プロローグ『最終決戦! 霧の女王VSフューチャーフレア!』
久しぶりの新作です。
激しい衝撃波とともに爆発音が鳴り響き、周囲を煙が埋め尽くす。最後の敵──霧の女王の放った光線の威力は、決戦に臨む魔法少女たちを吹き飛ばすには十分であった。
壁に叩きつけられ、炎の魔法少女・シャイニーフレアは呻き声をあげる。口の端に血が滲み、それを拭って立ち上がろうとする。息は荒く、視界はゼロだ。爆発により生じた土煙は敵の姿も、味方の姿も隠している。ただ身構えて、友人たる魔法少女たちの無事を願った。
やがて土煙が晴れ、爆撃によって抉られた大地と、倒れ伏す仲間が目に映る。その名を叫びたくなるのをぐっと堪え、フレアは目の前に立つ最大の敵を見据える。
「ハハハッ、どうだ、私のネビュリウム光線の味は。貴様の仲間たちとやらは一撃でこの通り……残るはお前一人だけだ、シャイニーフレア!」
幼い少女の姿に似合わぬ悪意の笑みを浮かべ、女王は笑ってみせた。対するフレアはなにも言わず、その燃え盛る色の瞳で見つめ返すのみ。それが面白くない女王には、沈黙が耐えられず、少し後にはまた彼女の声が響く。
「……向かってくるがいい。今すぐに蹴散らしてやる。それとも、ネビュリウム光線の餌食になって蒸発するのがお好みか」
「キリノちゃん。やめようよ、こんなこと」
キリノ──その名は、霧の女王がその正体を隠し、フレアたちに接近した時の名前だった。同じ学校に転校生として現れ、友人として過ごした日々が、フレアの中の闘志を哀れみに近いものに変えている。
「何度も言っているだろうが! 私は恵比須キリノなんかじゃない。私はネビュリムの支配者、霧の女王だ! なぜそれを認めない!」
「ううん。貴方はキリノちゃんだよ。もちろん私たちの敵なのも、本当の貴方だと思う。けど、私たちは心から友達だったはず」
「あれは友情ごっこに過ぎん! 現に貴様らを攻撃してるだろう、この光景が見えないのか貴様は!」
どれだけ言葉を重ねてもその眼差しを曲げないフレアに、痺れを切らした女王が再び光線のために周囲を覆う暗い霧を圧縮し始める。先の言葉の通り、彼女は霧状生命体ネビュリムの支配者。即ち、周囲に存在する霧は全て彼女の力の源となる。
だが、魔法少女たちだって、その瞬間に何も動かないわけではなかった。倒れていた二人の仲間もまた、フレアのように立ち上がる。そして、よろめきながらも彼女のもとへ歩み寄り、その手を重ね合う。
「行きましょう……フレア。私たちの、最後の変身!」
「キリノの奴の目、覚まさせてやらなくちゃ、ですもんね」
「……うん。みんな、力を貸して!」
一瞬の淡い輝きを放ち、それを最後に、二人は魔法少女からの変身を解除し、その場に倒れ込んでしまう。しかし、彼女らの魔力は確かにフレアへと渡されていた。三人の魔法少女の力を束ね、フレアの姿は更なる究極の形態へと変わっていく。全身を眩い光に包み、赤い魔法少女の衣装を、少しずつ純白の衣装に変換してゆく。
その光の中心へと、今度は充填を終えた女王が動いた。一気に距離を詰め、その手にした高エネルギーを叩き込もうとする。逃さない、絶対にここで終わらせてやるという意志をもって、圧縮された魔の霧が、半ば恒星のようになりながらフレアへと叩きつけられる。
再び巻き起こる大爆発。爆心地には変身を解除した者もおり、彼女らももう生きてはいないだろう。手応えはあった。決まった、と女王が笑う。だが、その腕を掴み、光の中から白き姿の少女が現れる。
「なっ……い、今のを受けて、生きているのか!? いや、まさか、私のネビュリウム光線を、魔力壁によって無効化したというのか!?」
霧の女王は驚きを隠せない。フレアにも、倒れていた生身の二人にさえも新たな傷はついていない。それはつまり、攻撃が届かなかったのだ。地面を抉り、魔法少女を追い込むほどのエネルギーを以てしても。
「な、なんなのだ……その力は!」
「太陽……月……嵐。3つの光は絆の証、未来の証!
