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ターニングポイント

人との出会いは一期一会、一度一度を大切に。とはよく言われる言葉ではあるが、人生前にも後にもこれほどこの言葉を実感したのは今回のみであろう。

草原の真ん中に一人佇む田中誠司は、そう思うのであった。



~~


俺の名前は田中誠司。

バイトで日々を食いつないでいる、しがない30歳である。


どこで道を踏み外したのかわからないが、気づけばフリーターになっていた。

2年前に上司のブラックさに嫌気がさして歯向かったところ、売り言葉に買い言葉、あれよあれよという間に退職していた。


当時の俺は、「上司に立ち向かう俺って勇者じゃね?」なんて心のどこかでは思っていたのかもしれないが、現実はただの平社員。

同僚から羨望されることもなく、出社最終日まで腫物扱いされた。

関わるなオーラをひしひしと感じた。


もちろん再就職も考え、ハロワにも通ったが、なんの技術もない30歳手前の男性、しかも前の会社で喧嘩して、辞職した物を雇ってくれるような物好きな会社はどこにも存在しなかった。


今日は10月2日。

そろそろ本格的に秋の兆しが見え始め、半袖で過ごすには少し肌寒くなってくる。


今日も今日とていつものコンビニで8時間日銭を稼いできた。

俺の住んでいる町はどちらかと言えば田舎寄りで、毎日の客もほとんど固定されている。

退職してからこのコンビニでバイトをし始め、早2年。

いつもコンビニに来るパチンコ好きのおじさんにはノータイムでタバコの好きな銘柄を渡すことなど造作もないことになっていた。


視線は常に下向きで、いつもの帰り道を帰る。

なんとなく、いつもは気にならないような古本屋に目が留まった。

木造の建物に、低い天井、数々の古本たちから発せられる微かなタバコのにおい。

いわゆる古い古本屋のそれであった。


俺はなぜか吸い寄せられるように店に入った。

ぶらぶらと店内を物色する。

最近の店では、本を売ろうとしてくる店員がいる店もあるが、この本屋にはもちろんいない。

店主もカウンターで本に没頭しているようだ。


本との出会いは不思議なもので、ふと手に取って気になったものが意外といい本だった、なんてことがよくある。

俺がその時手に取った本は、“豪運”という本だった。


会社をやめてからというもの、いろいろなものを失ってきた自分を嘲笑っているかのそうだった。

でも、なぜか気になる。


「すみません。これいくらですか?」


本に没頭していた店主はめんどくさそうに顔を上げ、「100円でいいよ」といった。

その後俺が百円玉をテーブルに置いたのを横目で確認するとまた本の世界に戻っていった。


俺も執拗に話しかけるのではなく、すぐに出て行った。


家に帰った俺は、その日のコンビ二の余り物の弁当を食べながらその本を読んだ。

普段本なんて一切読まない俺にはたかだか100ページほどしかない本を読むのにも一苦労であったが、どうにか眠たくなる前に読み終えることができた。


内容は何かつかみどころのない風水の話や食生活の話など、ネットで調べればすぐに出てきそうな内容のものであったが、まあ100円だしな、と特に何も気にも留めず、やっぱり本なんて読まなきゃよかったなと微かに思うのみであった。


風呂に入ったのち、俺は寝ることにした。


三日後、俺は死体になって発見されるだなんて誰も考えていなかっただろう。



≪LOG≫


〈魔導書との接触を確認、ナビゲーターの起動を開始。成功。〉

〈偽装状態”豪運のスキルブック”(偽名・豪運)の解読を開始。〉

〈解読率20%…40%…50%…80%…〉

〈100%の解読に成功。次にスキルの習得に移ります。成功〉

〈管理者001の介入、異物排除を確認。抵抗します。〉

〈抵抗失敗。スキル保有者田中誠司の死亡を確認。ナビゲーションを終了します。〉


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