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第13話『遠征授業 出発』

 朝の特待クラスは、大抵ジェナかネージュが一番に教室に着き、その後にテュエラ、キリノとクラウディア、カリンと続いて集合する。これは単純に早起きかどうかの順番だが、今日のところは違っていた。


「ん? ネージュはどうした」

「どうしたんでしょうねー、まだ来てないみたいですけど」


 隣のテュエラに聞いてみても、特に情報はないようだ。


 いつもならジェナと一番乗りを争うネージュが来ていないということで、キリノは昨日のことを思い出す。

 もう少し歩み寄ってみると決意したネージュは、合流したカリンとクラウディアと共に、日が暮れるまで市場で遊び回った。ネージュが買い込んだパンもしっかり消費され、大荷物はみんなで分けて持ち、キリノも疲れて夜にはぐっすりだった。それが今日に響いている可能性は、否定はできまい。


「おっはよー! みんな!」

「おはようございます」


 やがて扉が開いて、カリンが教室に現れる。その隣にはネージュもおり、これで全員が揃う。カリンが来るには早く、ネージュが来るには遅い時間だ。足して割ったのか、なんて考えていると、自分の席に着いたネージュからまだ何も聞いていないのに答えが飛んでくる。


「カリンを起こしていた。寝起き、弱すぎ」


 昨日もそうだったし、元々日本の学校でも遅刻常習犯だったカリン。ここでも朝に弱いのは間違いない。より驚くべきは、ネージュが彼女の朝の支度を手伝い、自分の登校時間を遅らせてまでカリンを間に合わせたことか。


「ジェナちゃんもおはよう! 昨日ねー、ネージュちゃんがねー!」

「えぇ、それはよかったですね」


 カリン本人はというと、何事もなかったかのように教室前方でジェナに絡みに行っていた。以前のネージュといい、どうしてこうも彼女は距離を取られるとより詰めてくるのか。あれは一生治らないだろう。


「……なんというか、あの女は自分の道を行く奴なんだ。これからも寝坊は続くだろう」

「大丈夫。そのうち、私の方が起こし慣れる」


 それで大丈夫だと言えるのか。ネージュがいいと言うなら、キリノはそれ以上突っ込まないが。


「あ、あの、よければお手伝いしましょうか……?」


 控えめな声で、小さく手を挙げているクラウディア。優しいのはいいことだが、それだと問題が発生する。


「朝からクラウディアがいないと私が寂しくなる。私の世話をしてくれ」

「えっ、あ、えっ!? は、はいっ! キリノさんのお世話、しますっ!」


 目を丸くして顔が赤くなるクラウディア。机を枕代わりにしながら見ていたテュエラはその様を茶化して笑う。


「また口説き文句みたいなこと言ってますねぇ。キリノさ〜ん、自分とは遊びだったんですか〜?」

「そういうわけでは……」


 そうこう話しているうち、授業が始まる時間がやってくる。普段通りシエルカが現れて、カリンに負けず劣らず明るい挨拶で輝く白い歯を見せた後、教卓に立って朝の会を始めると宣言する。


「さて! 今日の授業は予定変更! 全部なし! いきなりだけど、遠征するよ!」


 教室が一瞬静まり返った。突然すぎて反応が遅れたのだ。まず困惑が最初に来て、次に遠征を楽しみにする感情が湧いてくる。入学から学校内でトレーニングを積み続けて、そろそろ新しい景色が見たかったところだ。


「内容は災害獣の退治と巣の破壊。予想最大災数は3だね。みんななら大丈夫なくらいかな」


 ついに本物の災害獣と対峙することになる。この世界を支配するのなら、災害獣は目下の邪魔物となるだろうか。今回で相手のことも調べておきたい。


「行先は魔法学校の北東に位置する都市、ヴェントリスだよ。旧所属は嵐の国。名前は知ってる、って人もいると思う」

「……ヴェントリスかぁ」


 キリノはピンとこなかったが、テュエラはぽつりとその名を呟いた。嵐の国ということで、訪れたことがあるのかと思いその顔を覗くと、テュエラの表情は暗かった。


「テュエラ……?」

「ちょっと昔を思い出しただけですよ、後で話しますね」


 その後の彼女はなにも言わず、ただシエルカのする説明を聞いていた。どうやらここからヴェントリスへは日帰りで行ける距離のようで、遠征もいうより遠足のような日程だった。


