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第20話『遠征授業・作戦会議』

 太陽の巫女に届いた殺害予告。警備が厳重だったのは、その予告が届いたせいだという。確かに、それで王宮が警戒態勢になるのはわかる。だが、次代の継承者であるカリンの立ち入りを拒否するとは、何を考えているんだ。

 なによりも驚いているのはカリン自身だろう。彼女は呆然として、次に口を開いたのはジェナだった。


「私が口出しできるようなことではないかもしれませんが……それはおかしいでしょう。この状況なら、カリンさんを全力で隠すべきでは?」


 ジェナはそれに続けて、タイミングから見て、どこかからカリンの帰郷の情報を得た者が、彼女をターゲットとして予告を送り付けた可能性すらあるとした。しかし、兵士たちもそんなことを自分たちに言われてもと困っている様子だ。


「1回、そのミドナ様に報告してきたらどうですか? 立ち入り禁止のカリン様が来ましたよ〜って」


 続くテュエラの提案に、兵士のひとりがそれを受け入れ、王宮の中に走っていった。ただでさえさっきの甘いものの責め苦で万全とは言い難いのに、またこうして気が滅入るような面倒事があるとは。嫌な巡り合わせだ、運が悪いと言ってもいいだろう。

 しばらくして、ようやく報告に行っていた兵士が戻ってくる。その傍らには、赤い髪のサイドテールに、不機嫌そうな三白眼が特徴的な少女が共に歩いていた。彼女を見つけるや否や、カリンは我に返って、彼女の名を呼ぶ。


「ミドナちゃんっ!」


 少女、ミドナはカリンたちの方を一瞥すると、見るからに嫌そうに顔を顰め、踵を返して王宮の中に帰っていこうとする。慌ててカリンが追いすがり、彼女の手を握って引き止めた。


「待ってよミドナちゃん、なんで兵士の人達に無茶ぶりしたの? 私、なにかした?」

「……うるさいわね。私もお母様も忙しいの。会談なんていいから、さっさと災害獣だけ倒して帰りなさいよ」


 吐き捨てるミドナ。他の特待クラスの少女たちのことも、睨みつけるように顔を見ると、小さく舌打ちしていた。誰を見て舌打ちしたのやら、とにかく感じの悪い女だ。


「……カリン。あのミドナって子、怒ってるのか?」

「ううん、きっと、なにか隠してるんだと思う。どうしたんだろう……」


 普段のミドナを知らない以上、カリンの意見を信じるしかないだろう。彼女によれば、ミドナの態度はわざとつらく当たっているように思えるらしい。わざわざそんなことをする理由として、真っ先に思い当たるものといえば、あの殺害予告のことだった。


「ミドナさん。もしかして、先日届いたという脅迫状と、なにか関係があるのでは? 例えば、犯人の狙いはこの王宮だと察しているとか」

「……っ」


 続くジェナからの問いかけに、言葉を詰まらせるミドナ。図星のような反応だ。それでカリンを王宮から遠ざけようとしているのなら、ある種姉妹想いと言えるかもしれないが。


「いいから! 早く出ていって! 会談は私からなくなったって言っておくから……」

「太陽の巫女様、準備が整いました。魔法学校特待クラスの皆様、シエルカ様も奥でお待ちですよ」

「う、な、なんで無駄に早いのよっ! こんな時だけっ!」


 想定外のタイミングで会談が始まろうというのに文句を吐くミドナ。しかし、彼女よりも当然、現在国のトップである母親の方が立場が強いわけで。これは個人同士ではなく、魔法学校と旧太陽の国である太陽地域との組織同士の会談だ。ミドナが介入する余地もなく、キリノたちは王宮の中に迎え入れられる。ミドナは自分にできるせめてもの抵抗なのか、彼女も後ろについて歩いてきていた。


「……あれ? シエルカ先生は?」

「シエルカ様でしたら、この後は生徒に任せるとの言伝です」

「え?」


 昔馴染みとの交流がそんなに楽しかったのか。あの自由人のシエルカだから、完全に有り得ないわけではないが……仕事には真面目なことを思うと違和感が残る。しかし、気にしている暇もなく、応接間に着くと、互いに向かい合って座る。会談の始まりだった。


