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33話 力 ~Element~

 いまは村の広場で、突然の来訪した宮廷魔術師を名乗る少女を取り囲んでひと騒ぎになっていた。


 話を聞く限りこのラピスという少女の目的は、最近このジプサム村周辺に振ってきた、隕石の学術的調査らしい。

 説明するまでもないだろうが、その隕石というのは私がこの惑星に乗ってきて、現在は墜落の衝撃から航行不可能になっている宙間巡洋艦(ワイバーン)のことである。


「それで、おぬしも見ておらんのか?」

「いえ、私もそんな流れ星……見た覚えがございません」


 だが、そんなことを素直に教える理由も義理もない私はとぼけた返答を返す。


<そんな流れ星を見たことがにゃいのは本当ですしにゃ>


 そのとおりだ。その流れ星に乗っていたのだから嘘はついていない。


「そもそも、おぬしは何者じゃ? この村の者ではないらしいが……」

「師匠! コイツは危険です!」

「危険? シャインディ、危険とはどういうことじゃ?」

「シャディです! コイツはあたしも見たことのない光の魔法を使ってくるんです……それに、ほかにも大地に関する魔法まで……!」

(ちっ。余計なことを……ぺらぺらと)


 同時に、私はシャディのいる場で気軽に手の内をばらしたことを軽く後悔した。


「ほう……使い手というわけか。ん? しかし、光と大地? 二属性操作できるということか?」

「私みたいに同時に使えるかどうかは知りませんけど……」

「あの……よろしいでしょうか?」


 勝手にわけのわからない話を進めるふたりの間に割って入る。


「なんじゃ、ニグリース?」

「……ニグレドです。私は、そこのシャディ嬢が言うような不可思議な力は……魔法は使っておりません」

「ほう?」

「ただこの地方ではあまり見慣れない武器と、作物の種を持っているにすぎません」

「なにが見慣れないよ……あんなの魔法に決まってるでしょ……使い手相手に隠したって意味ないじゃない!」

「いや、待て、シャルディ」

「シャディ!!!」

「ニグイム……おぬし、さっきから魔法と言っておるが……」

「あの、ニグレドです」

「おお、そうじゃった。ニグレド、おぬし……慧門術ゲートという言葉に聞き覚えは?」

「慧門術? いいえ……知りません」

「では、おぬしの使っているのは我が弟子のいう魔法ではないな」

「……?」

「いいか。わー様たちが使う魔法というのは俗称じゃ。正式には慧門術という……世界にある気を四つの属性(ちから)を通し、意思の力で操る術じゃ」

「四つの属性?」


 さしずめ、火と水と、土に風といったところか。

 私は暇なときやっていたコンピュータゲーム(RPG)で定番の四属性を思い浮かべていた。


 しかしラピスの口から語られた属性は私のまったく予想外の四つの概念だった。


「すなわち――光力、重力、核力、変力の四つじゃな」

「……!?」

<マスター、それって……にゃ!?>


 古典物理学だと!?


 私は魔法というあやふやなものに、突然、科学的な属性が付与されたことに驚いた。


「……? なにを驚いておる……やはり、なにか覚えがあるのか」

「い、いえ……それは興味深いですね。教えてもらえば、私も使えるものなのですか?」

「無理無理。才能がなければ……まあ、あとで暇ならば才能を探るくらいはしてもいいが……」


 そこでいったん話を切って、彼女は言った。


「それより誰か流れ星を見たものはおらんのか!? どんな情報でもいい、地鳴りはどの方角から聞こえてきた!」

「…………」


 村人はその問いに誰も答えられなかった。


「ほ~ら、先生……村の人誰も答えられないんだから王都に帰りましょうって~」


 荷車のハンドルを握っていたラピスの付き人の青年が言う。


「アホウ! ここまで来て帰れるか……王都の馬鹿者どもが、しょうもない事務処理をさせおって~! おかげで二週間も足止めされたんじゃから、ここで調査しなければここまで来たかいがないぞ!」

「あ、あの~……いいすか?」

「ん……おぬしは、誰じゃ?」


 広場の外のほうで手が上がった。

 村人の間を縫って前に出てきたのは、私の部下であり、元山賊の男だった。


「この前の、流れ星っすよね? おれ、あれが落ちるところ見ましたよ……」

「なんじゃとー!? どこじゃどこじゃどこじゃー!?」


 私にとって事態は非常にまずい方向へと流れはじめていた。

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