「今回はクラスを半分に分けて、3人で行動してもらうよ。私は1人しかいないけど、引率をしてくれる先生は呼んであるからね」


 シエルカが扉の方を指すと、普段の朝のシエルカと同様の勢いで扉を開け放ち、七色のグラデーションの目立つ髪を靡かせ、女性が1人現れる。

 ツインテールでシエルカよりも幼い見た目だが、彼女も立派な学校の教師であり、既に何度か授業を受けている相手だ。


「というわけで、同行してくれる先生を紹介します! 魔法道具研究担当のオーロラ先生です!」

「みんな、今日も元気? オーロラちゃん先生は今日も元気だよっ! ねー、シエルカ!」

「ねー、オーロラちゃん!」


 オーロラ先生は普段、魔法道具の仕組みを扱う魔法物理学や災害獣に関する生物学を教えている。授業を聞いているとシエルカとノリが同じで段々胃もたれしてくるタイプだ。そんな2人が仲のいい同期で親友なのは必然とも言え、同時に2人が揃うのは生徒がついていけなくなることを示している。


「いやぁ、オーロラちゃんも大変なのに頼んじゃってごめんね。月の女王様からの無茶ぶりとかまだ残ってたよね」

「う、なんと思い出したくない話……いや、それよりそれより。積もる話はあるんだけど、先にチーム決めしちゃおうよ」


 さすがにここで雑談を始めるのは控え、遠征前に決めなくてはならない班をここで決めることに。本来ならランダムなんだろうが、キリノは周囲を見て、いつもの状態に輪をかけて小さくなっているクラウディアのことを発見。彼女のことを考え、挙手して発言の許可を求めた。


「どうかしたかな、キリノちゃん」

「クラウディアは本格的な戦闘には精神的に負担が大きいでしょう。自分と同じ班にすることを提案します」


 一応、同室である以上クラウディアと1番接しているのはキリノだ。こう言うと自惚れかもしれないが、魔法を考慮すれば彼女のカバーに回るなら自分が最適解だと判断する。


「そ、そんな、私、キリノさんにご迷惑をかけてしまうなんて、その……私なら大丈夫です。死ぬなら1人で死にますから」


 その言葉はあまりにも悲しい。歯を食いしばって、心の中に思い浮かぶ彼女への言葉を1つ1つ選びながら、笑顔でごまかす彼女の目を見て語りかける。


「迷惑じゃないし、死なせないよ。強がらなくていいように、私がそばにいる」


 当然ながらクラス中の視線が集まっている中で、またしばらく皆が呆然とする。最初に聞こえたのはテュエラのため息だった。


「なんでこうも聞いてる方が恥ずかしくなるようなことが咄嗟に出るもんなんでしょ……で、先生、この告白聞いてどうするんです?」

「おっけー、おっけー。その仲の睦まじさを重んじて、提案を受け入れるよ。あと1人はそうだね、テュエラちゃんに頼もうかな。2人の案内をしてあげて」

「……わかりました。せっかくの帰郷ですしねぇ」

「みんな、異論はないかな?」


 シエルカの問い掛けに、カリンは元気のいい返事で、ジェナは静かな返事で、ネージュは黙って頷いて肯定した。このクラスで音量最大と消音状態を引き合わせれば、それはもちろんこうなる。

 かくして、班分けはキリノ・クラウディア・テュエラの1班と、カリン・ジェナ・ネージュの2班に決定した。


「そうと決まればすぐにでも出発! 災害獣の前に時間との戦いだぞ〜!」


 特に時間制限のある事柄はないのに煽るシエルカと、彼女と手を繋いでスキップするオーロラに先導され、特待クラスの面々は校舎裏にまで連れられてきた後、魔法で動く車両に乗り込んだ。ここから既に班分けの通りに2台に分かれての乗車となり、キリノたちの方はオーロラが運転手のようだ。


「さっきも言ってたけど、ヴェントリスはそれほど遠くないから。魔力車に乗ったつもりで安心して!」


 つもりではなく実際に乗っているのだが。キリノはやはりシエルカだけでなくオーロラにもついていけないなと思いつつ、やがて発進した車両に揺られる。

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