その68・自販機の気持ち
僕は自動販売機。
大体の人は信じてくれないが、僕には心を持っている。
いつも買ってくれる人たちに幸せを届けるために、四六時中、雨の日でも雪の日でも働いているのだ。
僕は機械であるため、暑さや寒さなどを感じない。
しかも喋れないため、お客さんにも「ありがとう」と言えないのがかなり辛いのだ。
僕たちにはグレードがある。
僕以上にグレードが高いのは「当たり付きの自動販売機」だ。
彼らには僕は憧れを持っており、いつか当たり付きのルーレットが体に欲しいなと思いながらも、日々過ごしている。
それ以上に高いのは「タッチパネル式自動販売機」だ。
これは駅構内に多いのだが、やはり大都市の駅になると、売り上げもかなり高い。
それは僕にとっては羨ましい限りだ。
僕がいるのは、駅に近い公園にある自動販売機だ。
見ての通り、僕には「当たり付き」でもなければ「タッチパネル式」でもない。
至ってごく普通の自動販売機なのだ。
だが、買ってくれる人たちは多い。
この辺りは住宅が密集しているため、子供たちや会社帰りのサラリーマンなのだが、僕が売っている飲み物を購入してくれるのだ。
大体夕方か夜の方が多いが、それでも色々な人々を見れるため、僕は幸せな時間である。
そんな今日の夜。
僕はいつも通り立っていると、一人のサラリーマンが僕の目の前に立った。
「今日はどれにしようかな~」
完全にお酒を飲んでいる。
以前、工場で一緒になった自動販売機が、ホテルなどでよく目にする「酒用自動販売機」だったため、よく知っている。
僕は「酒」を売ったことはないが、どれだけその「酒」というものを飲んだら、こんな状態になるのかと思うほど、顔は真っ赤になっており、目もうつろいでいる。
「コーヒーにしようかな」
いや水にしておけ。
僕が言うから間違いない。
水にしないと、これは後で絶対に全部が出てしまう。
「うーん。今日飲みすぎたしな。水でもいいんだけどなぁ」
その方が良い。
僕はこんな状態を見ると、更に「酒」という飲み物に興味を持ち始めていた。
「よし、決めた」
そう言って、僕の体の中にお金を入れていく。
値段は二百円だ。
一体何を買うのかと思い、購入口から取り出すのを見ていると、そこから「コーラ」を持ち始めた。
何故に炭酸ジュースなのか、僕は「なんでやねん」と思ったが、そのままサラリーマンは、ふらつきながらもその場を後にしていった。
だが、僕はそれでも人間たちが面白い動物だなと思った。
だから、仕事に対しては幸せを持っているのだ。
明日はどんなお客さんが来るだろう。
~終~




