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6話 予感 ~Foreboarding~

「ふんふん、ふーん♪」


 セレナは鼻歌なんか歌いながら、村の中を歩いていた。

 そのうちスキップすらはじめるのではないかと思うほどだ。

 そんなセレナが振り返って、急にたずねてきた。


「レド、どうしたんですか?」

「どうした、とは?」

「なんだか無口に辺りをキョロキョロして……そんなに私の村珍しいですか?」


 セレナがきょとんとして、不思議そうにそう言ってきた。


 珍しいといえば、なにもかも珍しい。

 これだけ贅沢に生の木材を使って、ありとあらゆるものが作られている。

 鋼鉄製のものや強化プラスチックなんてものはひとつも存在しない。


 だが私が黙して、視線を走らせているのはべつの理由だ。


「…………」

「…………」


 村の方々で、私たちのほうを見て村人たちがひそひそ話をしていた。

 彼らはジロジロと無遠慮に、セレナに連れられて村を練り歩く私の様子をうかがっていた。

 しかし私がそちらに視線を向けると、怯えたように視線をそらし自分たちの農作業に戻っていく。


<どうやら歓迎されてないみたいですにゃ……もう巡洋艦(ワイバーン)に帰りましょうですにゃ、マスター>


 相棒が弱気なことを言うが、そうもいかない。


「せっかく現地の……この惑星の情報が手に入れられるんだ。しばらく身を隠す惑星の情報だ……いくらあっても困るものでもないだろう」

<わたしたちの存在を知られるほうがリスク高いですにゃ……>


 それは、相棒の言うとおりだ。

 だからこそ、セレナには口止めをしておいた。

 私が光の剣(ブラスター)を使ったこと、勇者などという特別な存在ではないことを。


「ところで、セレナ……」

「はい?」

「いったい、どこまで行こうって言うんだ……もう村の中心だぞ」


 そんなに広い村には見えない。

 いままで通ってきた道と、外から見たときの広さから概算して村の中心部まで来ているのがわかった。


「私の家まで案内しようと思って……」

「貴様の家というのは、どこなんだ」

「すぐそこです! もう少し歩けば……あ」

「……?」


 セレナが短く声を発して、足を止めた。

 彼女の向ているほうを見ると、どうやら村の中心地に作られた広場のようなものが見える。

 広場には切った丸太を置いただけのような椅子や、少し高い大人ひとりが立てるような木製の壇が作られている。


 その壇の上にはひとりの、白いひげを生やしている初老の男性が立っていた。

 彼は周りの数人の村人となにか言い合いをしている様子だった。


「お父さん!」

「おお、セレナ! よく帰ってきた!」


 セレナが壇上の男に向かって、小走りに近よっていった。

 彼女はひとり、人だかりを避けて、広場の中心に入っていく。


 一方、男の顔には心の底からほっとしたような、安堵が浮かんでいるように見えた。


「無事か? どこも怪我してないか?」

「え、ええ……私はいつも通りよ? それよりどうしたの、こんなところで……それに、この人だかりはなに?」


 そして父と呼んだ男に問いかける。


「ああセレナ、よく聞くんだ……この村はもう駄目かもしれん」

「どういう……意味なの、それ……」

「村長! なに弱気なこと言ってるんです!」

「そうですよ、戦いましょう!」


 急に周りの村人らしき人々から「そうだ、そうだ」という合唱がはじまる。

 檀上の男は、その勢いに押されつつ、額に汗を垂らして弁明した。


「し……しかし、話によると……到底この村で押さえられる数では……」

「村長がそんな弱腰では、勝てるもの勝てませんよ!」

「いいですか、村長? 村の皆が力を合わせれば……!」

「――いい加減にしてください!!」


 それまで怒号すら飛んでいた、広場が急に静かになった。

 いまのいままでしゃべっていなかった、壇の脇にいた小柄な男の大声が原因だ。


「無理なものは無理なんですよっ! そんな……村の大人が力を合わせたからってどうにかなる数じゃないんです……!」

「コニス……だ、だからといって我々はこの村を捨てるわけには……」

「僕だって、育ったこの村が踏みにじられるなんて嫌なんです……でも、どうしようもないじゃないですか!?」


 そう訴える小柄な彼は、目に涙を浮かべ、唇をへの字に曲げて悔しそうに訴えた。


 状況がまったくわからないが、話を聞いている限りわかることがふたつ。

 翻訳機は正常に働いていること。

 そしてこの村になにかよくないことが迫っているということ。


「あ、あの……お父さん、いったいなんの話?」


 セレナが壇上の父親に再度問う。


「ああ、セレナ……よくお聞き……」

「うん……」


 父親がセレナの肩に震える手を置き、ガチガチと歯を鳴らしながら、囁いた。


「山からビフトの大群がこの村目指して、やってくるらしい……」

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