その65・レストランに推し
今、目の前に推しがいる・・・
私はレストランでウェイトレスを務めている一人の女性だ。
二十代前半であり、大学卒業後は就職活動をしながらもバイトを転々としている。
中々、このご時世、就職が決まらずに苦労しており、このままだと二十五歳を迎える頃には、まだフリーターの身になってしまうのだ。
そろそろ新しい職場で、新しいスタートを切りたいなと思っていた。
とある日の夜。
私は、裏の厨房で待機していると、入店チャイムが流れた。
私はいつも通り、玄関に向かうと
「はっ・・・」
私は声が出なかった。
目の前にいるのは、国民的アイドルグループのリーダーを務めている「中尾正親」だ。
このグループは既に三十年近くアイドルをやっているのだが、バラエティ番組やドラマの主演などを幅広く各メンバーが務めている最強グループであり、言わずも知れた国民的アイドルである。
だが、私が驚いているのはそれだけではない。
私はそのアイドルグループのファンクラブに入っており、推しがこの中尾なのだ。
中尾は、ダンスが物凄く上手く、司会・俳優としても成功している人物であり、リーダーとしても、個性豊かなメンバーをまとめ上げている。
私はその姿に惚れて、推しになったのだ。
しかし、まさかの推しの来店に少し声を震わせながらも
「い、一名様でしょうか?」
「あっ、後でもう一人来ます」
「そ、そうですか。ではこちらへどうぞ」
完全なる動揺していることが丸見えのオタクである。
私は、中尾を席に案内し、メニューを渡してから
「お呼びになる際は、ベルを押してください」
そう言って、厨房に駆け込んだ。
すると、不思議そうな表情をしながら、同僚の女性が近づいてきて
「どうしたの?」
「ねぇ、中尾君が来たの」
「え?」
「見てみなよ」
女性が厨房から客席を見始めた。
しばらくして、目を見開きながらも
「本当じゃん」
「そうなのよ」
「確か推しだよね」
「そう!」
「良かったじゃん。サイン貰いなよ」
「うーん」
私は一瞬悩んだ。
サインを本当は欲しいが、そうなると私情を挟んでしまい、仕事に支障をきたした際、私が責任を取る羽目になってしまう。
だが、やはり中尾のサインが欲しい。
しばらく悩んでいると、ベルが鳴った。
中尾が座っている席からだ。
私はすぐに席に近づいてから
「お決まりでしょうか」
「ではハンバーグで」
まさかの中尾君がハンバーグ。
私は白ワインや、ステーキ類を食べるとばかり思っていたため、意外な注文に驚きながらも
「かしこまりました」
そう言って厨房に戻り、興奮気味になりながらも、同僚女性に
「ねぇ、中尾君がハンバーグ注文した」
「マジで!?」
二人で興奮していると、来店チャイムが鳴り、私は玄関に向かうと
「えっ・・・」
目の前には、国民的アイドルグループのキャプテン的存在である「木島智哉」がいた。
私は、そのまま気絶しかけてしまった。
そのまま、私は最高の夜を過ごすことになったのだ。
~終~