私の名はフューチャーフレア! キリノちゃん、話はぶっ飛ばしてから聞くからね──!」
腕を掴まれそうになり、慌てて振り払って飛び退く。しかしその直後、顔を上げた瞬間、既にフレアは眼前に迫っている。叩き込まれる蹴りにガードは間に合わず、今度は霧の女王の方が大きく吹き飛ばされる。それでも空中で体勢を整えた女王は反撃に周囲の霧を操り、フレアを捕縛しようと試みるが、一度捕まえたはずの彼女が力を込めて振り払い、そのまま距離を詰めてくるのを見て捕縛は諦める。
ならばと霧を生物の形に変え、霧でできた竜を迎撃に向かわせる。竜が吐くのは高圧の水流のブレスだ。フレアを押し流そうと迫る大量の水。それをフレアは超高熱の炎を纏った拳で迎え撃ち、拳の威力と炎の力で竜ごと消滅させてみせた。
「出鱈目な……ッ!」
そのまま突っ込んでくる相手の拳をどうにかかわし、さらに拳から放たれた火球も転がって避け、負けじと霧の魔力を纏わせた蹴りを繰り出す。しかし女王の蹴りは決まらず、再びフレアの猛攻が続いた。二発連続のボディブローは腕で防ぎ、飛び蹴りは霧の変わり身を作り避け、回し蹴りを屈んでかわしたところで、先程避けたはずの火球が上空から降り注ぎ、周囲の霧を自分の下に集めての防御に切り替えた。
「っ、このままではまずいか……」
「──歯、食いしばってね」
「なッ、ぐはぁっ!?」
その防御を貫いて、フレア渾身の頭突きが霧の女王の脳天を貫いた。視界が一瞬白く飛んで、思考が途切れてしまう。目眩を振りほどいて立ち直るには時間が必要となり、それが大きな隙となって、敵に準備の隙を与えてしまう。
「フューチャークリスタル、セット! 一気に決めるよ!」
高まってゆく魔力の渦。迎撃のために霧を操ろうとするものの、先程の脳震盪でうまく動かせない。それならばと脚に力をこめようとして、ぐらついた。自分がかなり消耗していたことにこの時初めて気がついて、霧の女王は歯噛みするしかなかった。
天高く掲げられた指の先より、太陽の光が差し、その太陽光線が一点に集束、ひとつの極大の光の柱となる。全てを浄化する最大の輝きを前にして、周囲を包んでいたはずの霧は消え去って、光の前に霧の女王は取り残されてしまう。
「くっ、まだ、まだ……!」
方法を探す。迎撃には霧の魔力が集めきれない。避けるには脚が動かない。耐えきるのは無理だ。体を霧散させる技は魔法少女相手には無意味。命乞い、論外。フレアの対話に応じるのだって、女王のプライドが許さない。
「いくよ! 必殺、フューチャー・プラズマ──」
ああでもない、こうでもないと思考が回る中、また光が女王を包む。その中に抗えぬ何かを感じ取り、女王はこれがフレアの必殺技か、と半ば諦めの念を抱いてしまう。対するフレアの表情は驚きであったことを知らぬまま、諦めを振り払い、歯を食いしばり抵抗を試みるが、体は既にこの世界から消え去ろうとしている。
「散っていった同胞達のために……私は、私は……ッ!!」
最後にこの世界で女王が覚えたのは悔しさだった。その悔しさとフレアの驚きを光が呑み込んで、2人の少女の姿は消えていく。
その場に残されたのは、フレアの仲間たちと、戦いの余波でボロボロになった光景だけだった。