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第6話『特待クラスの少女たち』

 特待クラスの6人のうち、これで旧王族である3人とは挨拶をしたことになる。


 残るは2人。まずは、キリノの後ろの席で怯えたように縮こまっている銀髪ツインテールの少女。先のカリンが立てた大きな音のせいか、常に目が泳いでおり、見ていて気の毒になってくる。動物病院に連れてこられた犬のようだ。

 もう一方は、テュエラの後ろの席で背筋を伸ばして微動だにしない白髪ショートの小柄な少女である。背丈はキリノと似たようなものか、少し小さいか。一瞬人形かとも思ったが、じっと見ているとちゃんと瞬きをしていて安心した。


 しかし、怯えている子は話しかけても悲鳴をあげられそうで、微動だにしたい子は返事がなく、名前を聞くこともないまま時間が過ぎる。やがて、この時までに教室に集まれと指示されていた時刻になって、とりあえず机を指で叩いて寝ているテュエラを起こした。


 そうして、特待クラス6名全員が、どこからともなく響く声を聞いた。


「はーい、みんな注目!」


 声は黒板の中からするらしい。まさか、と思っていると、また黒板の中からファンシーな音楽が流れ始め、黒板が真っ二つに割れて開き始める。黒板の向こう側からはスモークが溢れ出し、何かの登場を予感させる。そのまさかだったのだ。


 カリンは目を輝かせて手拍子をし、ジェナは思考を停止してフリーズ。テュエラは引きつった笑いを浮かべたまま何コレと呟き、怯えた少女は怯えたまま、不動の少女は不動のままで、ついに黒板が開ききり、スモークが晴れた。

 黒板の向こうには椅子が鎮座しており、その上には何かが乗っかっている。人形だ。子供の遊ぶ着せ替え人形のようなものが、キリノたちに向かって紙を見せつけるかのような形で飾られている。

 その紙には、端的に、一言でこう書いてあった。


『ハズレ』


 あまりにも意味不明な状況に、カリンは首をかしげ、他は皆どうリアクションしていいのかもわからず固まった。直後に普通に扉が開き、何事もなかったかのように、髪の先を虹色に染めている女性が入ってくる。


「みんな、騙されたでしょ? 私が出てくると思ったでしょ? でも答えは『一周回って普通に登場』でした!」


 教壇に立つやいなや悪戯をこなした子供のように笑う彼女は、キリノたちの知っている人物だ。入学試験の時に学長代理として放送を担当していた。


「えー、こほん。私、今日から皆さんの特待クラスを受け持たせてもらいます。グレート教師の『シエルカ・セブンカラーズ』です! みんな、よろしく!」


 グレート教師などと自称するあたり非常に怪しいが、とりあえずこの人が担任になるようだ。カリンが真っ先に拍手をしたのに乗って、キリノも拍手をしてみる。つられて他にも何人かが拍手に参加し、シエルカは茶目っ気たっぷりに続けた。


「いやぁ、また私なんかやっちゃいました?」

「自己紹介でしょ」


 耐えきれなくなって最初に正論を述べたのはテュエラだった。特にシエルカからのそれ以上のボケも追及もなく、話は続くらしい。


「というわけで、入学式始まるまでの顔合わせの時間だよ。みんなには自己紹介をしてもらわないと。

 そうだなあ、名前と、必殺技と、好きなじゃんけんの手とその理由を教えてもらおうかな。じゃあ、こっちの列の先頭、カリンさんから順番に行こうか!」


 後ろ2つを自己紹介の項目として初めて聞くのだが。本当にそれは必要なのだろうか。ジェナやテュエラの顔を見る限り、キリノを含めてこのクラスの半数はシエルカの言動に困惑している。

 だが、幸か不幸か、この意味不明な相手にも乗っかるのがカリン・サンシャインだった。


「カリン・サンシャイン、14歳……あ、みんな14歳か。必殺技はソーラー・プリズマ・シャワー! じゃんけんで好きな手は、パーです! 理由は太陽みたいでカッコいいからです! よろしくお願いします!」


