その64・フロントと官房長官
私はとあるホテルで、フロントコンシェルジュをしている一人の女性だ。
東京という大都会の中心にあるこのホテルは、近くに政治の本拠地でもある永田町があるため、多くの政治家や官僚が泊りに来る。
以前、私が担当の時は、警視庁捜査一課長の男性が泊りに訪れ、色々と話を聞いたほどだ。
性格上、長年政治や警察の仕事を携わるが気になり、つい声をかけてしまい、色々と話を聞くのが定番となっている。
意外と私は政治に関しては詳しい一面も持っている。
父の影響で政治に関してはよく耳にしており、内閣の動きや与野党の政策の違いなどを事細かに教えてくれた。
もちろん、話を聞くにあたって相手側のプライバシーもあるため、口外は絶対にしない。
たとえ知り合いや同僚・家族であっても、絶対にしない。
それがプロのホテルコンシェルジュというものだ。
衆議院選挙が近い中、私は一人ホテルの受付で佇んでいると、一人の男性が入って来た。
顔を見るや否や、私は「あっ」と言ってしまった。
この男性は内閣官房長官をしている人物であり、三十代の若さで元外務大臣や防衛大臣を務めていた政界のプリンス的存在である。
現在は内閣総理大臣の女房役でもある官房長官をしていため、会見や予算委員会などで何度か顔を見たため、会えたことにかなりの興奮を覚えていた。
政治家とは何回か会ったことがあり、その中でも元総理大臣の人もいたが、現役の官房長官は初めてである。
私は微笑みながらも
「いらっしゃいませ」
「一泊いいですか?」
「もちろん、ご予約はされてますか?」
「いえ」
「かしこまりました。おひとり様ですか?」
「えぇ」
「少々お待ちください」
私はパソコンを打ち込みながらも
「選挙大変ですね」
「はい?」
「政治とカネの問題や、外交安全保障などの問題も加算されていて、お疲れですよね」
「詳しいですね」
「えぇ。私は、政治に関しては興味がありますので」
私は微笑みながらも言うと、官房長官は感心した表情になり
「君には是非立候補してもらいたいよ。最近は若者の政治離れが進んでいるからな」
「えぇ・・・」
それは与党としての責任もある。
政治とカネの問題は、国民からの怒りを大きく買っている。
若者の政治が離れているのではなくて、政治に対して絶望をしているのだ。
私はあえて言わなかったが、手続きが進み、ルームキーを渡してから
「でも、頑張ってくださいね。父も応援してましたよ」
「あら、お父さんはどこかの後援会の会長さんかな?」
「いえ、元国会議員です」
「あっそうなんだ。なんて名前?」
「池澤周大です」
官房長官は唖然とした。
何故なら、私の父は元内閣総理大臣であるからだ。
~終~




