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パットミトラッシュ  作者: 青野ハマナツ
シュガーダディ
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22nd ショウソウミート

 列車が停まる時特有の収束するようなモーター音がホームに響く。柔らかい電子音と共に扉が開き、銀河さんが乗車する。


 どうする?とりあえずここは見送るか……?いや、そんなことをすれば見失うのは確実……ここはオレだけでも乗るしかない……!


 構内に発車を知らせるベルが鳴る。オレは音が鳴り終わる直前に列車の中に滑り込んだ。もちろん、ターゲットにバレないように隣の車両に乗った。


 これからどうしようか……とりあえずまずは連絡だ。先日の尾行で、こういう行為はとにかく連携が大事だと理解出来た。伝わらなければ何も起こせない。


 オレは列車内の様子を観察しつつ、フリック入力を始める。


『どうすんだよ!もう乗っちゃったぞ』

『オレはとりあえず乗ったけど』


 オレは、少々強い文面を使って送れば、すぐに既読が付くかのではないかと思った。しかし、全っ然付かない。オレは過ぎ去っていく風景を見ながら焦りと怒りを感じていた。


 スマホを一度閉じ、深く息を吸う。もう一度スマホを開いてチャットを確認するも……既読は無い。電車内なので電話も出来ないし……どうすりゃいいんだ!!


『どうするのかだけ聞きたいんだけど!』


 オレは手すりをぎゅっと握り、怒りを収めようと試みる。しかし、怒りは収まるどころかどんどん増幅されていく。一切既読が付かない不安感からだ。


 列車は、間もなく大きな駅に到着する。おそらく銀河さんはここで降りるだろう。オレが銀河(ターゲット)の行方を確認するために隣の車両に目をやっていると、突然手の中のスマホが震える。


『ごめん!』


 常磐さんから送られてきたのは、あまりにも簡単な返信だった。とはいえ、返信が来た事実にオレは安堵し、次の返信を待つ。


『ちょっとゆっくりしすぎちゃった!』


 ゆっくりしすぎた……?まあ、そういう時もあるか。とりあえず返信しよう。


『まあやっちゃったことは仕方ない』

『それで?これからどうするの』


『まずは裏見くんだけでやってくれないかな?』

『私たちは完璧にしてから行くから!』


 はぁ……『完璧にする』がどういう意味かは知らないが、こんなことを一人でやらされるのか。なんだかんだ言って損な役回りだよな、オレって。


 列車が段々と減速していく。間もなく到着だ。目的が目的だけに、銀河さんを見失わないことはとても大事。しかし、彼女にバレないようにすることはもっと大事だ。すぐにホームに出て見つかってしまっては元も子もない。オレは一度ドア側の出口から離れ、気持ちを落ち着かせる。


 キィーっというブレーキ音がなり、電子音と共に扉が開く。予想通り、銀河さんは真っ先に下車した。オレは気づかれないようにその後ろについていく。


 改札を出て、エスカレーターを降りる。次に、南口からどこかへと歩いてゆく。人通りの多い大通りの方向ではなく、逆に人が少ない路地裏へ向かっている……?


 銀河さんが歩いた先は、複数のダクトが並ぶ広めの路地裏。しかし、なぜか数名の男性が待機している。スーツをビシッと着ている人から、雑にシャツを着ている人まで様々だ。オレは無音で撮れるスマホのカメラアプリを起動し、その時に備える。


 銀河さんは、五十代ほどに見える男性の前に立った。そして、二人は軽い挨拶を交わす。


「お久しぶりです〜」


「久しぶり、銀河ちゃん」


 オレはそれを見て真っ先に写真を撮った。しかし、まだ確定した訳では無い。もしかしたら銀河さんが密かにやっているちゃんとした仕事の取引相手……みたいな可能性もある。いや、無いだろうか……?


「今日はどこまで行ける?」


 おじさんが銀河さんにニヤつきながら聞いた。


「――行ける所までかなぁ?」


 銀河さんが考える素振りをしながら答える。――これ、録音とかもした方がいいだろうか。一応しておこう。オレはスマホを録画モードに切り替えた。


「どこで何枚とかある?」


 何枚というのはお札のことだろうか?この聞き方だと食事いくら、お茶いくら……みたいな料金設定の話をしているのだろう。


「うーん、それは直前にならないと言えないかなぁ」


「えぇー?じゃあ食事するのは?」


「三枚でどう?もちろん食事代とは別ね」


「いつも通りか。わかったよ」


 ――はい、確定でいいでしょう。「枚」が何を示すにしろ、食事という行為に物の授受が発生している時点でおかしい。これをパパ活と言わずしてなんというのだろうか。


「よし、じゃあ行こう」


 おじさんと銀河さんがこちらに向けて歩いてくる。オレはそれをもう一度撮影する。しかし、この体勢だと正面から撮っていることになる。


 早いとこ逃げなくてはならない。だが、こいつらがどこに向かうか分からない以上、適当に先回りするのは出来ない。見つかる可能性が高いからだ。


 オレが写真を撮ったスマホをポケットに入れようとすると、おじさんがこちらをチラッと見る。まずい……バレたか?


 オレは急いですぐ近くにあるコンビニの中に駆け込み、店内から二人の様子を確認する。危なかった。一人だからこそ小回りが効いたのかもしれない。――そうとでも思わないと不安でメンタルが持たない。


 ――異様な男女は予想通りデパートの方に向かっていく。オレはコンビニから出て、スマホで常磐さんと篦河に連絡を入れる。


『銀河さんパパ活で決まりっぽい』

『中船駅のデパートに向かってる』


 これで最低限の活動はできた。あとはどう動くかを確かめるために人数が必要だ。


『一刻も早くデパートに来て』


◇ ◇ ◇


 デパートの中に入ると、二人はエレベーターに乗ろうとしていた。銀河さんが広告を指さしながら何かをねだるような素振りを見せる。


「ウチ、このブランドのバッグ欲しい〜」


「この前ポーチを買ってあげたじゃないか」


「斜め掛けとポーチは全然ちがうっしょ!」


 ――あぁ、堕落している。人にものを頼む態度なのか……これが?オレは物を簡単に貰おうとする銀河さん、金でしか若い女の子と遊べないおじさん、どこにいるかも分からない常磐さんと篦河の全員に呆れながらも、ミスした仲間の到着を待つのだった。

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