第二節 十二話 「旅行二日目ダイジェストーアメリア脳内日記ー」
オプライデント国旅行 二日目。
昨日、ホテルに戻ったアメリアとメメリィアは寝るまでずっと話していた。
内容はユルオクティカにある骨董品店について。
店の軒先にぬいぐるみが吊るされていたこと。
扉とポストに謎の文言があったこと。
店員は双子の姉妹だったこと。
店の中には初めて見るものがたくさんあったこと。
もちろん、そこで購入したお土産の真緑のデスマスクについては話さなかった。
というのもまだ渡していなかったから。
サプライズという形で帰ってから渡したいとメメリィアは考えていた。
それもバレないようにベッドの下にすぐに入れたことはアメリアにはすぐにばれていたのだが。
ただ、アメリアはメメリィアの考えを読み、敢えて言わずワクワクして待つことにしたのは流石と言わざるを得ない。
話の内容は骨董品店で特に気になった金色の卵の話になり、そこからたくさんの不思議なモノを見たんだと話す。
その後、行ったラスメニカのショッピングモールのことを話し終えると次第に瞼が重くなってきたメメリィアはそのまま、すっと意識が沈んだ。
流石にはしゃぎ疲れたのだろう。
いつもよりも少しだけ早い時間にアメリアはそう思う。
掛け布団をしっかりかけてあげベッド横の電灯を消す。
室内はそれだけで静寂な空気と闇が支配する。
すっかり夢の中に行ってしまったメメリィアに対して、アメリアもベッドに横になり目を瞑った。
―――が、それは意識を沈め休むためのものではない。
むしろその逆。
明日の計画立てに脳のリソースを割き思考を巡らせていた。
アメリアの思考の渦を覗けば内容はいたって純粋。
明日なにしようかなぁ。
あれしようかなぁ。
これしようかなぁ。
あれ食べようかなぁ。
これ食べようかなぁ。
それともあれの方がいいかなぁ。
それともあっちがいいかなぁ。
というか何、着ていこうかなぁ。
何、着せようかなぁ。
ていうか、どうやったら二人になれる状況をつくれるかなぁ。
モリアをどうやって置いていこうかなぁ。
適当にウェスタリカにほっぽっていけばいいかなぁ。
なんなら、もう黙って行っちゃおうかなぁ。
書置きしておけばいいかなぁ。
いっそのこと、一服盛ってやろうかなぁ。
真っ暗な視界で、脳だけは、考えだけは光の速度で加速していき明日のことを考えていた。
ようやく決まったスケジュールを何度も確認し脳内シミュレーションからのリスケを繰り返すこと数千回。
鳥がチュンチュンしてきたあたりでガタッと意識が飛び、ガタッと飛んだ意識はすぐに隣にいた少女に揺すられて覚醒した。
「はぁっ!」
「おはよう、アメリアお姉さん。
もう朝だよ。
お腹空いた。
ご飯、食べに行こう」
体内時間で数秒前の景色の違いは、カーテンの隙間から目に入る光量が僅かに増えた程度の違いしかわからなく、もしかして寝てた?
という判断よりも、やばい気絶してた、という方が近かった。
時刻は六時ぴったり。
あまり考えたくないがたぶん三十分ほど意識が落ちていたのだと気付く。
体感五秒で三十分ほどの体験をしてしまった。
時間が数百倍に圧縮された不思議な感覚は何度やっても慣れないなと腹部をさする。
寝起きはあまりよくないほうだと自負するアメリアの隣では、メメリィアが瞼をこすりながらも、お腹減ったと再度朝食を促していた。
「……おはよう。
うん。
朝ごはん、食べに行こうか」
次第に働き始めた鈍く重たい頭と体に鞭を打ち、ベッドから身を乗り出す。
ここでもう少し寝かせてとならないのは睡眠欲をも吹き飛ばす、遊びに行くという目的のためだ。
スケジュールはさっきまで今日だったはずの昨日に考えたので完璧。
体調もまあ、鏡見たら二日酔いの顔してたけど完璧。
精神状態もちょっとジャンプしてジャブして、チンプなキャンプしたい感じだから、うん、ある意味、完璧。
よっしゃ、今日は遊ぶぞ!
*
ここで今日は何したのかと言ったらそれはもう言葉では語り尽くせないほど遊んだ。
第一都市ウェスタリカから第三都市ユルオクティカにかけて絶景スポットや遊楽施設に、もうひたすら巡った。
移動は徒歩だと限界があるので車で周って、端から端まで最も効率のいい順番時間帯で巡った。
我ながらにベストな時間管理をして巡った。
メメリィアは最高に楽しんでいた。
顔を綻ばせ、アハハという笑いをこちらに向け「ほえー」も何度も出た。
はしゃいでいた。
目に見えてうまくいった。
綿密に練った計画は全て順調だった。
計画通りだった。
常に余裕があったし、他の場所の込み具合とか、時間帯による気温的な弊害とかそういうところも気にした。
モリアには到底無理だろうリードをした。
本当に完璧だった。
ほとんど徹夜明けの胃袋に油の濃い肉料理食べて、途中メメリィアが見てないところで吐きそうになったけど、無理やり飲み込んだ。
途中メメリィアの見てないところで、オモッきし看板に顔面ぶつけて鼻血出たけど、ばれないように隠した。
途中メメリィアの見てないところで、上空からメメリィアに向かってボールが飛んできたの庇ったら、かなり固いボールだったみたいで顔面に当たって歯が一本バイバイしたけど、そんな素振り一切見せなかった。
点数をつけるなら、文句なしで100点だった。
……ただ。
ただ、どの絶景スポットどんな施設よりも食事のときのほうが嬉しそうだった。
ホテルで食べたバイキング形式の朝食も。
ユルオクティカで食べた昼食も。
ウェスタリカで食べたオシャンティーな夕食も。
メメリィアはそのどれもで、自身の頬がポロリと落ちないように頬に手を当ててもぐもぐごっくん「ほえー」と目をキラキラさせていた。
口から涎を垂らし、ワキワキと腕を動かし、見てるこっちまで、お腹いっぱいご馳走様眼福眼福マジで至高って感じだった。
ホテルに戻ってからも「あそこ綺麗だったね!」とか、「あのアトラクションは面白かった!」とか凄い楽しかったのが伝わってきたけど。
けど。
けど、だ。
それでも、それでも話の八割程度は今日食べたご飯のお話だった。
別に悪いということではない。
むしろ、いい。
だけどさ……。
こう、なんて言うの?
もう少し。
あと、もう少しでいいからさ、なんか欲しかったよね……。
昨日モリアと巡った骨董品店の話をしてたときは結構そのときそのときに思ったこととか、モリアがどうだったとか楽しそうに話してたんだよね。
まあ、一緒に周った相手に今日のこと改めて話すのって難しいかもしれないけどさ。
けどさ、明らかに昨日の話してたときの方が目、きらきらしてたんだよね。
いや、いいよ。
嬉しいよ。
マジで。
一緒に巡れてよかったよ。
二人で巡るために、モリアに一服盛って一日中ホテルで寝かせたのも後悔してないよ。
むしろしてやったぜって気持ちの方が強かったよ。
だけどさ……。
まあ、うん。
はい。
……。
「おやすみなさい」
「おやすみー、アメリアお姉さん」
という感じでオプライデント国旅行二日目。
アメリアは自身の脳内日記に「旅行二日目ダイジェスト」という題で以上のことを書き込み、九時には寝たのだった。
枕には小さな水滴が一つ落ちていた。
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