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ノア・リライツ 外伝 天才と少女の物語  作者: 少女計画
少女との生活
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第三節 一話 「この一年の変化とこの先」




メメリィアがペペペモリアの住むこの島にやってきて、今日で一年が経った。



それはつまりメメリィアの誕生日が訪れた日でもあった。



誕生日がわからないと言ったメメリィアにペペペモリアが出会った日を誕生日と決めたのは、数か月前のこと。



もちろん誕生日を祝いたいと言う気持ちもあった。



ただそれだけでなく、戸籍や人権を得るための個人情報作成に生年月日などもろもろの情報を揃えようとした際に必要だったこともある。



これにより、メメリィアが正式に戸籍を得たのがつい最近のこと。



通常ならばもう少し早く申請が通るのだが、やはりこの島で流れ着いたことが関係して、なかなかに通らなかったのは仕方がない。



この一年あまり多くのことはなかったが決して変化がなかったということではない。



メメリィアが大きくなったのは言わずもがなだが、その他の変化と言えばアメリアが半年前に島から出て行ったこと。



旅行の後も当然のように島暮らしを続け、仕事の両立が不可能になったのだ。



表情には出していなかったが、帰り道ぶつくさと小言を言っていたのは本人だけの秘密。




「別に、悲しくないけどね……。

 

 悲しくないけど、もうちょいお別れのときに、なんか、もうちょいなぁ……。

 

 全然、悲しくないけど……」




そうなると三人暮らしから二人暮らしと、不安しかない生活が始まったことが最も大きな変化なのだろう。



ペペペモリアとメメリィアの二人暮らし。



当初からこうなることはわかっていたが、それでも実際に始まってからはいろいろと大変続きであった。



勉強だけでなく日常生活のいろはを教わっていたメメリィアだが、アメリアがいない分、純粋に作業量は減ったものの感じる量は二倍だった。



ここでペペペモリアがどうこうできればそう問題にはならなかったのだが、そう上手くいくはずもなく。



生活能力ゼロは何をかけてもゼロなわけで、料理も洗濯も何故か爆発してしまう毎日。



そんなことだから、あっという間に生活習慣が乱れるのは早かった。







三か月前。




人制奇定例会議のためにアメリアが絶海の孤島にやってきたその日は、久しぶりの再会。



ワクワクし過ぎてあまり寝れなかったのは言うまでもない。



と言っても、連絡をこまめにとっていたので不安や心配はなかったが、いざ会って見たらなんてことがよくあるので、こうして向かっている最中は期待と不安と心配でいっぱいだった。



ボートを降り、舗装した道をゴロゴロとキャリーケースを転がしながら、歩いて行く。




「メメリィア大丈夫かな?

 

 私のこと、忘れてたりとかしてないよね。


 もしそうでも目の前で泣くの我慢しないと」




やはり画面だけでの通話では近況を知るには足らないところがいくつもある。



そこまで酷いことにはなっていないことは知っているが、それでも実際に会ってから出ないとわからないところは多くある。



家に入る手前、既に「くっさー」の「く」を用意してあったアメリアは右手を扉に近づけ、ノックをした。



コンコンコココン。


コンコココン。




「……」




反応はない。



やはりそうかと、懐から鍵を取りだそうとした矢先。




「は~い。 開けるよー」


「……?」




扉の先から聞こえてきたのは、聞き覚えのある幼い少女の声、がかすれているようにもくぐもったようにもきこえる声。




「あ。アメリアお姉さん。

 

 久しぶりー」




出迎えてくれたのはメメリィア(?)のように見えた。



いつもなら扉を開けるのはこちらだったので、なんだか不思議な気持ちがあったがそれよりも、鍵をぽろっと手から落としてしまったのは。




「え?」


「うん? どうしたの?」




頬についた漆黒の筒型排気部。



顔面をすっぽり覆うガスマスク。



よく見ると、記憶の中のそれとは異なり眼や鼻までガードできるようになっているそれは、ペペペモリアのつけていた人制奇モドキガスマスクに酷く酷似している。



というか、進化している。




「あ! これ、つけっぱなしだったんだ。


 ……ふぅ」




そう言ってガスマスクを外したメメリィアは三カ月前と比べて髪が伸びたように見える。



とりあえず、ガスマスクについては後で聞こうそう思い、再会の挨拶を済ませる。




「メメリィア、久しぶり。


 元気にしてた?」


「うん!

