その86・券売機の気持ち~駅編~
僕は券売機。
機械だからって心を持ってないわけではない。
僕にも心があり、感情もある。
まぁ涙を流すとか、笑顔になるとかは出来ないが・・・
今、僕がいるのはとある駅。
切符を売るためにここにいるのだ。
毎日、様々な人間に出会う。
サラリーマン・OL・高校生などが、僕を前にしてお金を入れていく。
切符を買う人間が少なくなってきているが、それでも僕の役目が終わったわけではない。
電子マネーにお金をチャージするために、利用してくれる人は多くいる。
その他にも新幹線や特急など、切符でしか使えない列車に関しては、僕を前にして買ってくれる。
だからこそ、この仕事にやりがいを持てているのだ。
それともう一つ、僕だけ出来ることがある。
それは、どんな人がどんな場所に向かっているということだ。
切符でも当然統一の値段ではない。
値段によっては近場か遠出なのかすぐに分かるのだ。
ある意味、ここは特等席だなと感じながらも、毎日仕事をしているのだ。
そんなある日、時間は午前十時頃だ。
一組の親子が僕に近づいてきた。
お母さんとまだ小さい男児だ。
見た目だと小学生なのか?
僕は機械言葉以外喋れないため、質問することもできない。
まぁ突然機械が質問したら怖いか・・・
子供がお母さんを見上げながらも
「ママ。今日は何処に行くの?」
「そうね。どこ行こうかしら」
決まってないんかい。
大体親子なら、どこに行くかを家で決めて来るだろう。
気まぐれで電車を利用するのか。
初めて見る親子だなと思っていると、子供が
「新宿とかは?」
「そうね。近すぎるかもね」
「じゃあ、熱海は?」
「ちょっと遠すぎるかも」
「じゃあ、横浜とかは?」
適当に出す地名が、あまりにもバラバラだ。
熱海は確かに遠すぎる。
新宿は確かに近すぎる。
その間が横浜って、よく分かるなとツッコミたくなった。
でも後ろにも人は並んでいる。
母親は頭を悩ませながらも、上の路線図を見ている。
後ろを見ろよと言いたい。
すると母親が
「決めたわ」
「どこにするの?」
「横浜に行ってみようか」
「やったぁ~」
横浜だとここから一時間半ほどかかる。
まぁよくこの駅からも横浜駅まで行く人間もいるため、驚きはしなかったが、その分をお金を入れてくれればこちらで何とか出来る。
母親が入れたお金は二百五十円。
到底横浜まで足りない。
何処の横浜に向かおうとしているのか。
親子は切符を取って、改札機に向かって行った。
意外と人間は面白い生き物だ。
そう感じる暇もないまま、次のお客が来た。
~終~




