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その59・指輪をなくした!

俺は現在、今まで経験したことのないパニック状態に陥っている。


時は遡ること二時間前。


俺はいつもとは違い、大サプライズプロジェクト遂行に向けての準備を行っていた。


自宅にて、俺はスーツ姿になり、髪の毛は整え、いつも使っているものではないワックスも付けた。


リビングでは買ったことのない高級ワインを買い、グラスも新品だ。


どうしてそこまでするのか。


実はこれから、現在交際中の彼女にプロポーズをするのだ。


既に交際してから五年。


去年から同居も始め、そろそろ結婚を視野に入れてもいいのではないかと思い始めて来た。


「結婚しようか」


その言葉を伝えるタイミングを逃しの逃し、遂には五年目の交際記念日まで経ってしまった。


だが、俺は遂に腹をくくった。


そろそろ「彼女」から「奥さん」に変わるとき。


俺は心待ちにしながらも、リビングで待っていた。


後は本人の登場を待つだけ。


だが、俺はそこで気づいてしまった。


「あれ、婚約指輪がないな」


俺はポケットなどを見たが、全くその指輪がない。


「あれ?・・・あれ?」


俺は必死に探した。


ベッドの下、クローゼットの中、机の下などを隈なく探したが、全くなかった。


これはまずい。


彼女が帰ってくるまでもう時間が無い。


何故か箱ごとないのに違和感を覚えたが、俺は記憶をたどった。


昨日の夜の段階では、まだ指輪があった。


朝の段階では・・・分からない。


「まずい、まずい」


俺は背中に冷や汗を出しながらも、リビングで必死に探していると


「ただいま」


ドアの開ける音と共に、彼女の声が聞こえた。


俺は呆然としながらも、玄関に向かい


「おかえり」


すると彼女が


「何その恰好」


微笑みながらも言った。


本当は色々と用意して来たセリフがあったのだが、今はそれどころではない。


俺は引きつる表情になりながらも


「まぁ、色々とあってね」


「色々って何よ」


そう言って、彼女は家に上がり、リビングに入っていった。


「何これ」


彼女は驚いた表情でワインを見つめていた。


「初めて買ったんだよ。その銘柄のワイン」


「高かったんじゃない?」


「まぁね」


「でも、私、いらないかも」


「え?」


「ワイン飲めないし」


「はっ・・・」


てか、酒飲めなかったっけ?


毎日ビールを晩酌している記憶しかなかったのだが、ワインは確かに種類が違うため、それもそうかと思いながらも


「そうか・・・」


そう言ってソファに座った。


すると彼女が隣に座ってきて


「そこまでしてプロポーズするつもりだったの?」


「え?」


彼女はポケットから指輪を出して来た。


「それ!」


「あなたバカね。普通に寝室の机の上に置いてたら、誰だって気づくわよ」


「あっ・・・」


これは確かにバカをしてしまった。


俺はあまりにも緊張で無くさぬように、テーブルの上に置いたままにしていたのだ。


折角のサプライズプロジェクトが台無しだと思い、頭を抱えると、彼女が


「指出して」


「え?」


「ほら」


俺の手をゆっくりと優しく掴んでから、薬指に指輪を付けた。


「本当は私からプロポーズしたかったんだから、憧れだったんだよね。女性からプロポーズすること。だから私の仕事を奪わないで」


「うん」


「私と結婚してください


「よろしくお願いします」


まぁ、こんな形もありか。


俺は微笑みながらも、彼女とゆっくりと抱きしめ合ったのだった。


~終~

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