 

 毎日、ご飯食べて、ちゃんとお勉強してる!」


「よし!

 

 えらい、えらい!」




ニコニコと笑うメメリィアの緑髪を優しくなでてあげながら、どうやらしっかりやれているようだとわかる。



心配が杞憂に終わり、なんとか胸を撫でおろしもう一人の住人の顔が見えないことが気になった。




「あれ?モリアは?」


「ちょっと待ってて」




そう言うと、家の中にあった壁掛けの時計を見てから再度やってきた。



それすらもアメリアは見たことないモノだったので、不思議に思う。



部屋の中も顔をしかめるような悪臭は漂ってこないようだ。




「今の時間だと、おにいさん散歩してると思うよ。

 

 そろそろ帰ってくるころじゃないかな」


「え?

 

 ……散歩?」


「あっ、ほら。


 帰ってきたよ」




アメリアは鳩がマシンガン撃たれたような顔になり、聞き間違いなのか、それとも本当なのかわからなくなる。



もしも聞き間違いでなければ、あの不摂生不衛生不干渉、猫背ガスマスク金魚の糞男が散歩に行っていると。



メメリィアはそう言ったのだ。



そんな困惑も覚めならないまま、アメリアの背に聞き覚えしかない声がかかる。



「久しぶり。アメリア」


「……え?」


「どうした?」


「……え?」


「どうしたの?

 

 アメリアお姉さん?」


「……」




これはどういうことだ。



島を離れて三カ月の間に何があった?



