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ノア・リライツ 外伝 天才と少女の物語  作者: 少女計画
天才の日常
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第一節 二話 「夕日色の訪問者」




絶海の孤島の住人にして天才人制奇製作者ペペペモリア。



そんな彼にはある周期で島の外に出なければいけない日がある。



概ね三か月に一回のそれは同業者であり友人でもある彼女の訪問から始まるのだ。



同業者。



つまり人制奇開発もしくは製造、もしくはそのどちらも行う友人。



名前をアメリア・アインスという女性。



ペペペモリアよりは少し小さいが女性の中では高身長である長身と夕日色のセミロングの髪、純色の青色の瞳が特徴の彼女。



彼女はお気に入りのTシャツとジーンズに白衣という服装でこの絶海の孤島にやってくる。



その日も彼女は普通に、散歩でもするかのようにやってきた。



コンコンコココン。



コンコココン。



軽やかなノックは彼女の訪問の合図だ。




「入るよー」




鍵の開錠をする前に入ってきた彼女こそが黒スーツ以外の家の訪問者。



ノックは形式上で、無遠慮に室内に入ってくるのもペペペモリアは既に了承していた。



鍵についてはアメリアが幾度目かの訪問時に面倒だから合鍵をくれと言った際、一本しかない鍵をペペペモリアから渡されていた。




「おっひさー……ってくっさー」




から始まる彼への苦言は止まることを知らない。




「うっわー!きったないなー、もう!


な!ジョウチュウテナガグモの巣がこんなに綺麗な巣作ってる。


うわぁ。ベヅイホコロミチュウが壁にめっちゃ産卵してるんだけど。


これ、掃除しないとこの家潰れるよ。マジで。


って、うーわっ!


ブンデロガジョマンジの幼体が……幼体が、うわわああぁぁぁ‼‼」




とペペペモリアの家に来てすぐに内壁や机の上、床を見ながら悪態をつくのはいつものことで。



マッドサイエンティストだのサイコパスだの巷で囁かれている彼に暴言というか正論を言えるのは彼女を含めて片手で数えられるぐらいしかいない。



だが、言われている本人はそんな苦言に我関せずと研究を続けている。




「おい。モリア。


いい加減に……って、おまえ、くっさー!


おまえさー、体から人間がしちゃダメな臭いしてるよ。


ていうかシラミ凄い……。


遠くからでも髪の毛の上を何匹も飛び回ってるの見えるし……。


これは、ケナグソフンコロニだな。


このままだと禿げるよ」




そこら辺にあったピンセットをゴム手袋をした手で持ち、モリアと呼ばれた彼の頭部から一匹のシラミを掴む。



ここまで何も言わないペペペモリアはやっとその存在に気付いたようにアメリア・アインスの方を向き、その目を凝視した。



例えるなら熊や鹿、もしくはそれでこそ人を殺さんとするような眼光を伸びきった髪の隙間から向ける。



するとゆっくりとした動作で、彼は白衣の左ポケットから機械を取り出した。



直径8センチほどの直方体の機械。



片手持ちのコンパクトな機械は黒く、押せばポチという音が鳴りそうな赤い丸ボタンが一つ。




「機械本体の黒も相まってそこだけがやけに濃く見える。



それを前方の彼女、アメリアの方にゆっくりと向け、指に力を込めて押した。




直後のことだ。



バシュウウウウウウウウン!



黒色の機械から眼前のアメリアに向かって高熱のビームが射出される。



ビームは次第に高熱化し赤から青へ。



青から白へ。



一瞬で摂氏数百度まで達した光は絶えず射出される。



向かう先は眼前アメリアの眼球。



直撃。



と同時に溶解。



さらにそれだけにとどまらず、その顔、皮、肉、骨に至るまでをあっという間に溶解させる。



みるみる内に頭部は崩れ、溶けだし、デロッと落ちる。



ぐしゃりともべしゃりとも聞こえて落ちたのはアメリアの頭部、いや、頭部だったものだ。



それでも光の射出は止まらない。



続けて胸から腰と腕へ。



腰から脚へ。



順次溶解させていく。



そこに燃えるというプロセスはなく当たった部位から順に溶けている。



まるで豆腐を地表2mほどからゆっくり落としたように彼女は……。



いや、彼女だったものは膝を落とし、既に原型を留める部位を持たず儚く崩れ落ちた。



傍らではガスマスクを外し、グハハハハ、アッハハハハという珍妙な汚い笑顔のペペペモリアしか立っていなかった。 





ってなったら面白くない?」




とは前方のアメリアが口に出した戯れ言で、実際にはそんなことは一切起きておらず、彼はそれを一切介しないまま、そのボタンを押した。



直後。




《うん!》




という元気な青年の電子音が二人の間に流れる。



ペペペモリアの手に収まった黒色の機械は、ボタンを押せば目の前の人を別次元に送る物でも、事前に仕掛けた爆弾が起爆するわけでも、もちろん超高熱のビームを射出できるわけでもない。