 シエルカの無茶ぶりにも等しい自己紹介項目に対し、しっかりと答えきったカリン。そして、これで前例ができてしまった。もうカリンは乗っかったのに、シエルカの言っていることを無視して進めるのは非常に感じが悪い。

 仕方なく、キリノもその形式で話すことにした。


「キリノ・ミストラーデです。必殺技は」

「ネビュリウム光線だよね!」

「……好きなじゃんけんの手はチョキです。理由はパーに勝てるからです。よろしくお願いします」


 予想外にカリンが口を出してくるが、無視して続行し、事なきを得た。理由は完全にカリンへの当てつけだが、カリン本人が全く気が付かずに拍手しているあたり、まあいいだろう。

 続いてキリノの後ろ、ずっと怯えていた少女の番だ。彼女はキリノが着席すると、恐る恐る立ち上がって、小さな声でごにょごにょなにかを喋ってから、意を決してようやく声を出す。


「あ、あのっ、わ、わたし! く、『クラウディア・オーヴァー』って、言います。ひ、必殺技……とか、そういうのはまだなくて……習得できたらいいなって、思ってましゅっ!」


 クラウディアは消え入りそうな可愛らしい声で、語尾を思いっきり噛んだ。


「じゃんけんは……えっと……ぐ、グーです。理由は……ま、まだ選ばれてなくて、かわいそうだから……とか……? よ、よろしくお願いしますっ!」


 急にまた声が小さくなって、最後の挨拶だけ大きくなった。ボリュームの上下が激しい子だ。人見知りなだけで、悪い子じゃないんだろう。これだけでもかなり頑張って喋ってくれたはずだ。

 キリノは彼女を称える気持ちで、拍手の先陣を切る。クラウディアはみるみるうちに真っ赤になって、縮こまりながら着席したのだった。


「では次は私ですね。ジェナ・N・ルナライトと申します。必殺技はフルムーンストライク。好きなじゃんけんの手はチョキですわ。チョキはピースの形ですから。では、よろしくお願いしますね」


「自分はテュエラ・テンペスタ。テュエラちゃんって呼んでくださいね。必殺技は秘密です。じゃんけんはグーが好きです、指1本も出さなくていいので。そういうことでよろしくです〜」


 その次はジェナの番で、彼女は恥じらいも戸惑いもなくしっかりこなす。続くテュエラも見ている人を和ませる笑顔を見せてくれ、残るは最後の1人、白髪のあの子だった。

 彼女は綺麗な姿勢を保ったまま、音も立てずにすっと立ち上がり、無表情のまま口を開いた。


「名前は『ネージュ・フォン・デューナ』。必殺技は氷魔法のどれか。じゃんけんはパー、私の経験では勝率が最も高いから。以上」


 全く詰まることなくさらさらと言いたいことを述べた後、また元の姿勢に戻るネージュ。見た目のイメージ通り冷たいというか、人間味の薄い少女だ。あまりにもあっさり自己紹介が終わったものだから、皆して拍手のタイミングを逃し、少し遅れて拍手が響いた。


「うん、これで全員だね。カリン、キリノ、クラウディア。ジェナ、テュエラ、ネージュ。そしてこのシエルカ先生! 7人で特待クラス、やっていくよ!」


 めちゃくちゃなことを言い出す教師に、クラスは皆個性的なメンバー。不安は拭えないが、ここにいる者は入学試験を目標の完全破壊という形で突破している。実力者が集っているのは確かだ。


 卒業までの4年間。それまでに、ここにいる人間のうち何人かは確実に味方に引き入れたい。カリンなんかはいずれ立ちはだかるとしても、その時に彼女を越えられる戦力が必要だ。世界を手にする準備は、着実に進めなければ。


 悪役の微笑みは心の中にしまって、キリノは新たな学生生活を迎えるのだった。

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