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ノア・リライツ 外伝 天才と少女の物語  作者: 少女計画
少女との生活
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第三節 十話 「輝く夜空」




学校に行くことを決意したメメリィアたちは明日島に戻り、書類を確認し再度オプライデントにてもろもろの申請、形式的な入学試験など行おうと、この後の予定を簡単に話あった。



明日から早速と、すぐに学校に行かせられればいいが、用意するものがある以上そうは言えない。



書類作成のときに晴れてメメリィアの保護者の欄に自分の名前が書けることにうきうきしながら、アメリアはニガと口論をしていた。




「ニガ、右腕の関節部と動力核に繋がるインターフェースがミルオルニスの過剰反応を起こしてて危なかったよ。やっぱり設計してあるプログラムのままじゃ、少しの差異で粒子飽和点を簡単に凌駕しちゃうから、組み直した方がいいかも。もちろん、今までのバックアップはとってあるから、それを参考にして……あ、それとミラカーボン繊維のところ見たけど、あれ凄いね。柔軟で断熱性、耐久性、しかもコストも抑えられるから今後の展開にも期待できるし、なにより……」


「ちょっと待て、ミルオルニスの生体メルニアムによる影響は既存のプログラムで問題ないってこの前言ってたじゃねえか。それに内部エネルギー循環効率の底上げのために、意味のないバックアップデータは廃棄するってさんざん話しただろ。粒子飽和点についてもアスラ化は空気中に排出する際に必要不可欠なシステムなんだから、プログラムの書き直しっつっても、そこは問題ないだろ?」


「いいや、それこそが問題なんでしょ。そもそもアスラメルニアムとして空気中に排出されても、半減期まで待って分解するのを待つのはあまり良しとしないんだよ。システムの一部に置き換えて半減期を待たずして問題ないくらいに変化させる、それでっからって話」


「違うな。メルニウムのアスラ化はミルオルニスを利用する以上、切っても切り離せねえ問題だろ。だからこの前、お前が人間の代謝サイクルを応用した生体プログラムの作成がどうのこうのとかって話だから、それを利用すれば……って、それのことか」





