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第3話『第120回入学試験』

「その時のお父様の顔ったら……あら、もうこんな時間でしたか」


 ジェナと話を弾ませているうちにかなり時間が経っていたらしい。野次馬たちも解散し、各々の席に座っており、隣や前後と少しだけ話している。

 そして教室の前方には、魔法で遠方の景色を映し出すための、言わば魔法モニターが4つも設置されている。先程前方で大人たちが作業していたのは、これの用意だったようだ。


「もうすぐ試験開始時間です。あの場所に、学長の演説や試験の様子が映るようですね」


 キリノがぼんやりとモニターを眺めていると、隣のジェナは腕に着けた時計を見せ、軽く説明してくれる。やはりそういうものかと納得し、キリノも開始時刻を大人しく待つことにした。


 やがてジェナの時計の秒針が12を通り過ぎ、その時、モニターがついに映像を映し出す。映像は4台全て同じもので、この魔法学校の広い校庭の、学校関係者が待機するためのスペースのものだった。そこに机と椅子とが設置され、中央に女性が腰掛けている。

 水色の髪を肩のあたりで二つ結びにし、その毛先を七色に染めたヘアカラーが特徴の、派手好きそうな人だ。彼女はテストのために軽く発声し、全受験者に向かって話し出す。


「あー、テストテスト。ただいま音声魔法のテスト中……うん、よさそうだね。やぁやぁ魔法使いのタマゴのみんな、お待たせしました! カーム魔法学校第120回選抜試験、そろそろ始めたいと思います!」


 笑顔で話す彼女の映るモニターを、教室の全員が食い入るように見つめている。特にジェナはかなり気合いが入っているらしく、既に凛々しい顔でいる。キリノも軽く周囲の様子を見たあとは、また中継に視線を戻した。


「私はこの学校の教師で学長代理の『シエルカ・セブンカラーズ』って言います。学長がこういうところで喋るの拒否ったので、なんか代役やらされてます」


 若干なんで自分がやるんだよという気持ちの感じられる口振りだ。


「ま、それはそれとして、試験を始める前にルール説明だね。ルールは簡単なんだけど、よく聞いて、後悔のないようにしてね」


 シエルカはそう言いながら、指でくるくると宙に紋様を描く。それが合図になって映像の角度が切り替わり、画面には石で出来た体高3mほどの巨人が複数体並んで現れた。


「1分間、このゴーレムに向かって魔法を使ってもらいます。ただそれだけ。この子は魔力の解析もしてくれるスグレモノだけど、自動修復もあるしそう簡単に壊れないから、安心して全力を出してほしいな。

 あ、壊しても弁償とかはないし予備も全然あるから! そこも大丈夫!」


 ただ魔法を使って、あのゴーレムを倒せばいい。倒せずとも、魔力の解析を行い、有望かを判定するのだろう。単純な話だ。気楽に構えようと、キリノは椅子の座り方を楽な体勢に変えた。


「試験は16人ぶん並行します。だだっ広い敷地の有効活用だね。中継もしっかり全部お届けするよ」


 その分フィールドは狭くなっているが、奥に見える観客席に囲まれた闘技場は、見たところコンサートホールくらいの大きさだろうか。狭すぎることを心配する必要はさほどないはずだ。


「それじゃ、1番から16番の子は会場入りをお願いします! 皆様、ご健闘を!」


 映像が終わった時、教室は一気に緊張した空気に包まれていた。

 ジェナとキリノのいるこの待合室は200番台の終盤の受験者が集められており、出番まではまだそこそこの時間がある。16人ずつ行うとしても、準備の時間も含めれば長いだろう。それまでは他受験者の結果でも見て、どのくらいセーブすればいい具合なのかを考えておこう。


「野次馬を気にしなかったのもそうですが……緊張してないんですね、キリノさん」


 そう言うジェナは平静を保っているように見えて、手が震えている。キリノが手元を見ていることに気づき、手元を隠して深呼吸したものの、作り笑いは少しぎこちない。


「……良ければ、だけど。他の人の試験の様子とか、解説してくれないか」


 それでジェナの緊張がほぐれればいいと思ってした提案に、彼女は気を遣われていると理解しつつ、頷いた。


「えぇ、そうですね。審査員と私、もちろん貴方とも価値観は異なるでしょうから。そういうのも、面白いでしょう」


 やがてゴーレムの準備が終わったらしく、モニターに動きがあった。まず4つそれぞれが4分割に表示が変わり、同時に16人ぶんを中継するための仕様となった。そして、音声で高らかにシエルカの声がする。


「またまたお待たせしました! 実況は私、シエルカ・セブンカラーズ! 解説はもちろんこの方! シエルカ・セブンカラーズでお送りします!

