その89・鏡は怖いよ
朝六時。
目覚まし時計の音で、俺はいつも通り目が覚める。
隣では妻が微笑みを浮かべながらも目を閉じている。
良い夢でも見ているのだろうか。
重い体を起こし、ベッドの隣にある小さな棚の上にある時計を消してから、ゆっくりと歩き始めた。
階段をドンドンと小さく音を立てながらも、一階に降りる。
既に高校生である娘が起きており、階段近くにあるキッチンから牛乳を取り出し、コップに注いでいるのが見えた。
「もう起きてたのか」
「今日テストなの。ちょっと早めに出て外で勉強する」
「家でやればいいのに」
「友達とスタバに行く約束してるの」
「そうか」
俺は大きくあくびをしながらも、角にある洗面所に向かう。
鏡の前の洗面所にて、俺は水を出し、顔を勢いよく洗い始めた。
まだ昨日飲んだ酒が抜けてないみたいで、まだ眠気が完全に冷めてない。
それどころか、まだ気持ち悪さも残っている。
水を止めて、隣にあるタオルを取り出し、顔を拭き始めた。
すると鏡越しに娘が立っている。
俺は驚きながらも後ろを振り返る。
娘も目を見開きながらも
「何よ」
「驚かせるなよ」
「さっきから呼んでるじゃない」
「は?」
恐らく水の音で聞こえてなかったのだろう。
「あぁごめん」
「これから行くけど、お母さんには夕ご飯いらないって言っておいて」
「またどこかで食べて来るのか?」
「そうよ。友達の家で」
「その友達ってまさか・・・」
「女友達だから」
少し不機嫌そうな表情をした娘は「行ってきます」と言い、その場を離れていった。
正直、年頃の娘を持つと心配事ばかり増える。
別に恋愛は自由だし、俺は何も言うつもりは無いが、まだ高校生の身分で男子の家に行くのは、俺は正直不安だ。
つい羽目を外して・・・ということもあるため、油断はできないなと感じながらも、タオルでもう少し顔を拭き始めた。
目線が真っ黒から鏡が映し出された時、後ろに女性が立っている。
俺は叫び声を上げた。
しかし、それは妻の姿だった。
妻も驚きながらも
「ちょっと、朝から驚かせないでよ」
「通るなら通るって言ってくれよ」
妻は呆れた表情で、歯磨きを取り出し、粉を付けてから歯を磨き始めた。
「なぁ、一つ言っていいか?」
「何よ」
「それ、俺の歯磨き粉」
「えっ?」
妻は慌てていたせいか、俺がいつも使っているバニラ味の歯磨き粉を使った。
ちなみにいつも妻が使っているのはストロベリー味だ。
これは鏡のせいなのか?
それとも天然さもある妻が悪いのか?
俺は訳が分からないため、ため息をしながらも洗面所を離れた。
~終~