早口でまくし立てる二人の間、メメリィアは難しい顔で話し合いを聞くことしかできないでいた。



人制奇製作者ニガ・ハウルの教室もとい工房に二人が戻ってきてかれこれ一時間ほどが経つが、未だにペペペモリアは帰ってきていない。



昨日の一件で警察に事情聴取をされに行ったものの、既に半日ほどが経過したとなると心配にもなってくる。



ただ、どうも引き続き今度は別の箇所の話題で盛り上がる二人は、そんなもう一人の人物を忘れでもしているかのように不安の影は一切ない。




「だからそこは……!」


「ねえ、アメリアお姉さん!ニガおじさん!お兄さんまだ帰ってきてないよ!」


「……」


「……」




暴走列車のような話会いが、ぴたっと静止したのは決して声が大きかったわけではない。



それもそのはず、傍から見れば口論のように見えたそれは、二人からしたらいつもの話し合い、共通の話題で盛り上がるオタクのそれに近かったから。




「あー、そういえば帰ってきてないね……」


「……ああ、そういえばたしかに。てか、今……あ、そろそろ六時か」




話し込んでしまったと熱くなっていたアメリアと可愛らしいクマに扮したニガは、部屋の中、たしかにペペペモリアがどこにもいないことを確認する。



昨日の次点ではあらぬ罪をきされそうになったものの、監視カメラの映像により論点はどうして下水道に侵入したのか、その詳しい事情説明の要求となっていた。



行きかえりの移動時間を含めても三時間もあれば、帰ってこれるはずなのだが……。




「お兄さん、なにかあったのかな……」




心配する声に、まさかと笑えれば良かったが相手はペペペモリアである。



こんな時間になってもまだ帰ってきていないのは、何かあったからこそなわけで。



考えられる可能性は上げればきりがないが、道に迷ったなどの普通の理由ではないだろう。



一度見たものは忘れない男である以上、今自分がどこにいるかなんて目を瞑っていてもわかるはず。




「アメリア、お前連絡してみろよ」


「うん、電話してみる」




おどおどするメメリィアに確かにこれは異常事態だと思ったアメリアは、携帯を取り出しペペペモリアの番号にかける。




《プルルルル♪》


《プルルルル♪》




ボタンを押し、コール音が鳴りだした直後部屋の中で同じ音が響いた。



そんな馬鹿なと思いながら既に三人の視線は音の発生源、そこに釘付けになる。



教室の扉の足元、見たことのある携帯電話がぽつんと落ちていた。




「……アメリアお姉さん、あそこで鳴ってるのって……」


「いや、違うよ。あれは、ほら、たぶん携帯電話ではないよ」




耳に当てていたガラパゴス携帯の画面を震える手で確認する。


手の中で納まっている携帯の振動と扉の先に落ちているそれが、まるでリンクするように共鳴していた。



一度切りもう一度かけなおそう、意味のないことだとわかりながら送信を止めると、当然の如くそれの音も止まる。




「……」


「……」


「……」




《プルルルル♪》


《プルルルル♪》




「おい、アレ……」


「違うよ!アレは、なんか……携帯電話じゃないなにかだよ!」




ここに至ってまだ諦めないアメリアにメメリィアが駆け足にそれに近づき、拾って戻ってきた。



やはりそれはアメリアが持つ携帯電話と同型同種のガラパゴス携帯で、悲しい二重奏を奏でている張本人。




「これお兄さんのケータイだよ」




認めざるを得ないだろう。



画面には誰がどう見てもアメリアの名前とその連絡先が映し出され、携帯電話の底には念のために付けたペペペモリアの名前が入ったシールが貼ってある。




「おいおい、マズいんじゃねえのか」




沈黙の中、ニガの一言でことの重大さが浮き彫りになっていく。



警察に行ったペペペモリア。



この場を発ってから既に10時間。



残された携帯電話は悲しい二重奏を響かせる。



次回、失踪!ペペペモリア!彼の身に降りかかった災いとは!?







