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その44・床屋と初恋

既に床屋を始めて40年が経つ。


そう思いながらも青空を窓から見つめていたのは、六十を過ぎた私である。


二十代の頃、親の影響で床屋に興味を持った私は、親の後を継いで地方の田舎町にある床屋デビューを果たした。


この間にも、私は何万人との人の髪を責任もって切ってきた。


中では「有名芸能人みたいな髪型」と言われたこともあり、戸惑った経験があるため、基本的〈イケメン〉と呼ばれる俳優・アーティストの髪型を必死にチェックしていた。


キャリアもだいぶ積み、既にベテランと言われるほどの地位を確立して来た。


今日は青空が見えているため、ここに来る人は多いだろ。


私は基本、予約制ではなく、来た人は出来る限り受け付けるというシステムを採用しており、このような日は多くて何十人と来客が来るのだ。


開店からしばらく待っていると、ドアが開き、上につけている鈴の音が鳴った。


「いらっしゃいませ・・・」


私の目線に現れたのは、幼馴染の男性であった。


その瞬間、何ともいえない感情が襲ってきた。


何故なら、この男性は初恋の相手なのだ。


私はしばらく黙って目を見開きながら立っていると、男性が


「やってるかな?」


「あっ・・・はい。やってますよ」


「じゃあ、お願いしてもらおうかな」


「かしこまりました。先に椅子にお座りください」


「ありがとう」


そういって所定の位置に座った男性は、ただ目の前の鏡をじっと見ていた。


私は一回裏へとはけた。


まさか初恋の男性が目の前に現れるのなんて。


彼は小学生の時、親の転勤で東京に行ったのだ。


だが、あれは間違いなく彼だ。


特徴としては右目の下に小さなほくろがあり、微笑みとえくぼが見える。


一番の特徴としては、まるで国民的ロボットアニメに出てきそうな、まん丸の顔。


私には確定していた。


だが、なんて話せばいいのだろうか。


ここで「久しぶり」と言ったとしても、彼が私のことを忘れているかもしれない。


だが他人のような接し方もできない。


初めて私が「好き」という感情を教えてくれた相手であるため、そんなことは絶対にできない。


初恋を感じてしまった限りは、ここは知り合いを通そうと思い、表に出てから


「私のこと覚えてる?」


すると男性が振り返り、私の顔をじっと見てから


「綺麗になったじゃん」


「え?」


男性が鏡の方を向きなおして


「小学校の時、あんなに泣いていた子が、まさか床屋をしているなんてね」


「覚えていてくれたの?」


「あぁ、切ってもらいたくて来た」


「え?」


「知り合いに聞いたんだよ。床屋をやってるってね。だから、切ってもらいたくて来た」


「いいの?私で」


「当たり前だろ・・・俺の初恋の相手なんだから」


近頃流行っている「胸キュン」という言葉の意味を、私は初めて知ったのであった。


~終~

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