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残されたテレキャスター

 部屋の隅に置かれた赤いテレキャスターは、彼が残していったものだ。


 まだバンドを始めて間がない頃に一緒に買いに行ったもので、ステージ映えするからと赤を選んだ。買った当時には黒いピックガードが備わっていたが、もっと目立ちたいからと言ってゴールドメッキのものに交換してある。ほらって見せられた時には二人の顔が映っていて、二人だけが金色の世界に閉じ込められたみたいだった。そうであったら良かったのにと思った頃もあった。


 今は全ての弦が取り払われている。錆びていたので随分前に捨てた。使わないし、掃除の邪魔だからだ。埃がつくのは嫌だが、だからといってケースには仕舞っておきたくは無い。ずっと見ておきたいのだ。


 『バンドマンとは付き合うな』親友からもネットの情報と同じことを言われた。ずっと支えていたところで、売れてしまえば私よりも美人で有名で権力も財力もある人に奪われてしまうのだろうと思っていた。だから彼には早く現実を見て夢から覚めてしまえばよいと願っていた。支えはするが応援はしない。口に出した事はないがそんな気持ちだった。


 しかし彼は、地元で人気のあったバンドに誘われ、あっという間にメジャーデビューしてしまった。そこから私の支えは必要無くなった。


 「俺たちの記念だから、おまえが持っていてくれ」


 渡された赤いテレキャスターのゴールドメッキのピックガードには、私だけが閉じ込められていた。


 その時からこの赤いテレキャスターは、部屋の片隅に置いてある。


 白かった指板が黒くなり、ボディの縁は塗装が剝がれていた。ボリュームノブの周りには無数の引っ掻き傷があった。彼の努力の跡がそこにはあった。応援していない事がバレていただろうか。デビューしないでって気持ちが漏れていただろうか。


 もっともっと寄り添って、心の底から応援していれば、一緒について行けば、違った未来があったかもしれない。私はそうしなかった。ただ、それだけ。


 『バンドマンとは付き合うな』楽しくて幸せで充実した生活がどれだけ長く続ける事ができるかは単に自分自身の覚悟の話だ。


 それから彼は帰ってこなかったが、だからといって悲しくて不幸で空虚な生活をしていた訳ではない。残された赤いテレキャスター、そしてそれともう一つ。


***


「お母さんお帰り。お仕事お疲れ様。ご飯用意したよ。

 入学式?うん、平気だったよ。いいよいいよー、無理しないでって言ってるでしょ。

 あ、それからね、中学生になったらって約束のね、赤いギター、僕が使わせて貰うからね。

 そうそう弦、がんばって張ったんだよ」


 私だけのこの宝物は、彼には伝えていない。



そしてそれから数年後、彼(テレキャス置いて行った奴)がプロデュースするバンドのオーディションに、あの思い出の赤いテレキャスを持ったどこか見覚えのある美少年が、彼(テレキャス置いて行った奴)の前に現れた。おいおまえ、そいつをどこで手に入れた? お互いの関係を知らずに父と子の壮絶なギターバトルが・・・いやバトルはしないよな。


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