踏み潰した蟻の数を覚えているか?
仄暗い穴から出られない
陽も当たらぬその場所で今日も
自傷癖が直らない蟻が蠢く
そんな蟻をこぞって掘り起こし
笑みを浮かべながら踏み潰す人
踏み潰された蟻の死骸を並べては
数を競って自慢する
意志を持たない存在
日々こうして蟻達は殺され
踏み潰した人達は次第に数を忘れる
「踏み潰した蟻の数を覚えているか?」
そんな問いを投げかけても聞く耳を持たず
だから何だと開き直る始末
そして中には
「あいつらは俺達に踏み潰される為だけに生きている」
……そんなこと言った奴もいたっけ
そしてそんな意見を肯定し
正論としてこの世は機能している
狂った世界
平等ではない命
何匹潰されても決して見向きもせず
命乞いをしても気付かない
辛うじて生きていようともその人らは容赦なく
踏み潰すのを止めはしない
蟻の命は、どの命よりも、軽い
名も知らない
顔も知らない
どんな蟻だったか
どんな生き方を今までしていたか
……忘れているだけだ
知っている人も中には居る筈なのに
そうした蟻が生まれた理由も
本当は知っているくせに
どれ程殺した?
どれ程そんな蟻を生み出した?
どれ程の蟻達に無関心を装った?
どれ程の蟻達の命乞いを
助けを
涙を
伸ばした手を
無視し続けた?
そうして今日もまた
新たな蟻が踏み潰され
無慈悲に死骸は積み重なり
弱者という山を築くのだろう
ふざけるな