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第4話『まさかの再会』

 試験会場には多くの観客が集まっており、それぞれが期待を込めて受験者を待っている。

 歓声を浴びて思い出すのはかつて、ネビュリムとして同胞を率いていた時の記憶。同胞たちが集い、霧の女王を讃え、その勝利を信じて疑わなかったあの光景だ。


「応えてやるとも。其処で見ているがいい」


 準備の時間が終了し、ゴーレムが戦闘態勢に入る。シエルカのカウントダウンの声がこだまして、ゼロが宣言されたその瞬間から、試験が開始される。

 ゴーレムは様子を窺っているらしく、動かない。そのままキリノは己の肉体から魔力の霧を展開し、そして手元に集約させる。


「圧縮、開始」


 原理は単純だ。魔力を高密度に圧縮し、強い熱量を持った攻撃にする。それだけだ。ジェナが使っていたエネルギー弾も似たような仕組みだろう。

 ただキリノのそれが他の魔法と異なるのは、それが純粋な魔力であることと、圧縮率が桁違いであること。

 ただの紙でもひたすら半分に折り畳み続ければいつかは宇宙にまで届いてしまうように、大気中に漂う程度の魔力だとしても集束させれば破滅となる。


「魔力霧、圧縮完了……喰らって消え去れ。ネビュリウム光線、セーブモード」


 片手を突き出して、集束した光を一気に放つ。会場ごと更地にしないよう出力を抑えてなお、迸る光はゴーレムを呑み込み、一瞬にして融解させる。強すぎる魔力の熱量と輝き、そしてあまりに短い時間の出来事に、観客が状況を理解し歓声をあげるまで、数秒のタイムラグがあった。


「なんと! 2ブロック連続での破壊達成者が登場です! どころか、今の一撃だったよね!?」


 実況のシエルカも驚きを隠せない様子だ。まだ40秒は残り時間があるものの、標的が消失した以上試験は終了である。堂々と、ゆっくり歩いて会場を後にする。

 最後に1つだけ、中継用の魔法のカメラを探し、その画面の向こうのジェナに向かって、親指を立ててみせた。


 その後は係員に誘導されながら、試験を終えた者たちが休憩するカフェスペースへと移動する。ここは元々学園生が利用するカフェで、今日は受験者向けに解放されており、かなり多くの人数がここで休んでいる。


 人が多いせいで空いている椅子はすぐには見当たらなかったが、探しているとジェナが手を振っているのに気が付き、彼女のところまで早足で赴いた。そのまま、ジェナの向かいの席に座らせてもらう。


「お疲れ様でした、キリノさん。貴方はやる方だと思っていましたが、まさかあれほどなんて」

「伊達に世界征服目指してないから」

「ふふっ、貴方ならもしかして、と思ってしまいますわね」


 話していると、事前にジェナが頼んでおいたというコーヒーが2杯運ばれてくる。聞けば、今日はお菓子も飲み物もジェナの奢りでいいと言ってくれて、好意に甘えて口をつける。この世界にもコーヒーがあるんだなと思いつつ飲もうとすると、熱くて驚いたし、さらに苦くて驚いた。

 頑張って吹き冷まし、それでも非常に熱かったので一旦待つことにして顔を上げた。ジェナはこの熱さをものともせずに優雅に頂いており、さすがは旧王族だな、なんて彼女の顔を見ながら考えていた。


 カフェにももちろんのことモニターが設置してあり、それを眺めながら、コーヒーを消費しつつ休憩する。一度甘いものが無性に欲しくなり、店員にパンケーキを頼み、ジェナと分けて食べたりもしていた。

 多くの受験者はへとへとで帰ってきていて、表に出ていないがジェナも疲れているんだろう。待合室の時よりも口数の少ない彼女と、キリノは軽く談笑しつつ、軽いお茶会を楽しんだ。


 なんとかコーヒーを飲みきることができた頃には、さらに何ブロックもの試験が完了し、カフェも人が増えていく。中にはキリノに話しかけてくる受験者もおり、魔法の出し方なんかを聞かれたものの、それっぽいことを適当に言ってごまかそうとした。ある程度話が盛り上がってしまったところで無理やりオチをつけ、相手の女の子は満足して離れていった。

 ジェナの期待に応えられたのはいいが、注目の的というのはちょっと面倒かもしれない。


「これはすごい! これで3人目の破壊達成者だ!」


 ちょうど話し終えて一息ついたところで、モニターから響くシエルカの声が耳に止まる。ふと視線を向けると、モニターの向こうには既にその破壊を達成した受験者はおらず、バラバラになった岩の残骸を後片付けしているシーンが映っていた。