振り向いた先にいたのは、ペペペモリアだ。



ああ、そう、あのペペペモリアだ。



稀代の天才人制奇製作者、恐怖の人制奇製作者、マッドサイエンティスト、サイコパス、金魚の糞、モリア、いろんな名を冠するあの男だ。



汚くてふけが飛んでいてシラミと汚物と大の仲良しの、あの、ペペペモリアだ。



だが、今目の前にいるのはどこからどう見ても、好青年ペペペモリア。



眼の下のクマや、猫背、くるんくるんのくせっけは変わらないが、やせこけた頬はある程度肉が付き、すらっと伸びた鼻、さらには……。



そこで気付いた。



目の前のペペペモリアがガスマスクをつけておらず、黄ばんだ白衣を脱ぎ棄て、半そで半ズボンのジャージ姿でいることに。



額には汗を流し、首には白いタオルがかかっている。



その容姿、恰好、雰囲気は依然と比べ物にならないほどに……。




「なんか、……綺麗になってる」




絞り出せた言葉は、そんな三カ月ぶりの再会の言葉とはほど遠い、失礼極まりない言葉だった。



これが三か月前の出来事。







あの後、聞くところによると最初はかなり大変だったらしく、アメリアが島を離れたタイミングで研究を再開した研究スペースにメメリィアが入ろうとして危なかったり。



地面に転がっていたミルオルニスの欠片をメメリィアが、間違えて食べそうになったり。



それだけにとどまらず、そもそもの生活時間、食事、睡眠、などアメリアがいたときは、その全てをしっかり管理されていた二人はかなり戸惑った。



メメリィアはというと、なんとか規則正しい生活をしようとしたが、うまくいかずもちろん、当然のようにペペペモリアも。



アメリアがいなくなった途端に、湯船を張らなくなり、シャワーだけ、食事もインスタントが主流。



ペペペモリアに至っては、シャワーも浴びず、食事もガスマスクに収納した栄養ゼリーだけで済まそうとする。



睡眠時間は安定せず、家からほとんどでない引きこもり状態。



彼にとっては当たり前と言えば、当たり前の日常に戻るだけだったが、メメリィアにとってはこの生活こそが、異常だった。



最初の何日かはこれでもいいかもなんて、考えていたがまさしくそんな生活を送り始めて三日。



とうとうメメリィアは立ち上がった。



このままじゃいけない。



そう思ったメメリィアはアメリアがいたときの記憶を必死に思い出し、早寝早起き朝ご飯。



からの朝の体操、毎日の掃除、洗濯、などの家事。



もちろん整った場所で勉強もやって、ペペペモリアと共に規則正しい生活を送る。



そういったことを自発的にやらなければ。



そう思ったのは近くにいたペペペモリアの顔が日を追うごとにやつれていったように見えたから。



メメリィアのガスマスクは、メメリィアが研究スペースに入るときに必要だからとペペペモリアが作った物だったり。



なんで散歩に行っていたかというと、そういう習慣をどんどんメメリィアが決めて行ったからだそうだ。



互いに必要なものを話し会い、こうすべき、ああすべきと語り合う姿はまさに家族のよう。



そうして、次第に生活習慣は確立されていき、日々健康に気を使った結果。



ペペペモリアは綺麗になった。



とまあ、この一年の変化についてその他と言えばメメリィアの学習能力はかなり高いことがわかったこと。



言語面での学習能力は芳しくないが、算数、数字については高水準。



渡していた算数の教材の全てをとき終えていた。



さらには人制奇について興味があるようで、最近は本を読んで知識を身につけている。



ただ、文字を読むのに苦戦しているようで、ここはなんと読むのと、まだ幼さが見える。




これがここ一年の変化のようなもの。







あれからあっという間に、さらに三カ月の今日はメメリィアがこの島にやってきてちょうど一年、ペペペモリアとメメリィアの二人暮らしが始まって半年。



朝一にアメリアが島に訪れ、そのままオプライデント国で人制奇定例会議を行い、帰ってきてから初めての誕生日という忙しくも充実した一日を送った。



そんなあっという間に過ぎ去った一年を振り返りながら、この先のことを見据える必要があることを忘れてはいけない。



この先のこと、メメリィアのこと、今後の生活のことだ。



誕生日を祝い、メメリィアにとっては夜更かしの午後10時を少し過ぎたあたり。



既に布団に入りぐっすり眠っているメメリィアを除いた二人は、綺麗に整理整頓された研究スペースでコーヒー片手に話し会っていた。




「あのさ、単刀直入に言うけどメメリィアの今後について、相談したいんだけど」


「ああ」




油の濃い料理にケーキの入った胃袋は、なかなかに苦しかったが、一年に一回となれば別に悪くないかなと思う二人。



先ほどまで灯の灯っていた部屋は暗く、そこにいる小さな少女の未来を思って語り出す。




「まず私的にはね。


学校に通ってもらいたいなって、思ってる」