いたって普通の、音声発生機だ。



ボタンを押すと登録された音が出るだけの。



それも《うん!》だけしか登録されていないのは何分おかしなことだが。




「それなにに対しての反応?


まあ、いいや。とりあえず髭剃って髪と体洗って来て。


 どうせ石鹸類は全部まだストックあると思うから、持ってきてないけど、大丈夫だよね?」




一息に言いたいことを伝えたアメリアに再度、ペペペモリアは手にあるボタンを押して。




《うん!》




と答えた。







ペペペモリアが三か月ぶりに髭を剃って、髪を洗って、体を洗って、風呂に入るとこれでもかと垢と蛆が出てきて常識人がいれば、卒倒まちがいなし。



合計で髪を七回、体を七回、顔を七回洗って風呂入って脱衣所に出たところ。



脱衣所には新品のバスタオルとハンドタオルがそれぞれ置いてあって、そのわきにはパンツとTシャツとジーンズが置いてある。



健全な人間ならば何かしらの感情が動くはずだが、彼は無表情なまま用意されたピンク色の綿バスタオルで体を拭き、下着類、Tシャツ、ジーンズと順番に身につけていく。



脱衣所から外に出ると食事の用意がされた机が目に入った。



風呂に入る前に、終わったら外に来いと言われていたペペペモリアは言われた通り用意されたサンダルを履き出てくる。



彼からしたら三カ月ぶりの外は天気も良く、風もいい感じに頬を撫でる程度に吹いていた。



食事用のテーブルから少し離れた眼前には木製の椅子。



それと鋏と櫛を持ったアメリアが待っていた。




「はやくー。髪、切るから」




とてとてとアメリアに向かう彼の姿はまるで、子犬のようだ。



しかも○(まる)描いて点三つの謎の丸顔と「ボク!元気!」と言う文字がプリントされたTシャツに笑いが込みあげてくる。



椅子に座り、アメリアが髪型は前回と同じでいいかときくと、




《うん!》




という電子音の肯定がすぐに返ってきた。



十数分後。



切り終えたペペペモリアの髪は首に少しかかる程度に後ろは残し、前髪も目にかからない程度で正面半分で持ち上げて分けた。



もともとくせ毛なせいか切っていくあたりからくるんくるんとはねた毛は放置。




「こんなもんかな」


《うん!》




続いて外の一角に既に設置済みの丸テーブルで食事をとる。



献立は栄養満点のカレーライスと言いたいところだが、お粥だ。



ペペペモリアは食事のほとんどを栄養ゼリーで済ませている。



研究中は飲食をほとんどせず、飢餓状態になるとガスマスクの中にある栄養ゼリーストックパックが開き、口にダイブ。



正直やめてほしいと一度言ったら、




≪あー≫(否定の意)




