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その82・手術室の前で

俺は今、手術室の前で立つ尽くしていた。


「ねぇ、あの子は大丈夫なの?」


近くの椅子では妻が心配そうな表情でこちらを見ている。


「大丈夫だ。大丈夫・・・」


俺はそう確信したいが、出来ない。


すると、手術室から看護師が手術着を着用しながら出て来た。


俺は看護師に近づき


「先生、正美は」


「今、油断のできない状態です。ちょっとすいません」


そう言って走って廊下の奥へと消えていった。


妻は祈りを込めながらも、目を瞑りながら何かを呟いている。


俺の一人娘である〈正美〉が、交通事故に遭い、緊急搬送されたのだ。


小学校の帰り途中、車に撥ねられて頭を少し打ち、搬送時は意識があったものの、途中で意識を失い、意識不明の重体となっている。


まだ七歳を過ぎたばかりであり、あんな元気な子がまさかと、耳を疑いたくなったが、現実は現実だ。


助かることだけを心に祈りながらも、ただ手術室の前で待っている。


「ねぇ」


妻が俺を向いて問いかけている。


「なんだ」


「私が悪いのかな」


「なんでだ」


「本当はあの時、私迎えに行く予定だったの。でも、ついお母さんと電話していて、遅れてしまったの。だから・・・」


途中で妻は泣き始めた。


俺は妻の隣に座り


「大丈夫だ。お前は悪くない。大丈夫だから」


「大丈夫」という言葉だけしか浮かんでこない。


変に別の言葉を使い、空気を凍らせるよりかは、今はとにかく妻をなだめるしかないのだ。


すると、妻が目を赤くしながらも、突然


「翔一?」


「え?」


「今、翔一が目の前にいたのよ」


周りを見るが誰もいない。


俺と妻しかこの空間には居ないのだ。


それも翔一は、二歳の時に急性心不全でこの世を去った、俺たちにとっては一生忘れられない宝物だ。


「何言ってるんだよ。あいつはもう・・・」


「でも、ほら手術室に入っていったわ」


「は?」


「本当なんだもん」


妻の目は本気だ。


だが、そんなことはあり得ない。


あいつはもう・・・


すると、手術室から主治医の男性が出て来た。


俺はすぐに主治医の元へ近づき


「先生、正美は」


すると主治医が俺の肩を叩いてから


「大丈夫です。意識も戻り、出血も収まりました。麻酔が切れたら目が覚めるでしょう」


俺は嬉しさのあまり、崩れてしまった。


「ありがとう・・・ございます」


すると主治医の隣に誰かが立っているのが分かった。


よく見ると、そこには確かにいたのだ。


翔一の姿が。


俺は翔一に向かって


「ありがとう。助けてくれて」


すると翔一は微笑みを浮かべて、その場から消えたのだった。


~終~

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