第二節 八話 「二人ぼっちの探検」
「美味しかったー!
また食べにこようね。
アメリアお姉さん!
お兄さん!」
「うん、賛成!」
《うん!》
店を出て昼食にご満悦の三人は各々感想を言い合いなんとなく歩き始める。
「さて、この後どうしよっか?」
太陽が照らすユルオクティカ繁華街を抜けたところで、アメリアの一言から始まったのはこの後の予定。
昨日の次点で三日分の計画を練りに練ったのはアメリアの頭の中でのみの空想に過ぎず、そもそも約一名はやらなければならないことがあるからここに来たわけで。
「まずは、ラスメニカの遊楽施設で遊ぶでしょ」
「……」
「それで~、その後は市の公園があるからそこで自然を感じながら散歩して……」
「……」
「水族館とか動物園もたしかあるから、そっちも……」
「……」
「そっちも……」
「……」
「……すいませんでした。
ウェスタリカに一人で行きます」
ペペペモリアの視線がアメリアを射抜くと、観念したようにうなだれた。
―――数分後。
「後で絶対、今日あったこと教えてね……じゃあ、アメリアお姉さんは行ってくるよ」
「いってらっしゃい、アメリアお姉さん。
頑張ってね」
「うん、ありがと……」
アメリアは予定通り、研究メンバーと仲良くお仕事するためウェスタリカに引き返す。
打ち合わせと研究結果報告と雑務と、一番大事なのはこの前アメリアが新しく作った人制奇の生産ラインについての目途など。
もろもろの話をするということなので、今日はこのまま離脱。
「アメリアお姉さん、大丈夫かな」
《あー》
「うーん。
でも、お姉さんならきっと大丈夫だよね」
メメリィアはオプライデント国探検。
オプライデント国は広く、大きく三つの都市に区分けされた一つ一つは大都市さながら。
初めて訪れる者でも、そうでない者でも全容を知ろうと赴けば時間はかかる。
だからこそ、メメリィアの興味、探求心を埋めるのにはちょうど良かった。
金魚の糞ことペペペモリアも別にやることないので一緒に探検。
金魚の糞は浮草のように川の流れのように、ついていく。
ただそれだけだ。
この後の予定は概ね以上。
吐血しながら第一都市に戻る背を見送ったメメリィアとペペペモリアの二人は、まずどこに行こうかと探検の予定を話し合う。
「お兄さん、どこいく?」
《……あー》
この一ケ月でモリアとメメリィアの関係はかなり深まった。
最初は大人の男性というだけで、率先して自分から話しかけようとはしなかったが、最近ではことあるごとにペペペモリアの後ろをトテトテと引っ付くようになっていた。
やはり名前を貰ったというのが大きいのか、ペペペモリアがメメリィアの名前を呼ぶときには特に喜んだ。
「お兄さんは行きたいとこないの?」
だが不思議なことに二人になると途端に子供らしさを抑える傾向があった。
高身長と不健康そうな体躯、それに加えガスマスクと深いくまのある虚ろな目。
どう弁護しても不審人物ここにあり、そんなペペペモリア相手だと何故か。
単純に見た目という点もあるだろうが、それでも三人のときはそんなことはない。
ペペペモリアも、そのことについては僅かにだが気付いておりおそらくいまだに男性が怖いのだろうと結論付ける。
《あー》
「えーと、じんせいきのこととか……。
ご飯のこととか」
《あー》
しかし今回の移動はメメリィアが行きたいと言い始めて来たのに、いざ実際に自由になるとペペペモリアの意見を率先しようとするのは間違いだった。
「どこも行きたい場所ないってこと?」
《うん!》
「……」
「……」
道の真ん中で棒立ちになる二人。
モリアは棒立ち歴十年以上の棒立ちマスターなので、ここであと三日、本気を出せば一週間は平気に棒立ち出来る。
だがメメリィアは違う。
ペペペモリアとは違いまだ子供の身。
体力的には問題なかったが、じっとしていることに次第に我慢できなくなってくる。
「……じゃあ、メメリィア、あっちの青い屋根のお店に行きたいんだけど。
いいかな……。
お兄さん」
《うん!》
「はあぁ、よかったぁ~」
「?」
「あ、なんでもないよ。
お兄さん、よし、行こう!」
《うん!》
そうして二人は棒立ちすることをやめて、歩きだす。
二人と同じ方向に流れていく者、逆方向に行く者、皆に共通している点は忙しくしているが、明るく元気そうだということ。
目的地の青い屋根の建物まで、目測50m。
遠くはないが、まだ小さいメメリィアからしたらもしかしたらそうではないのかもしれない。
当然だが伸長差の激しい二人がいつもどおりに歩いたら、どうしたってメメリィアが後ろを歩くことになる。
ふとペペペモリアの脳裏にアメリアが言っていたことがよぎる。
(もしメメリィアと二人だけで歩くことになったら、ちゃんと手、繋いでね。
迷子になったら大変でしょ。
え?
ああ、違う違う。
メメリィアじゃなくて、お前の方だよ)
なんだか納得いかなったが、それはまあ冗談だったのだろう。
すっと、ペペペモリアは人混みを縫うようにして歩くメメリィアの手を握る。
「わっ、どうしたの?」
「……迷子になるといけないから」
「メメリィア、迷子になんかならないよ」
《うん!》
「でも、……なんか嬉しい」
ニコっと微笑むメメリィアの顔は太陽に負けないほど眩しい。
それは本心だったし、もちろん嘘偽りない。
ただそれが照れ隠しというものだというのは、このときのメメリィアも、もちろんペペペモリアも知らない。
二人は並んで歩きだす。
通りの向こうにあった青い屋根の店まで。
あともう少しだけこうしていたいと思いながら。
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