その76・二十年後のバレンタインデー
俺は今、妻にどう頼もうか迷っている。
間もなく、二月の大規模イベントが近づいてきているというのに、俺は妻に中々切り出せない。
今日は二月の十三日。
明日、巷ではバレンタインデーと呼ばれる日である。
俺と妻は高校の時に知り合い、初めてバレンタインデーのチョコを貰った頃から交際をスタートさせた。
そこから二十年。
俺と妻の間には二人の娘に恵まれて、良い両親を築いており、お互い良い大人だ。
今更こんな頼みをしても笑って流されると思うが、だからこそこのイベントを共に過ごす意味がある。
お互いのスタートは確かにバレンタインデーだが、そこから何度も別れや離婚の危機に瀕したことがある。
その時に限って、このバレンタインデーのことを思い出し、仲直りを続けて来た。
だが、今はお互いが良い大人になり、あまり二人だけの会話もせず、まるで熟年夫婦のような感覚を感じている。
だからこそバレンタインデーを、今度は思い出すのではなく、実際に声をかけて、イベントに参加することから始めてみようと思い、俺は決心をしたのだ。
キッチンで夕食の支度をしている妻に、俺はそっと
「なぁ」
妻は支度をしながら
「どうしたの?」
「もうすぐ何の日か知っているか?」
「バレンタインデーでしょ。そんなのテレビでしょっちゅうやってるわ」
「そっかぁ」
味気のない返事に俺は少し自信を無くしてしまった。
だが、このままタイミングを逃してしまえば、今度は仲直りだけでは済まされなくなってしまう。
そのため、俺は勇気を振り絞って
「・・・チョコ、作ってくれないか?」
「何言ってるのよ。そんなの無理よ」
「そうか」
「今さら言われたって困るわよ。もう少し早めに言ってもらわないと」
「そ、そうだよな」
やはりだめだったか。
そう思い、なんだかため息をしてしまうと、妻が振り向き
「冷蔵庫の中、見てごらん」
「え?」
そう言って冷蔵庫の中を見ると、中にはチョコクッキーや、チョコケーキなどが置いてあった。
俺は驚きながらも
「これは?」
「私じゃないわ。あの子たちが作ったのよ」
よく見ると、高校生になった娘二人がこちらを笑顔で立っていた。
「パパのために作ったんだよ~」
長女がそう言って、次女が
「バレンタインデーって楽しいね」
そう言って娘二人は笑い合った。
妻は微笑みながらも
「私も作りたいんだけど、やっぱり娘を置いてけぼりにしちゃ、可哀想じゃない?」
俺はなんだか勘違いをしていたのかもしれない。
そう思い、明日は存分に家族でイベントに参加しようと決意したのだった。
~終~