と、アメリアが焦りながら思っていると教室の扉がゆっくりと開いた。



のっそりとした動きで入ってきたのは……。




「お兄さん!」


「ただいま、メメリィア」




失踪したはずのペペペモリアが自分の足で帰ってきた。



驚愕に身を震わせ目の前で起こっていることを信じられない様子で近づいたのは、流石にふざけていたものの、理由が気になるのは皆思ってのこと。




「モリア……なにかあった?」




特段ケガをしているわけでもなく、警察の事情聴取でやらかしたようでもない。



いつもどおりのぬぼーんとした覇気のない表情に視線が集まる。




「……もまれた」


「ああ?お前ふざけてんのか?」


「まあまあ、落ち着けって。主語が抜けてるだけだから」




抱き着いたまま動かないメメリィアを除いた三人は言葉足らずの会話にいらつきながらも、何があったのかを知る。




「すまない。人混みだ。ラスメニカに人がたくさん集まっていた。


それで、ウェスタリカから戻るのに時間がかかった」




その後の会話からどうやら現在ラスメニカに道路まで満たす勢いで多くの人が集まっていることがわかった。



一日中学校の中で過ごしているニガ、メメリィアは知るはずもなく、アメリアもそうなんだねと焦りながら相槌を打つ。




「そうか……たしか、建国記念日の最後に花火を打ち上げることになってたな」


「ん?記念日は昨日のはずでしょ?」


「ああ、そうなんだが。

事前に天気が崩れるとかどうので、はなっから翌日にあげることになってたんだよ」


「なるほどね」




とは言ったが事情説明に相当な時間がかかったことは予想通りで、つい二時間ほど前にウェスタリカを出たと言われたのは驚いたが。




「じゃあ皆で花火見に行こうか!」


「は?何言ってんだ?」


「なんだよー、またなんかあんの?」




既にお決まりのようにアメリアの言葉に待ったをかけるニガは、元気よく宣言した提案を一蹴する。



花火と聞いて目を輝かせるメメリィアは先ほどから、そわそわしてペペペモリアと今日あったことを話していた。




「提案自体に反対ってわけじゃねえ。花火は俺も見たいしな」


「じゃあ、いいじゃん」


「お前、鎧のメンテナンスはあとどれくらいで終わるんだ?」




いまだにクマの着ぐるみを被るニガは、部屋の奥で鎮座する白色に青い筋の入った巨大な鎧に目を向ける。



胸部装甲、背部の排気口、煌びやかに輝く太い腕と脚は現在色とりどりな配線を仲介して、アメリアが用意した機械と繋がれていた。




「……え、えーと、寝なければ今日中に終わる……と思う」


「なんだよ、その夏休みの宿題をギリギリで終わらす男子高校生みたいな応えは」




目を泳がせながら口笛を吹く姿はまさにテンプレートのような誤魔化し方。



本当は寝なければ明日の朝方に終わると思いたいというのが本音。




「もう一度聞く。あとどれくらいで終わるんだ?