 ジェナはずっとその受験者に釘付けだったようだ。コーヒーカップを持つ手は口元で止まっている。


 ジェナ、キリノに続く3人目。ということは、入学時点であのゴーレムを壊すだけの強力な魔法を扱う術を持った人間だ。一体どんな人物なんだろう。


「ジェナ。今のって」

「太陽の巫女、ですわ。私と同じ旧王族。巫女の末裔は、決まって強い魔力を宿して生まれてきますから。ここで私に並ぶことくらい、当然のことだと思っているでしょうね」


 旧王族は三家ある。ジェナがその末裔である月の巫女に、月とはまた他の国家の王族として君臨していた太陽の巫女、嵐の巫女である。

 早口気味の返答からすると、月の巫女と太陽の巫女の間には因縁でもあるのか。歴史を考えてみると、今あるこの国は太陽の巫女が主導となって作ったものだということを思い出して、納得した。ジェナが太陽の家系を目の敵にするのも仕方がない。


 目の前のジェナのこと、そして遠い歴史のことを考えていたキリノ。ほとんど空になったパンケーキ皿からわずかな量のホイップクリームをフォークで何気なく集めて舐めていたが、この直後、それを中断せざるを得なくなる。


「やっと会えた……! 会いたかったよ、キリノちゃんっ!」


 そんな声がしたかと思うと、いきなり何者かに背後から抱きつかれる。母親の時も不意を突いて抱きつかれたが、今度はその時と感触が違う。この気配は、キリノの中に本能的な敵意として刻まれている『あれ』だ。


「な、き、貴様」

「忘れちゃった……? 私だよ、カリンだよ! ほら、シャイニーフレアの!」


 輝かしい金髪に、青空のような澄んだ青い目。

 ──魔法少女シャイニーフレア。振り向くと、忌々しきあの女の顔がそこにあった。思わず手にしていたフォークを反撃に振りかざしかけ、踏みとどまってその場にそっと置き、眉間に皺を寄せながら答えた。


「忘れるわけがなかろうが! それ以前に、なぜ貴様がここにいる!」

「わかんない。キリノちゃんと全力で決着をつけるぞ! って言う時に、まだ必殺技撃ってないのに眩しくなって」


 カリンが語るこちら側の世界に転移させられる直前の最後の記憶は、キリノのものと全く同じだ。ただ、あの光がフレアに由来するものでないことは確かになった、のだろうか。


「ん? ちょっと待て。まさか、貴様本人なのか?」

「そうだよ。あ、カリンは同じだけど、苗字は変わってサンシャインね。フルで言うと『カリン・サンシャイン』! いい名前でしょ!」


 当然のように受け入れてしまっていたが、よく考えればおかしな話だ。ジェナはよく似た魔法少女とは別人だが、カリンは本物。キリノとカリンだけがこちら側に飛ばされた、ということなのか。


「……あ。よく考えたら、キリノちゃんも本物だね。ジェナちゃんもテュエラちゃんもそっくりさんだったのに」


 カリンとキリノであったことは、何か意味があるのだろうか。それとも、ただ単に超常現象に巻き込まれただけなのか。

 答えの出ない話をついつい考えてしまい、また嬉々として話し続けるカリンの相手をしていると、2人で盛り上がっているところ悪いのですがとジェナの声がした。


「まぁ……太陽の巫女とお知り合いだったなんて」

「知り合いというか、腐れ縁というか、宿敵というか」

「えぇ!? 友達だよ、友達!」


 相手はネビュリムの希望をことごとく打ち砕いてきた魔法少女。そして、ジェナも先の様子を見るに太陽の巫女は敵と認識している。にも関わらず、双方の心の底の敵意を気にせず笑うのが、このカリンという女だった。


「嬉しいなぁ、受験番号近くの人たち、みんな初対面だったんだもん。2人に会えて安心したよ」

「……ジェナとカリンも知り合いなのか?」

「うん。1ヶ月くらい前に巫女の家系で会合があったから、その時にね」

「……こうして言葉を交わすのは初めてです。初対面ではないだけで安心には足らないと思いますが」


 指摘されてもなんのことかわからない顔をして首をかしげ、まあいいやと思考を投げ捨てるカリン。その口からは次から次へと他愛もない話題が出てきて、試験が全員分終わって学園側から帰るように言われるまで、キリノとジェナは振り回されっぱなしになるのだった。

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