第三節 八話 「ドーナツは穴が空いてるからさ」
こんにちは。皆さん。
私の名前はアメリア・アインスと言います。
気軽にアメリアお姉さんと呼んでもらえると嬉しいです。
さて、現在私はと言うと第二都市ラスメニカにてドーナツを食べています。
え?
鎧のメンテナンス?知らない子ですね。
そんなことよりも皆さん、ドーナツの法則を知っていますでしょうか?
そう、あの法則です。
あの全ての物理法則を覆す究極にして至高、至高にして最強の法則です。
「うんま~」
ドーナツは穴が空いているから、何個食べてもゼロキロカロリー!
さあ、皆さんご一緒に!
ドーナツは穴が空いているから、何個食べてもゼロキロカロリー!
ふう。
ここ第二都市ラスメニカでは、オプライデントで生活する約七割の人が住んでいます。
そのため様々な職種、種類の建物があるのもここ第二都市ラスメニカ。
先ほど抜けてきたグラドライン人生器学院から始まり、他にも多くの施設、デパートやテレビ局、アパレル系の専門店や、大手チェーン店、あげればきりがありません。
店数を他の都市と比較すれば誰もが一番だと言うここには、学生たちが帰りにちょっと寄って行こう、とかなんとか言って入れるお店がたくさんあります。
その中でもグラドライン人生器学院の正面玄関から出て徒歩200メートルほどの距離にあるここ、マスタードーナッツ略してマスドは、お財布事情が厳しい学生たちに人気な店。
比較的リーズナブルな価格設定のドーナツは種類も多く、季節の移り代わりと並行して、その表情も変えていきます。
期間限定、なぜこの言葉に人は誘われるのでしょうか。
きっと誰しもが経験したことがあるこの言葉の魔力に人は抗う機能を失って来ています。
昔と比べると文明が発達し子供から大人までもが、簡単になんでも手に入れられる時代になりました。
食べ物しかり、情報しかり、教育しかり、現在の次点で十分な水準を満たしているという声もありますが、それでも子供たちの識字率、食料自給率、国によっては大きな差が開く場所も存在するのは認めざるをえない事実です。
そんな満足の行っていない状況と、過分にもあらゆるものが錯綜する不可思議な世界で、期間限定の文字はこれほどまでに、人を誘惑することのなんたるか。
例えばあなたの目の前にいつも食べるメニューと期間限定のメニューがあったとしましょう。
期間限定。
あなたはこの文字を視界に収め脳に電流を走らせた時点で、既に罠に嵌っています。
この時点で約半数の人は、へえー、期間限定なんだー、じゃあ今日はこっちにしようかな、みたいな感じで期間限定を選ぶでしょう。
ですが、それでもいつものメニューを選ぶ者もいます。
この期間限定に抵抗力を持った者をイミュニティーと呼びます。
イミュニティーこそ、期間限定に抵抗する者。
そう豪語してもいい。イミュニティーに敵はなし。
……と、私は思っていました。
イミュニティーにも弱点はありました。
それは、短期間における二度目の来店です。
再度例を用いましょう。
あなたの目の前にいつものメニューと期間限定のメニューがあります。
あなたはつい先日、友人もしくは会社の先輩、もしくは家族、誰かと一緒に食べに来ました。
ですが、今日は一人です。皆、今日だけはなんとしてでもやらなければいけないことがあり、あなたも今日だけはなんとしても、ついこの前行ったばかりだけど、その店で食事をしなければいけません。
さて、あなたはこのときどちらを選ぶでしょうか。
これがイミュニティーさえも覆すことのできない期間限定の恐ろしさです。
ですが、それでもいつものメニューを選ぶ者もいるでしょう。
この期間限定に反逆する者をトレイターと呼びます。
トレイターこそ、期間限定に反逆する者。
そう豪語してもいい。トレイターに敵はなし。
……と、私は思っていました。
トレイターにも弱点はありました。
それは、期間限定の最終進化、本日限定・今日限り、です。
再度例を用いましょう。
あなたの目の前にいつものメニューと本日限りのメニューがあります。
あなたはつい先日、友人もしくは会社の先輩、もしくは家族、誰かと一緒に食べに来ました。
ですが、今日は一人です。皆、今日だけはなんとしてでもやらなければいけないことがあり、あなたも今日だけはなんとしても、ついこの前行ったばかりだけど、その店で食事をしなければいけません。
さて、あなたはこのときどちらを選ぶでしょうか。
これがトレイターさえも覆すことのできない期間限定の恐ろしさです。
ですが、それでもいつものメニューを選ぶ者もいるでしょう。
この期間限定に屈しない一途の愛を持つ者を、オンリーラヴァーと呼びます。
オンリーラヴァーこそ、期間限定に屈しない者。
そう豪語してもいい。オンリーラヴァーに敵はなし。
……と、私は……って、もういいか。
まあ、つまりちょっと休息にしようとマスドに入ったら期間限定のドーナツが今日から始まっていたので食べていたところです。
ちなみに私はというと、イミュニティーでも、トレイターでもオンリーラヴァーでもありません。
最初に、へえー、期間限定なんだー、じゃあ今日はこっちにしようかな、みたいな感じで期間限定を選ぶ、それです。
ん?メンテナンスはしなくていいのか?