明日はメメリィアと一回島に戻るんだろ?いいのか?」


「……不眠不休で明日の朝です」


「正直でよろしい」




すぐに意見を変えるアメリアの言葉に腕を組んで頷く。



ここで花火を見に出たら確実に明日のスケジュールを押すことになり、さらにはその後ろ、その後ろと予定したことが一つずつ下がるのは易々と想像できた。




「わかったよ……留守番してます……」


「すまねえな。だがこっちも明日は仕事があるから折れねえんだわ」




話が付き花火を観に行くのはニガ、ペペペモリア、メメリィアの三人という布陣。



全員一緒に見れないことを知ったメメリィアがそれだったら自分は行かなくてもいいと言ったのは、既に部屋の中で一人黙々と鎧に向き合う数分前。



本当に申し訳なさ過ぎて今朝の愚行をした自分をぶん殴りたくなったアメリアは、自身の下唇を噛んで大丈夫とにこやかに送りだした。




「はぁ……行きたかったなぁ。花火見たかったな……。でも、完全に自分のせいなんだよな。


あ、変声機に変な負荷かかってる……ああ、だから声無駄に大きかったのか。


ついでに直してあげよ」




一人でいるには広く感じる空間も先ほどまでは声が溢れていたが、今では小言とメンテナンスの機械音だけが響いている。



気分だけでなく気温までもが下がった気がしたのは、本当にそうだったのだろう。



ずっと遠くの方で花火の音が聞こえた気がした。







「ほえー」




生まれて初めて見る花火をその目に映した少女は、口をポカンと開け感嘆詞を漏らしていた。



夜空に咲いたいくつもの大輪。



赤や黄、青、緑、ピンク、紫……。



様々な色彩が光と共に花開き、遅れてやってくる衝撃音にわっとびっくりする。




「すごーい……」


「だろ。オプライデントの花火は世界的にも有名だからな。毎年ある夏祭りには花火を見るためだけに人が集まるほどなんだぜ」




ガハハと笑うニガの上、メメリィアは、ほえーと次の花火に感嘆しながら聞いていた。



グラドライン人生器学院を出ると既に人混みは危険なまで込み合っており、花火を見るために移動したいが、メメリィアのことを考えるとそうも言えないほどだった。



だが諦めるわけにもいくまいと、ニガが肩車をし、ペペペモリアが示した裏道を使ってなんとか花火がよく見える場所まで到着することに成功。




「うわー、次のもすごいよ!お兄さん!花火すごいね!」


「そうだね、綺麗だ」




生まれては消える光が顔を照らし、今だけは周りにいる人々全員の世界に同じものが映る。



町の明るさに負けない閃光は次第に勢いをまし、比例してそこかしこから拍手や感動する声が聞こえてくる。




「メメリィア」


「なあに、お兄さん」




いつもとは視線の高さが逆な二人。



不思議さを感じながら、光輝く花に今だけは視線をずらして互いの顔を見る。



最近では研究室にいるとき以外は、ガスマスクをすることもなくなったために表情が明るく見えるのはメメリィアと出会ったからこそ。




「あ――――う」


「?」




タイミング悪く遅れてやってきた音と被さりうまく聞きとれない。



珍しくそんなことで笑みを作ったペペペモリアを見て、メメリィアもにこやかな表情をする。



あの日出会ってから一年とほんの少し。



多くのことがあったわけではないけど、確実に自分は何かが変わってきているのだと思う。



次の花火に被らないように、今度はタイミングを計って口を一文字目の形にする。



出来るだけの笑顔で伝えよう、そう思ったのもメメリィアと出会ったからなのだろう。




「ありがとう」


「……!」




今度はちゃんと聞こえたみたいだ。



メメリィアの表情が緩みクマの頭部をぎゅっと力強く抱きつく。



いきなり抱き着かれたことで、若干バランスを崩したが問題ない。




「ペペペモリア、だからお前は言葉が……まあ、今はいいか」




こちらを見ないまま応えるニガは着ぐるみのせいで何を考えているかわからなかったが、それ以上は何も言わなかった。



自身の後頭部、聞こえてきた小さな少女の呟きをニガだけは聞いてしまったから。




「……メメリィアもいつもありがとうって思ってるよ。……いっぱい大好きだよって」




花火が煌めく。



もう間もなく終わるのか打ちあがった花火に重ねるように一つ、二つ三つ……。



数えられない速度の音とともに金色の花が視界いっぱいに咲き乱れる。




「……」


「……わぁ」


「すげえな」




顔を持ち上げるとそこに夜は無かった。



溢れんばかりの閃光、瞬きを忘れるほどの力強い美しさにこの場の誰もが引き込まれる。



オプライデントの上空を終わることの無いスターマインが満たしていく。



遅れてきた音にこれから始まる音が重なる。



言葉を忘れ、今だけは空を見ていた。




「……あ」




このままずっと終わらないんじゃないか。



そう錯覚するほど続いた花火は次第に数を減らし、思い出したかのように空は黒く染まっていく。



きっと時間にしたら数分のことだったが、その数分に数多くの者が無限を見ただろう。



口笛を吹く者、精一杯に拍手する者、皆一様に花火の感想を表しこの場から離れる空気を出していた。




「……もう終わり?」


「ああ、さっきので最後みたいだな」




残った黒色の空にメメリィアは寂しさを感じてしまう。



実は次の花火の準備をしているのではないかと待ってみるが、どうにもそうではないようだ。




「どうだった?初めての花火は?」


「すっごくキラキラしててキレイだった!


お花みたいにワーってなって、……でも、おわったあとはちょっとさびしいかも」


「たしかにこの静けさは何とも言えねえな」




散り散りになっていく人の流れに乗って三人も歩き始める。



もう少し感慨に耽っていたいところだが時間帯としては幼い子供が外に出ていい時間ではない。



それに早く帰らないと、部屋で待っているもう一人がうるさいだろう。




「また一緒に見ればいいだけだ」




並んで歩いているとぽつりとつぶやいた言葉が夜の空気に溶ける。



当たり前のように言ったその言葉にメメリィアもニガも感じていた寂しさはどこかに行ってしまった。




「ふっ。そうだな、たまには良いこと言うじゃねえか」


「うん!また花火見よう!次はアメリアお姉さんも一緒に!」


「ああ」




夜は更ける。



いろんな感情を抱いて。



嬉しさ、寂しさ、感動、愛情……。



互いに秘めた思いは、まだはっきりさせないまま。




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