その63・あの人が植えた木
あの人が植えた木はすくすくと成長している。
私は、大きな柿の木を見ながらも、そう思っていた。
二年前に、夫がガンで他界してから、私はいつも一人ぼっちだ。
既に二人の息子は結婚し、地元から離れた。
これから夫と老後の人生を上手く歩もうとした矢先に、末期の肺がんを患ったことが分かり、そのまま一か月もしないうちに天国に行ってしまった。
そこから私の時間の針は止まっている。
夫は私にとって心の支えだった。
いつどんなときも、私に対して優しさを送ってくれて、以前心筋梗塞で私が入院したときも、仕事の忙しさを嚙み殺して、毎日お見舞いに来てくれた。
そこから、家事も全て夫が手伝ってくれており、日々体と心のケアをしてくれていた。
そんな夫も、もう目の前には居ない。
病状も悪化している中、夫は一つの柿の苗を植えた。
「柿は、体に良いからな」
そう言って、私のために植えてくれた。
恐らく体がきつかったのに違いない。
それなのにも関わらず、わざわざ柿の苗を買いに行き、植えてくれたのだ。
その木が、二年経った今では二階まで届くほど伸びている。
私はその木をしばらく眺めていると
「結構伸びたじゃないか」
聞いたことのある声が耳に入ってきた。
私は驚きながらも、振り向くとそこには夫の姿があった。
「あ、あなた?」
「どうしたんだ、そんな顔をして。何か付いてるのか?」
「い、いや」
いつも通りの優しい表情で言ってきたため、私は驚きのあまり、何も言えずにただ黙って見ていると
「どうしたんだよ」
「いや、あなた、なんでいるの?」
「なんでって。ここは俺の家じゃないか。だから帰って来たんだよ」
「帰って来たって・・・」
あまりにも衝撃的なことに、心の整理がついてなかった。
すると、木をじっと夫は眺めながら
「すくすくと育ってきてくれて、俺は凄く嬉しいよ。俺が居なくなった後でも、水やりしてくれたんだ」
「うん・・・あなたが植えた木だからね」
「そうか。それは嬉しいな」
「この柿、一回食べたことあるんだけど」
「どうだった?」
「美味しかったわよ」
「そりゃそうだろうな。俺が買ってきた柿だからな」
そう言って笑い始めた。
この笑みも全く当時から変わっていない。
「ねぇ、あなた」
「なんだ?」
「ずっとここにいるの?」
私は単純な質問を投げかけた。
私は霊感も何もない。
そんな人間が死んだはずの人のことが見えている。
この時間が永遠に続いてほしいと思い、そう言うと
「当たり前じゃないか」
そう言って、私をゆっくりと優しく抱きしめてくれた。
何故だろう、もうこの世にいないのに温かく感じる。
「ずっと、君の傍に居るよ。君は一人じゃないから」
「あなた・・・」
私は涙を流しながらも、私はこう言った。
「おかえりなさい」
「ただいま」
強く優しい風が木を揺らしていた。
~終~