「あらおかえりなさい、カリン。魔法学校の皆さんも、お待ちしておりました」


 太陽の巫女は物腰柔らかく上品な女性だった。クラスメイトたちは兵士に促されるまま、長いソファを思いっきり使って全員並んで座り、彼女の話を聞く。


「ふふ……貴方たちが特待クラスの皆さんですね。カリンと仲良くしてくれてありがとう」


 そうして感謝を述べた後、彼女は本題に入っていく。


「今回は遠征授業という形で、我らのイルミナへようこそおいでくださいました。実の所、イルミナは現在いくつかの問題に直面しておりまして……」


 太陽の巫女は秘書らしき人物をジェスチャーで呼び、その人から渡してもらった資料をキリノたちの目の前に広げた。


「まずは災害獣の話ですね。現在確認されているのは1体のみ。現在の災数は3です。しかし成長が速く、災数4以上の規模となるのも時間の問題かと。それと……カリン。貴方が注意すべきことがもう1つ」

「殺害予告ですか」

「……はい。まだどこにも公表していませんが……こちらを」


 太陽の巫女が取り出したのは1枚の紙だった。なにやら文章がぎゅうぎゅうに詰め込まれており、まず公文書ではないだろう。目の前に置かれたその紙に、皆で目を通す。


「うわっ……」

「ひっ……!?」


 そこには太陽の巫女、ひいてはその一族への殺害予告がびっしりと書かれており、その執念すら感じる様には、テュエラが眉をひそめ、クラウディアが小さく悲鳴をあげるほどだった。


「それでこんなに人集めてるんだ。まあ、ちょっと悪戯にしては気持ち悪いしね……」


 カリンでさえこう反応するのだから相当だ。

 こうなると、国の魔法使いなんかは太陽の巫女の身辺警護から動けない。そこで、災害獣への対処は学生への課題として解決してもらうことにした、というわけか。

 この場に異論のある者はいなかった。それから話は今回の災害獣の特徴や、分析結果などに話が移っていく。

 キリノはそれを聞き流し、周囲を見回して、兵団の中の有望な魔法使いの気配を探すなどして時間を潰していた。そこまで聞く必要はないだろうという判断、というより、単純に太陽の巫女の話が長くて面倒だったからだ。

 話が終わると、潜伏場所と予測される弱点あたりを軽くクラスメイトたちと復唱して確認したら、早速出発だ。応接間を後にして、王宮の外に出る。

 先生がいないため魔力車は動かせないが、飛行はできるし、まあなんとかなるだろう。なんて楽観的にしていたところ、それを引き止めたのはまたしてもミドナだった。


「待ちなさい。月の巫女と、そこの霧の魔法使い。私のところに残りなさい。貴方たちに話したいことがあるわ」

「話したいこと?」

「……あの脅迫状の犯人の話よ。ただ、どうしても長くなるし。場合によっては犯人が襲ってくるかもしれないから……災害獣退治からは離れてもらうことになってしまうけど。4人でも余裕でしょ?」


 キリノとジェナが離れたところで、災数3の相手程度なら戦力は問題ないはず。カリンたちとのアイコンタクトで、お前たちなら大丈夫だろう、信じてるぞ、くらいのニュアンスを伝えると、ジェナの手を引いてミドナの方に歩み寄った。


「それでこそよ。さ、退治組は早く行った方がいいわよ。いきなり目が覚めて暴れだしたら大変でしょ?」

「あ、でも、先生とか……」

「まあまあ。ミドナさんにはミドナさんの考えがあるんですよ。自分らは授業完遂しちゃいましょう」


 引っかかることがあるらしいカリンの肩に手を置き、一緒に行くように促すテュエラ。カリンもまだ残ろうとしていたが、黙って背中を押すネージュにそのまま連れていかれた。


「さて、犯人の話をしましょうか。見当はついていたけど……私が下手に動くとお母様の活動に響くから、放置せざるを得なかったのよ」

「それはわかったが。なぜ、私たち2人を選んで呼びつけたんだ」

「……精神力の強そうな順よ」


 キリノはジェナと顔を見合わせた。まあ、確かに、他のメンバーよりは強いだろうか。


「それはいいでしょ。本題よ。殺害予告の犯人はわかってるの。近頃街で噂の教団よ。『暗闇の花』……とか、そんな名前だったかしら。巫女の存在を否定し、別の存在を崇めてるらしいけど、ここまでされたらさすがに文句つけないわけにはいかないわよね」


 信じるものが違うからといって脅迫するのはよくないことだ。元悪の組織のボス的には、耳の痛い話ではあるが、今は棚に上げておく。


「その暗闇の花って組織に殴り込みをかけるってことですね」

「そうなるわね。荒事は得意そうだから、心配はしてないわ。できれば、私達の方もすぐに出発したいくらい」


 元より、この後すぐに災害獣退治に行く予定だったのだ。その相手がちょっと人間に変わっただけで、特別な準備もない。ジェナとともに頷き、ミドナは初めて微笑みを見せた。


「よし、いいわね。それなら、すぐに出発しましょう。奴らの本拠地!」


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