「……学校」


「うん、それで。


 学校に行ってもらいたいのにはやっぱり今後、成長していくといろんな人と接しないといけない。


そういうのを練習できる場としてね。


もちろん、教養とかの勉強もある程度にはやっていろんなことを知ってもらいたい」


「うん」


「まあ、それでもやっぱり一番は同年代の子と一緒に遊んだり、学んだり、そういう共感できる子、友達を作って欲しいんだよ。


どうしても、この島にいる限りそういう機会ってないわけじゃん」


「ああ」




メメリィアがこの島にやってきて一年経つが、それでも同じ年の子と比べたら、どうしたって彼女の世界は小さく、視野も狭い。



世の中には机に向かっているだけではわからないことがごまんとあるのだと、アメリアは加える。




「それにメメリィアには悪いけど、モリアもおちおち人制奇作れないでしょ」


「それは……そうだけど」


「いや、ごめん。ちょっと言い方良くなかった。


 でも、私だって仕事とかあって、ずっと見てられるわけじゃないんだよ。


まさか一生メメリィアをこの島で住ませるとかは考えてないでしょ?」


「それは考えてない。


 どこかのタイミングでメメリィアとは……」




言葉の端が小さくなったのは、まだその未来が見えないからなのかそれとも単純に、離れたくない、そう思っているからなのか。



自分の胸に生まれた不思議な靄を直視できないまま、会話は続く。




「でしょ。


 とりあえずメメリィアは現状すくすく元気よく育ってるわけだし。


 こういうのは早い方がいいと思うんだよ。


それに、テレビとかで自分と同じくらいの子とかさ、物珍しそうに見てるんでしょ?


きっと、私やモリアじゃない別の誰かと話したいんじゃないかな」


「……それは、そうだね」




たしかに言われてみればそうだと、メメリィアの話し相手はいつだって自分とアメリアが大半を占めていた。



どうしたって、メメリィアにとって自分と近い歳の子と話す機会はこの島にいるだけでは極端に少ない。




「うん。


 ってことで、まずは学校に通わせるってのは大丈夫?」


「ああ、賛成だ」


「よし。じゃあ、早速、明日話してみようか」


「早くないか?」


「んー。


そうかもだけど、とりあえず学校に興味あるかどうかは早めに知りたいところだからさ。


それにもしかしたら、存在は知ってるけど言い出せない……とか、あるかもよ」


「なるほど」


「じゃあ、そういうことで」


「うん……」




一先ず今後の目途が立ち会話自体が終わりそうな雰囲気の中、ペペペモリアがコーヒーを一口飲み、天井を見上げる。




「どうしたんだよ。


 物憂げに天井なんて見ちゃって。

 

 納得いかないとこあった?」


「いや、そうじゃない」


「じゃあ、どうしたの?」


「なんだか、こんなに時間が過ぎ去るのが早く感じたのは初めてだなって。


 ついこの前、メメリィアと出会って、ご飯を食べて、話をして。


旅行に行って、たくさんのことを一緒にして、誕生日まで祝って。


 文字なんて何にも書けなかったのに今では、ちゃんと書けるようになって。


 なんだか、不思議だ」


「……ぷっ。ふふふっ」


「?」


「なんか、あんなちんちくりんだった少年が、いまでは父親みたいなこと言っているから。


無償に笑えてきた」


「ああ……たしかに、笑えるかもしれない。


 あの頃の自分が今の自分を知ったら流石に苦笑の一つでも出ると思う」


「そうだね。


 先のことなんて実際に来てからじゃないとちゃんとはわからないよ。


 私だって、モリアだって、もちろんメメリィアにだって。


 きっと、この先後悔とか失敗とかの連続だけど、あの子が毎日元気に生活できるよう頑張ろ」


「ああ。……ふっ」


「なんだよ。


 今のどこに笑えるところがあった?」


「アメリアは、本当にお祖母ちゃんじみてきたなって」


「うっわー。


 そういうこと言う?」


「ちゃんと変わってきているって意味も含めて」




正面にいるアメリアの目を見て、応えたペペペモリアの眼差しは柔らかく、相手を思う優しさがあった。



その言葉と眼差しだけで、何を伝えたいのかがわかるのは二人だからこそ。




「……ばか。


おばあちゃんだから涙腺もよぼよぼなの。


泣きそうになるのでそういう発言やめてください。


それに、私だけじゃないでしょ」


「どういうこと?」


「モリア、お前も変わってきているよ。


メメリィアが来てからよく笑うようになった」


「……そうかな」


「うん、そうだよ」




二人はそうして、もう一杯コーヒーをおかわりしメメリィアの最近の様子を語り出す。


部屋に香るほろ苦い匂いと共に、長い夜は更けていくのだった。




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