
例えば雲が鯨の形に見えたとか。
腹下して、死にそうだったとか」
《……あー》
「ふーん、そっか~。
そんじゃ、研究は順調?」
《あー》《うん!》
「どっちだよ」
《……うん!》
「あれ?今度作るのって何個目の人制奇になるんだっけ?
四、五?」
《あー》《うん!》
「五個目かー、今度、金入ったらなんか奢ってよ」
《うん!》
「ってそう言えば、最近ボタン一つで建てられるキャンプ用仮設テント作ったよ。
布は人工繊維でローコストかつ自然環境に優しいやつ。
しかも頑丈で、折りたたむと片手で持てるまでコンパクトになる。
大きさは大人五人ぐらいまでなら余裕。
すごくない?」
《うん!》
「実は今、持ってるんだけど、いる?」
《……うん!》
「なんか変な間があったな。
まあいいけど。
それと、また新しい人制奇登録したんだ。
だから懐もあついんだけど、町行ったらなんか奢ろうか?」
《あー》
「いや、わかってるよ。
自分の方が金持ってるって言いたいんでしょ」
《うん!》
「正直に言うんだな」
「……」
車の中ではイエスノーの会話が続いている。
時間的には40分程で到着するので、苦に思う者は思うかもしれないがアメリアはそんなことはなく、楽しそうに話し会っていた。
話の内容はどれも身のためにならないような話ばかり。
だがあるところで彼女の目つきがやや真剣なものに変わった。
「それで、今度の国はどこだったの?」
唐突に変わった話の内容はペペペモリアの人制奇取引相手国について。
『人制奇』
人の理を外れた奇跡のような新しい技術。
人制奇開発者の多くは企業もしくは国にスポンサーになってもらい、研究開発を行う。
こう言った取引は大抵が何かしらの組織での契約、取引となるがペペペモリアは個人で国と契約をしている。
契約内容は莫大な研究費を提供する代わりに次に製作する人制奇を是非提供していただきたいというシンプルなものだ。
だが、ことはそう単純ではなかった。
研究費を提供したにも関わらずその金で作られた人制奇が他国に渡る場合がある。
というのもペペペモリアの契約相手は国、いや国々だからだ。
ペペペモリアは現在六つの国と契約を行っているからだ。
各国が我先にとペペペモリアの人制奇を手に入れようとしているからだ。
まったくふざけた話だがそれがまかり通っているのは、一重にペペペモリアの人制奇の威力からくるものだ。
人的災害とまで言われたペペペモリアが初めて開発した一つ目の『人制奇』。
『到達死点ウイルス25』
この人制奇の影響で滅んだ国は隣国に飲み込まれ、国同士の睨み合いは極限まで高まった。
すぐさま現状を知った各国の政府は、事の収拾のためにペペペモリアを死罪にしようと動いた。
だが遅かった。
ペペペモリアのバックには、この一件で勢力が拡大した国が付いていたのだ。
領土問題的に手出しが難しい南の最果ての無人島が与えられ、そこでの自由な研究をする権利までを与えられていた。
既に世俗に疎く研究、開発ができるならどこでもいいと思っていたペペペモリアはこれを一つ返事で承諾。
話はここで終わればよかったのだが、このままではペペペモリアを手中に収める国がさらに強くなると踏んだ他国はペペペモリアと秘密裏に契約をし、開発した人制奇の根回しを要求したのだ。
本来それこそ裏切りとも取れる行動なのだが、ペペペモリアは完成した人制奇をその国に売り渡してしまった。
これによりペペペモリアの人制奇を持つ国が二つ。
最初に契約を交わした国はペペペモリアを暗殺しようと考えた。
だが、これまた既に遅かった。
この時点で他国の介入はとめどなく広がっており、同じような契約を行った他国同士が日々睨み合いをきかせ、現状の複雑な状態に至ったのだ。
付け加えるのならば、この問題の一番の問題は当の本人が一切気にしていないこと。
人制奇の研究開発ができればどこでもいいと考えるペペペモリアにとって、他国間の問題などガスマスクに収納した栄養ゼリーが、期限切れで腐っているかどうかぐらいにはどうでもいいのだ。
完成した人制奇の商売相手も最初に思い出した国の名前だし。
金銭的にも報酬としては人の一生で稼げる値の10回分くらいの金額をペペペモリアは既に四度貰っている。
守銭奴というわけでも、変に吹っ掛けた値段を提示しているわけでもなく国が提示する金額が異常なほど高い。
総括すればペペペモリアの周りの現状は大問題ということで、この話は終わり。
「……」
「言えない相手?」
鋭い眼光がぺペペモリアに突き刺さる。
《……あー》
「……もしかして、忘れた?」
《うん!》
「ぶふっ」
「……」
「ごめん、ごめん。
でもそうだよねー。
今更、どこの国が持っていたところで」
《うん!》
「はい、この話、おしまい。
あ、そうだ。
ユルオクティカに美味しい中華屋できたんだけど、いろいろ終わったら行こうよ!」
《うん!》
目の前には長くも短いトンネルの終わり。
終端の光に到着した。
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