第二節 十一話 「旅行一日目の終わりに」
店を出るとまだ午後の三時ほど。
太陽は一番高いところからはやや沈みに入っているが、数時間ほど前と同じくらいには熱いし明るい。
アメリアの仕事終了が、午後の七時ぐらいとの話だったのでまだ四時間もある。
予定通りならばそれまで探検し、仕事終わった連絡を受けたら一度、第二都市のホテルで合流。
ホテルを予約したのはアメリアなので部屋割はしっかり、アメリアとメメリィアの二人で一室、モリア一人で一室。
合流後はどこかで夕食を食べて、そのまま今日はホテルで休むという感じだ。
夜更かししてパーッと騒ぎたい気持ちもあったアメリアだが、メメリィアはどんなに遅くても九時には眠ってしまうので、最近の生活はとても規則正しくお肌テカテカ。
「おねえさん、喜んでくれるかな?」
店を出て大分落ち着いてきた繁華街の通りを行く途中。
何に言っているのかは今、メメリィアが持っている白色の箱、綺麗に赤と青のリボンでラッピングされたデスマスクのことだろう。
ペペペモリアは贈り物をもらったことはほとんどない。
だからプレゼントを貰ってどう感じるかはよくわからなかった。
ただ、アメリアが自分に生活用品を買って持ってきてくれるのはありがたいなとは思っていたので、それと近い意味合いならばきっと喜んでくれるに違いないとも思う。
《うん!》
「よかった。
お兄さんが言うんだったら大丈夫だね」
《……うん!》
「それで、お姉さんとごうゆうするのは七時なんだよね?
まだ大丈夫だよね?」
「……豪遊じゃなくて、合流」
「それ、ごーりゅう」
《うん!》
「じゃあ。
次は、あそこに行きたい!」
指を指したのは遥か向こうの長距離エスカレーターへと続く道。
メメリィアが行きたいと言った場所は第二都市ラスメニカ。
*
第二都市ラスメニカまたの名を「居住都市」。
名前の由来はオプライデント国に住むほとんどの住民が、ここラスメニカに住んでいることが主な理由。
住宅地からアパート、マンション、さらには宿泊施設としてホテルや旅館などの建物が町を埋め尽くしている。
概ね他国から来た観光客や旅行目的でやってきた人間はまず、ラスメニカの宿泊施設でチェックインし、部屋に荷物を置いてから国を周るというのが一般的だ。
ユルオクティカ繁華街や、ウェスタリカの専門的な施設を見て周ったり、一年を通して気候もあまり変わらず冬でも比較的暖かいので裕福層からは避寒地としても利用されている。
ただもちろんラスメニカは「居住都市」と呼ばれるだけあって、それだけというわけではない。
人が多く暮らす場所であるので、もちろん生活用品店やスーパー、公園、学校、病院、その他にも多くの施設が存在する。
他の都市と比べると特にこれといった特質するべきものがないが多様性、様々な面で人が住みやすい都市である。
*
ユルオクティカの骨董品店ポレナリエから最も近い他都市行きのエスカレーターを利用して行くこと、ものの十数分。
第二都市ラスメニカに到着したメメリィアとペペペモリアは現在、大型複合ショッピングモールにて探検をしていた。
地上九階建てのショッピングモールのここは一階食品売り場、二階家電製品売り場、三階生活用品店、四階ゲームコーナー、五階レストランなど他ファストフード店、六階本屋などの雑貨屋が複数、七階より上は全て駐車場となっている。
一階と二階のみ外から徒歩でも入れるようになっており、道路から長く伸びる歩道橋が店横まで続き、そのまま店に入ることができるようになっているのだ。
車で来た場合にも、広大な敷地面積を利用した駐車場と立体駐車場があるので、概ね車で来た場合にはそこに止め、エレベーターを使って店舗内に入る客が多い。
そんなショッピングモールにて現在二人がいるのは三階、生活用品店売り場。
の概ね買い物が済んだところ。
ペペペモリアの両腕には様々な商品が入った袋が複数吊るされていた。
右腕の一番大きい袋には、洋服、水玉のハンカチ、朱色のハンドタオルなどから始まり、大きなテディベアが顔をのぞかせている。
別の小さい方の袋には本や、色鉛筆、ノート、などの文房具。
かたや左腕の袋には一階で購入してきた食料品。
フードコーナーで買った唐揚げ、カップに入ったグミの山、深々と刺さった長ネギ二本が異様さを際立たせている。
他にもゲームコーナーで手に入れた小さいストラップ、チョコ、本、洗濯物を乾かすときに使えそうな便利グッズ。
その他もろもろ。
「お兄さん、たくさん持って重くない?」
《あー》
「メメリィアもどれか持つ。
ちょうだい」
《あー》
傍から見たらペペペモリアの現状は凡庸に凡骨に言えば、十中八九荷物持ちかパシリのどちらかだろう。
ただ頑なに全ての荷物を持つと言い出したのは当の本人であるうえに別にそれが苦でもないし、いたって平然とそれが当たり前のことのように自ら行動した。
「え~。
じゃあ、ご本だけは持つ。
かしてっ!」
メメリィアもこればかりは梃子でも譲らないとでも言うように目の前に出てきて道をふさぐ。
大の字に広げた手足は小さいながら確固たる意志を感じた。
「じゃあ、これお願い」
「うん!
