その78・逃亡の先に
俺は一人の人間を殺した。
ボクシングの世界大会でチャンピオンになった俺が、まさか喧嘩のもつれで殺すなんて・・・
俺はそこから逃亡生活の日々を送ることになった。
警察の目から逃れるために、路地裏で生活をし、都心部からも離れ、現在は田舎町で過ごしている。
愛する女性や、お世話になった師匠などになんと顔見せすればいいのか。
俺は今後も警察から逃げる日々を過ごさなければいけないのだろう。
髭を伸ばし、服もボロボロになりながら浮浪者のような見た目にもなってしまった。
俺はクズだ。
一生のクズだ。
ボクシングの技を、人殺しに使ってしまった。
目撃者も多数いるはず。
恐らくメディアでも取り上げられており、ジムのメンバーにも迷惑がかかっているはず。
ボクシングの世界に入らなければなと感じ、落胆しながらも公園でベンチで過ごしていると、目の前に誰かが現れた。
よく見ると、そこには師匠が立っている。
「し、師匠」
俺は目を見開きながらもそういうと、師匠は俺の胸ぐらをつかみ
「てめぇ、どれだけ迷惑かけるつもりなんだ」
「すいません。だから逃がしてください」
「は?」
「迷惑かけるよりかは、どこかでひっそりと死にますから」
「何言ってるんだこの野郎」
そう言って俺を殴った。
元プロボクサーである師匠の一発は、今まで感じたことのない威力だった。
俺は倒れ込むと、師匠は大声を上げながら
「てめぇが死んだところで何も解決しねぇんだよ。だったら、出頭して罪を償え」
「ですが・・・俺は・・・」
「死なれた方が迷惑なんだよこの野郎。お前が確かに喧嘩の挙句に殺したかもしれないが、その殺された人間の気持ちを考えてみろ。殺されたものにひっそりと死んでほしいなんて思う人間はいねぇんだよ。罪を償って、しっかりと自分が行ったことを反省してほしいと、誰だって願ってるはずだ」
「師匠・・・」
「死ぬなんて言葉を使うな。死んだ人に失礼だと思わないか?」
「・・・」
俺はゆっくりと頷いた。
「だったら、生きろ。生きて、殺してしまった人に詫びを入れるんだ。これからはそれがお前の仕事だ。いいな」
すると師匠が俺の腕を優しく掴んでから、俺を起し
「大丈夫だ。てめぇがムショから出てきても。俺はお前を守る。なぜなら、俺が育てた大切な弟子だからな」
そう言って師匠は微笑んだ。
俺も思わず涙がこぼれてきた。
今までそんなこと師匠から言われたことがなかったからだ。
そう思うと、ありがたく思いながらも、そのまま師匠に連れられて警察署に出頭するのだった。
~終~