しますよ。もちろん。しますします。
ただあともう少し、あともう少しだけ、このドーナツが食べ終わったら。
そんなことを言って、既に六個目です。
最初は期間限定のドーナツを食べました。
あ、ちなみになんかカラフルなチョコのやつで美味しかったです。
そのあと、あともう一個だけといつものイチゴチョコのやつを食べました。
そこまでは記憶がたしかなのですが、その後気が付くと既にドーナツを持つための紙が六枚になっていました。しかも肝心のドーナツはそこにはなく、何故かお腹がいっぱいです。
満腹です。
ちょっと食べすぎたことは認めざるを得ません。
ですが、皆さん、忘れてはいけません。
そう……。
ドーナツは穴が空いているから、何個食べてもゼロキロカロリー!
締めにコーヒーを飲んで、もう完璧です。
「……」
さて、最後にあともう一個だけ締めの締めに期間限定のドーナツでフィナーレを飾りたいと思います。
これを食べたら、絶対に戻ります。
もう全力で寝ずに行けます。
メンテナンスした過ぎて狂います。
でも一応、時間だけは確認しておきましょう。
ここまで食べることに夢中になっていて確認するのを忘れていました。
たしか皆と別れたのが朝の七時か八時かそこらだったので、きっと九時かそこらでしょう。
「……さん、じ?」
……。
……。
さて、そろそろ戻りましょうか。
既にお腹はパンパン、時間はカツカツ。
このぐらいが良い去り際です。
「お会計、お会計、えーと、8,000……?」
え?
何で……?
これはどういうことでしょうか。
たしかにドーナツは六個しか食べていないはずなのに。
伝票を見ても……。
・ストロベリーリング。
・アイスレモンティー
・夏限定カラフルチョコレートリング。
・アイスコーヒー。
・夏限定記憶ぶっ飛ぶ激辛チョリソードッグ。
・ストロベリーリング。
・アイスレモンティー
・夏限定カラフルチョコレートリング。
・アイスコーヒー。
・夏限定記憶ぶっ飛ぶ激辛チョリソードッグ。
・ストロベリーリング。
・アイスレモンティー
・夏限定カラフルチョコレートリング。
・アイスコーヒー。
・夏限定記憶ぶっ飛ぶ激辛チョリソードッグ。
・ストロベリーリング。
・アイスレモンティー
・夏限定カラフルチョコレートリング。
・アイスコーヒー。
・夏限定記憶ぶっ飛ぶ激辛チョリソードッグ。
・夏限定カラフルチョコレートリング。
・ストロベリーリング。
・アイスコーヒー。
・ストロベリーリング。
・夏限定カラフルチョコレートリング。
・ストロベリーリング。
・ストロベリーリング。
・アイスコーヒー。
「な、なんだ……これ……」
半端ない長さの伝票に驚愕の言葉しか出ません。
いったい何があったらこんなことに……。
「夏限定……記憶ぶっ飛ぶ、激辛……チョリソードッグ?」
はっ!
皆さん、私は全てを思い出しました。
そうです、私は何度もドーナツを注文しドリンクを頼み興味本位でホットドッグに手を出したのです。
そしてそこで出会った期間限定の誘惑に負け、頼んでしまったのです。
夏限定記憶ぶっ飛ぶ激辛チョリソードッグを。
食べ終えた私はあまりの辛さから逃げるために、激辛チョリソードッグを食べるまでの数十分の時間の記憶に蓋をしたのです。
まさに記憶をぶっ飛ばすほどの辛さに負けて。
そして、記憶がぶっ飛んだ私は再度同じ行動を繰り返し、最終的に激辛チョリソーに辿りつき記憶に蓋をするを繰り返したのです。
何とも滑稽。
ですが、記憶になくても次第に膨らんでいく腹部に気付いたのかあるところで激辛チョリソーを回避しドーナツを食べまくる奇行に走ったのが先ほどの私なのです。
まさか既に五周目だと知らず知らずに。
やはり恐るべし期間限定。
恐るべしマスド。
あ、ちなみにどれも大変美味しかったです。
さて、驚愕の事実が発覚し思い出した分お腹がだいぶ重くなった気がします。
ですが、皆さん、忘れてはいけません。
そう……。
ドーナツは穴が空いているから、ゼロキロカロリー!
「ごち、ぞうざま……うぷっ、でした……」
「またのご来店をお待ちしておりまーす」
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