 それではカーム魔法学校第120回選抜試験、開幕ですっ!!」


 ◇


 試験開始から1時間ほどが経過し、既に200人以上が試験を終えた。その殆どが必死にゴーレムに立ち向かったものの、しかし1分ではなんとか多少のダメージを与えた程度で時間切れとなっていた。育成前の見習いならこれが十分かもしれない。中にはゴーレムの攻撃行動にやられ、医務室へと運ばれていく者も何人かはみられた。


 一方で、数名の成績優秀者は高い身体能力や魔力を発揮してかなり魅せてくれており、ジェナも目をつけ褒めていた。

 とはいえ、キリノの目的はここで成績優秀者として評価されることじゃない。ラスボスとして、今は息を潜めるのが正しいはず。


 今は教室の全員が呼ばれ、ジェナとともに会場付近の控え室で待っている。ここにもしっかりモニターがあって、試験の様子は見られるようだ。先程野次馬の中に混じっていた者たちが頑張っているのを眺める中、隣にいたジェナがふと立ち上がる。


「それでは、行ってきますわね」

「行ってらっしゃい。楽しみにしてる」


 緊張も十分ほぐれたらしく、最初の作り笑いに比べるとかなり柔らかい笑顔になった。そして息を整え、決戦の舞台に赴く後ろ姿を見送った。

 キリノの出番はジェナの次だ。この部屋で、彼女の活躍を見守ることにしよう。


 モニターには次の受験者のための準備の様子が映っている。少しするとそこにジェナの姿も加わって、準備が終わると開幕を告げる号砲が鳴った。


 人々が固唾を飲んでモニターを見つめる中、号砲と同時にジェナが動き出す。真っ先にゴーレムを指差し、指先から放った黒い弾丸で攻撃。大きなダメージを与えられないが、その後も小規模な攻撃を切らさず、回避も続けながら立ち回る。


 徐々にその攻撃は派手になっていき、遠距離攻撃だけでなく距離を詰めて戦うようになる。中でも、脚に纏わせた魔力を刃にして放つハイキックに続けて組み付いたままエネルギー弾を直で叩きつけた時にはゴーレムの肩が砕け、待合室では歓声があがった。


 この時点で20秒が経過。ジェナの黒い魔力は徐々に強く大きくなっていく。黒のオーラを纏った拳が突き刺さり、よろめくゴーレムへの追撃。反撃に振るわれる石の腕をするりとかわし、投げつけられる岩を魔力の弾丸で砕き、その戦闘スタイルは舞を見ているかのようだった。


 40秒経過。鮮やかに、軽やかに続き盛り上がっていくジェナの舞に、ゴーレムの自動修復は追いつかなくなっていき、全身にヒビが目立ち始める。それを好機と見たジェナは、振りかぶった手のひらをゴーレムの胴に叩き込む。瞬間周囲にも魔力の衝撃波が放たれ、全ての魔力の波長が狂わされる。これによってゴーレムの全ての動作が一時停止され、再起動までは完全に隙だらけ。ジェナはそれまでに溜めてきた魔力全てを動員し、全力の拳として放つ。


「はぁッ──!!」


 ゴーレムの内部で爆発が起こり、全身のヒビ割れのままに爆散が始まる。ジェナの周囲は魔力の防壁で覆われその破片は届かず、炎と煙が収まった時、そこにジェナは何事も無かったかのように、静かに佇んでいた。


「ついに! 今回初の完全破壊達成者が出たッ! 月の巫女の末裔、その名もジェナ・N・ルナライト! さあ皆、彼女に続け!」


 シエルカが高らかに叫び、会場は歓声に包まれた。その瞬間、画面の向こうのジェナがこちらに目を向けたような気がした。

 普通に考えれば、カメラに相当するものがある場所をちらりと流し見しただけだ。だが、今の瞳はキリノに向けられていた、ような。


「……そうか。ここで本気を出さなければ……友達に失礼だな」


 係の人がキリノたちの入場を促し、周囲の受験者は各々緊張をほぐそうと試行錯誤している中、キリノはそうとだけ呟いて、会場へと歩き出す。

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