わかった!」
左手に持っていた本の袋を渡すと、何が嬉しいのかニコっと笑顔を向けた。
「……?」
「ねえ、あとどれくらいお時間あるの?」
「一時間くらい」
「え!?
あと一時間しかないの!
早く行こう!」
残りの一時間と返すペペペモリアにメメリィアはすぐに向かうことを打診する。
現在いるショピングモールから目的のホテル前だとざっと三十分程度なので、もう少し探検できる。
だが、今回のリーダーは自分ではない。
そう思い、ぐいぐいと引っ張る小さなリーダーの決定に従うのだった。
《……うん!》
*
「へえ、へえ、あー、そうなんだ。
そうなんだー。
私がいない間にメメリィアとよろしくやっていたわけなんだー。
いいねぇ。
いいねぇ。
いい御身分ですねぇ。
ペペペモリアさん。
わたしが書類とよろしくやっている間にメメリィアとあんなところ行ったり、こんなところ行ったりしてたわけですかい。
ふーん、そうなんだ。
そうなんだ、そうなんだー。
はい。
今決めました。
明日はモリアがメメリィアと行かなかったところで遊びまくります。
これは決定事項です。
絶対に遊ぶ。
遊びます。
絶対にメメリィアと遊ぶ。
遊ぶ。
遊ぶ。
遊び散らかす!
モリア!
明日のメメリィアは私だけのもんだよ!」
酷くご乱心だった。
わざわざ誰がこんなことを宣っているのかなんて言う必要もないけれど、あえていうとモリアことペペペモリアの横を歩く彼女、アメリア・アインスは酷くご乱心だった。
あの後無事に合流し、荷物を置いてから食事を済ませホテルに向かう途中。
アメリアに今日はどこ行ったとか、何したとかなど語るメメリィアを横目に、こうして猫背ガスマスク男に呪詛を呟いている。
夕食は第一都市ウェスタリカにてメメリィアが興味を持ったブンデロガジョマンジの店で済ませた。
食べている間は、終止メメリィアはおいしいおいしいと口が忙しかったため現在どこに行ったのかという話になっている。
行きの次点でもそういう話にはなったが、メメリィアの猛獣の鳴き声のような腹の虫のせいで、それどころではなかったのだ。
「お姉さん、おこっているの……?」
ふりかえり心配そうに二人の顔を見るその表情はどこか不安そうで、こちらまで不安になってきそうなほど弱弱しい。
「ううん。
ぜんぜん、おこってないよ。
どちらかというと笑ってるよ。
ほら」
自然な笑みにどうにか不安を払拭できたようでメメリィアは、他にも何買ったとか、続けて楽しげに話す。
それをニコニコして聞くアメリアも、先ほどまで呪詛を呟いていたそぶりを一切見せないで笑っている。
ただニコニコな表情はとても自然だったが、ペペペモリアに対してだけ目の奥がドスの効いた黒だった、とだけは付け加えておこう。
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