ともう一つの右ポケットに入っている機械音製で否定されたことがあった。



そのためペペペモリアの胃袋はメダカの胃袋よりも小さくなっている。



さらには消化器系もほとんど息をしてないため、いきなり肉なんて食わせたら吐くとは経験則である。




「はい、じゃあ、いただきます」


《うん!》




手を合わせて二人もちょもちょ食べ始める。



お粥の真ん中には梅干しが一つ添えられていた。



「あ、そうだ。


部屋の中で育ってたムラサキベンベンショウとヌイオツキロコは全部むしって捨てといたから」


《うん!》


「あと、倉庫に栄養ゼリーの予備とミルオルニスも詰めといた」


《うん!》


「あと明日の予定なんだけどいつもどおりね」



「……」


「最初にウェスタリカで定例会議出席して~」


「……」


「関係各所に顔出して~、終わったら買い物して……」


「……」


「……って聞いてる?」




アメリアが視線を皿から目の前の友人に向けると、虚ろなパープルアイがこちらを凝視していた。




「どうした?」




何か違和感があると感じたのは、スプーンを持った手が止まり、ピタッと時間までもが止まったようにペペペモリアが突如静止していたから。




「お~い?怖いよ~」




目の前で手を振ってみても返事はない。




「……ただの屍?」




ボケてみてもずっと凝視してきている。



こちらが何かしら言えば、反応(《うん!》もしくは《あー》)はするはずだが、今は微動だにしない。



眼も先ほどから一回も瞬きしていない。



かなり怖い。



すると、突然ペペペモリアの目から涙がしたたり落ちた。




「えっ!?」




何が起こったのか理解できずに椅子から立ち上がり、驚きと恐怖を露わにする。




「なに!?まじで怖いから、なんか言って」




困惑が押し寄せる。



あたふたと意味もなく右と左を見ては、正面には涙を流し続けるペペペモリアがいた。



何故という質問に答える者は口を噤み、ひたすら理由を探すアメリアはつらつらと数撃ちゃ当たる戦法を行使する。




「それ、何の涙かわかんないけど、もしかして……。


ここ来るの面倒だからって、サプライズ感覚で道舗装したこと怒ってる?


それともシャンプーの匂い桃の香りにしたことに不満が?


……あっ!


この前会ったときに髪切りすぎて一部落ち武者みたいになっちゃったほうか!?」




その間もとめどなく流し続ける涙とそれを見て焦りと狂気を感じるアメリア。



ぐるんぐるんと何で何も言わず涙を流し続けているのかつきとめようとしても答えは出ない。



頭を抱えて、意味不明だがもうおしまいだと脱兎の如く逃げようと後ろを振り向いたところで、プスーッという間抜けな寝息が聞こえてきた。



音源はどう考えても、いや考えるまでもなくペペペモリアからのものに間違いない。



それでも自分の耳を疑ったのは今にも、誰かを殺しそうな目をしていたから。




だから……。




「……もしかして。


目、開けながら寝てる?」




その直後ペペペモリアの右手に持っていたスプーンが手から離れ、皿にカツンとぶつかった。



そのまま左手も脱力し、手の中にあった黒色の音声発生機械が落ちる。



ポチ。




《うん!》




呆気に取られたままのアメリアを置き去りにして、二人の間に元気な声が響いた。







ペペペモリアが目を覚ましたのはその日の夜だった。



さっきまで青と白が埋め尽くした世界はすでに青と黒の中間色みたいな色で染まっている。



あのまま机に突っ伏して寝ていたようで、薄手の毛布が一枚かけられていた。



ただ裸で寝ても大丈夫なほどに暖かいので、体が冷えることはない。



むくりと体を起こしたペペペモリアはきょろきょろと周りを見てから、求めるものを探す。



探しているのは愛用のガスマスク。



重厚な黒色のガスマスクは自分用に既に大量生産している『人制奇』もどき。



『奇跡を作る石』を材料にしているが、『人制奇』としての括りには該当されていないため、公的機関には登録もしていない。



そう言えば体を洗ってから新しいガスマスクを着けていなかったことを思い出し、予備のある家の方に足を向ける。



家の中は壁や天井、床に至るまでが綺麗になっていた。



おそらくアメリアがしたのだろうと、試験管などの器具から、机、メモ用紙に至るまで整理整頓されていた。



空気の籠ったこの部屋も喚起されて深呼吸が安心してできそうだ。



掃除も本来なら安全性を確立した装置と時間、人間を用いないといけないがアメリアならばとペペペモリアも気にしないで済む。



暗い部屋の電気を点けると机とセットの椅子に座って眠るアメリアを見つけた。



ペペペモリアとは違い目を瞑り、リズムのいい呼吸をしているあたり熟睡しているようだ。



持っていた毛布を肩にかけてあげ、冷蔵庫から食べ残していたお粥を取ってきて、同じ机で食べ始める。



ちびちびと食べるお粥は冷めていて、あまり美味しくは感じない。




「モリア~、うまいか~」




唐突にかけられた言葉にびくっと体を震わせ驚く。



だが、デヘヘヘヘヘと言いながら変わらず目を瞑っているあたり、すぐに寝言だろうと答えを出した。



ペペペモリアは再び一口、一口とゆっくり咀嚼して。



左ポケットに入っていた機械を静かに押した。



少しの微笑みを浮かべながら。




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