プロローグ
物心の着く前から周りにはゴミしかなかった。
鼻をつんざく空気と咽を焼くような異臭が充満したところで暮らしていた。
食べる物はゴミ山で拾ってきた物。
頑張って探さないとお腹が空いて死んでしまうから。
服がボロボロになっても怪我をしても必死に探す。
やっと見つけたのは蛆が大量についた肉や魚の破片。
頑張って口に入れようとするが、体は拒絶して躊躇ってしまう。
ただこの躊躇いがここでは命とりだ。
見つけたものはすぐに口に入れる。
それができないと他の人に殴られて、蹴られて奪われてしまうから。
痛い。
痛い。
痛い。
お腹を殴られて、腕を踏みつけられて、お肉を奪れてしまう。
やっと見つけたのに……。
目に映る物も者も全てがゴミ。
落ちている物は何かの機械の部品と生ごみ。
毎日大量のゴミを吐き出す車が今日もこの町を大きくする。
外の人はここに住む人のことなんて、人として見ていない。
ゴミを吐き出すときに何人もの人が死んだ。
排出される大量のゴミに押し潰される人。
ゴミの中で窒息する人。
車の大きなタイヤに轢死する人。
危険があるのはわかっているのに、今だってゴミの排出をこれでもかと近くで待っている。
お腹を満たすためのゴミを見つけるためだ。
お金になるかもしれないゴミを見つけるためだ。
そんなゴミでできたこの町を外の大人たちは「ゲルトバーグ」(ゴミの町)と呼んでいる。
空気は淀み、食べ物はゴミだけ。
人の内面も外面も汚い。
人が住むことを考えられていないこの場所にはゴミしかない。
だから。
だったら。
このままこんなところで生きるぐらいなら。
そう思って―――――。
*